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第百二十九話 叫び

 戦況は膠着していた。リンの居合は納刀の隙を考えると、少し距離がなくては使えない。前回闘ったリュナもAGEは高い部類だったが、まだ対抗できる程度の速度だった。

 しかし、ライトの速度はそれを優に超える。リンがステップでとった距離を、アーツも無しに詰め。鍔迫り合いの距離から離してくれない。今のリンならば、力任せに相手を飛ばす事で距離を稼ぐどころか、ライトのHP程度削れそうなものなのだが、


「チッ……」


 そうはいかない。牽制としての軽く速い斬撃は受け流され、本命は体の側面に回るように避けられる。


(動きが見切られている)


 どんな動作をするにも“起こり”がある。普通、武道ではその起こりを悟られないように、相手の起こりを悟るように修練を重ねるものだ。

 だが、ライトのスピードはその普通を強引にねじ伏せる。こちらが技を出しても見てから回避が間に合い。防御行動に出る前に、攻撃がヒットしてしまう。


「一体、どこまで私をおちょくる気! さっさと分身出したらどうなのよ!」


 思うように闘えない苛立ちから、リンは怒鳴る。STRの差も合って、彼女のHPは一割も減っていない。もっとライトがアーツを使っていればさらなる苦戦を強いられていただろう。特に、リュナ戦でも苦しめられた分身を使われれば戦況は大きく変わっていただろう。


「出させてみろよ。それとも、俺程度に勝てないのか? 久崎流、筆頭伝承者さん」

「このっ……!」


 それでもライトが分身を使う様子はない。ロングエッジでの疑似日本刀を構え、久崎流の動きで攻める。それを見るたびに、リンの心にはこのAWOの世界に入ってすぐの出来事を思い出す。

 信じていた久崎流で全く歯が立たなかったあの時、そして久崎流を捨て、この力に身を堕とした今。どちらにしても立ちふさがるのは目の前の男。今ならはっきりと分かる。言葉にすることを無意識に避けていたが、久崎凛は谷中光一に嫉妬、イラつき、そして憎悪にすら感じる黒い思いを抱いているのだ。

 そして、そんな感情を糧に彼女に植えられた力は大きく育っていく。それを埋め込んだ本人の予想すら超えて、




「ボクも予想外なこの成長。さあ、キミはどこまで対応できるのかな」



 試合の中継映像を流す酒場で、金髪の男はそう小さく呟くのであった。


(もっと、力ヲ!!)

「! こいつは……中々ハードな事になりそうだ……」


 リンの瞳が完全に紅黒に染まった。その瞬間に、彼女から質量を持ったオーラが噴き出した。白目に部分はとうになく、光すら吸い込むようなそれは正面から見るだけで常人の正気を削る。それだけではない。彼女の影と、紅黒のオーラが混ざり、彼女の周りを守るようにうねる。

 ライトがハイステップを使い、全力でバックステップしなければそれにくし刺しになっていただろう。


(さて、どう攻めたものか)


 明らかに力を増したリンを見て、刀を握り直しながら集中コンストレイションの練度を上げていくライト。

 リンがまず最初にとった行動は単純、


『おおっと!! これはリン選手、自分のオーラで自分を貫きました!?』


 紅黒のオーラで自分の腹部を貫いた。当然HPは大きく削られ、半分を割る。そして、その胸から滴り落ちる血のエフェクト。その場面だけを見ればただの自爆。だが、地面に滴る血を影が吸い、霧散する血は彼女の持つ刀へと集まっていく。


血糸包陣けっしほうじん


 刀に纏わりつくのは、無数の細く紅黒の糸。刀を振るうたびにライトのいる空間を覆うように血の糸が展開されていく。そして、


縛道血鎖ばくどうけっさ!!!」


 動きを制限したところに、本命が来た。本身のオーラと飛ぶ斬撃が地面を抉りながら進み、盛大な土煙を上げて彼を飲み込んだ。



「ハァハァ……これで、どう」


 文字通り自身の身を削った大技を放ったリンは、肩で息をしながらもその顔は満足気だ。だが、次の瞬間、彼女は目を見開いた。 


「なん……で、なんで! あんたは! その姿で! その構えでそこにいるのよ!」


 衣服が切り裂かれ、その体も細かな傷が目立ちHPは既に風前の灯。しかし、ライトは立っていた。しかもその手に持つのは疑似日本刀であり、久崎凛には分かる。今、谷中光一は久崎流の動きで今の猛攻をしのいだのだ。


「これが……久崎流だ」

「それがなによ! 私より強いからって嫌み!」


 リンは叫ぶ。だが、ライトの返答は彼女の想像とは違っていた。


「違う!」

「!?」

「お前は! 俺なんかよりもっとうまく久崎流を使えただろうが! そんなもんに吞まれてるんじゃねぇよ!!」

 



 


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