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第十三話 ちらつく光景と百薬の長

 夜。見事第一のボスをソロ討伐したライトは、第一の町の酒場で夕食を食べていた。

 ただ、ボスのソロ討伐という偉業を成し遂げていながら、ライトの顔は一面に明るいとは言えなかった。頭の中にちらつくのは、


(アイツ……セイクだったら間に合ったのかね)


 この酒場で争った少年、キアンの事であった。

 ここ数日、ライトはふとした拍子にキアン達のパーティーを助けた事を思い出していた。自分が責められる道理はない。頭では分かっていても、間に合わなかったのは事実である。

 さらに、¨セイクだったら間に合ったかもしれない¨。

 この、明確な根拠がある訳ではないが、かつて平行世界の『智也』と正面から闘ったライトだからこそ感じていたこと。

 それがライトの顔に雲を指していた原因である。


「よ、大将。どうしたぁ? そんな顔して。飯食ってる時ぐらい良い顔しないと飯が可哀想だぜ」


 「そんな可哀想な唐揚げちゃんは、俺が慰めてやるぜ」そう付け加えながら、ライト皿から唐揚げを手掴みで一つ取っていく男が一人。


「いや、ちょっと考え事しててな。あんたも飲み過ぎには注意しとけよ」


「余計なお世話だ」


 酒瓶を片手に、顔を赤くした男。この男の名は、ジェイン。ライトがキアンとPVPをしていた頃、酒場にいた男である。

 あのPVPの後、ライトとジェインは互いにソロプレイヤーであることや、戦闘スタイルが少し似ていたこと、さらにジェインが酔っていたこともあり、二人は友人同士となった。


 ジェインは、ライトの隣の席に腰を下ろすと、酒を呑みながらライトへ話しかける。

 二人は、この町の酒場を贔屓にしてることから、こうして並んで雑談をしながら食事を取ることが多かった。


「それで? さっきの悩み事ってなによ? 大将がそんな悩むなんて珍しいんじゃないか」


「別に、大したことないさ」


 しばらく話をしていると、ジェインが先程の事に対して聞いてくる。ライトはそれを誤魔化そうとしたが、


「ちょっと前に、大将とここにいたヤツのことか」


「……分かってるなら聞くなよ」


 ジェインにそう言われ、ライトは誤魔化すことを止める。すると、ジェインがグラスを横から滑らしてくる。


「良いこと教えてやるよ、大将。そいつは万能薬でな、百薬の長とも呼ばれてるくらいなんだぜ。だから、それ呑んで忘れちまいな」


「忘れる事は無いだろうよ。でも、そんな凄い薬なら呑まなきゃ損だな」


 ライトは、そう返すとグラスに注がれた酒に口を付ける。アルコール特有の味と共に、喉の奥が熱くなるのを感じながら、ライトはグラスを傾ける。



 そして、夜がもう少し深くなると、酒場にはさらに活気が溢れてくる。AWOの生活に慣れた人々も増え、ある並よりやや上の実力を持つパーティーや、少し腕に覚えのあるソロプレイヤーなどは金銭的な余裕も段々とできるようになっていた。

 その為、酒場に行く余裕が出来ので、こうして束の間の楽しい時を過ごすプレイヤー達も増えていっていた。


「ボクの勝ちだね。さーて、次の挑戦者は誰かな」


 酒場の中央では、賭けPVPが行われて、ギャラリー達はそれを余興に盛り上がりを見せていた。

 

「ボクに勝てば千G、参加費は百G。さあさあ皆さん参加してネー」


 その中心には、一人の少女がそう声を上げながら次の挑戦者を募っていた。しかし、既に九人もの挑戦者を連続で倒している少女に、酒場の客は挑戦者を躊躇していた。

 すると、カウンター席に座っていた男が立ち上がり、盛り上がりの中心へ歩み寄ると、


「あれ? 誰も参加しねぇのか。だったら俺が、その挑戦権買った!」


「毎度アリ、だね」


 そう言いながら、男が百G貨幣を少女に投げ渡し、男の挑戦が決まった。それより、客の盛り上がりは更に増す。


「おい、嬢ちゃん。そんな酔っぱらいに負けんじゃねぇぞ!」


「こっちは明日の酒代賭けたんだ、負けないでくれよ!」


「次勝てば十連勝だぜ! 頑張れよ!」


「おい兄ちゃん、顔赤いけど大丈夫か! その嬢ちゃんの見た目に騙されてると痛い目見るぜ!」


 ギャラリー達の野次に、少女は手を振る事で答えると、男へと向き直る。


「ルールは普通のPVPだよ。武器はそっちが先に抜いていいよ」


「それで、そっちの武器は? こっちだけ先に抜くのは、ちと心苦しいぜ」


「心配ないね、ボクの武器はコレだからさ」


 そう言いながら、少女は自身の拳を構えて見せる。


「ほー、奇遇だな。俺もだ」


 それを見ると、男も同じく拳を構えて見せる。

 二人は、互いを見て薄く笑う。


「ボクはロロナ。良かったらキミの名前を教えてくれないかな? 拳を武器に使う人、久しぶりに見たから珍しくてね」


「ライトだ。俺も初めてだよ、俺以外に『殴り』なんてスキル取った奴を見たのは」


 二人は、そう簡単な自己紹介を終えるとPVPの承諾を行う。

 ライトは、足を肩幅に開いたままほぼ棒立ちの姿勢で。ロロナと名乗った少女は、重心をやや後ろに、左手を前へ出して右手を腰の辺りにした構えをとる。


 そして、いよいよPVPのカウントがゼロとなった。

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