第百二十六話 最終ラウンド
(あいつ……この土壇場で決めるとはな)
巨躯なる聖剣・未完成を吸収しきったロロナを見て、ライトはその技術と胆力に関心していた。
前衛のロロナに、あれほどの高度な術式補助ができる知識はない。というより、あれほどの術式を描くことができる知識を持つ存在すら、魔法職プレイヤーの中でも一握りである。そのような知識は重大な財産であり、おいそれと教えてもらえるものでもない。このレベルの魔術となると、攻略のためを超えて自己満足に近い研究をする魔術ギルドのプレイヤーならば、知識を持っているのだろうが、彼女にそのツテはない。
「あ、ロロナちゃん。あの術式かけてるじゃない」
「まさかこの場面で成功させるとはな」
「当然、私が教えたんだからね」
ふふん、と隣で自慢げに胸を張るトイニ。そう、この術式を教えたのは他でもない彼女なのだ。確かに、単純な魔力量や威力ではプレイヤーは妖精にも勝れるようになってきた。が、積み重ねてきた歴史は彼らの方が遥かに上なのだ。
トイニに妖精の里にいるオンニに頼み、高度な術式が書かれた魔術書を取ってきてもらい、それをライトが解読してトイニがアドバイスをする。
昨夜の特訓では、ロロナの気功抱擁の成功率は良くて半々といったところ。失敗すれば、補助術式に溜めた魔力が制御を失って暴発する。そうなってしまっては、術式補助なしの場合より吸収できる量は減る。
練習でこれだ。実際の戦闘での成功率は十%そこらだろう。だが、彼女はそれをやってのけた。
「瞬爆手甲・太陽爆裂」
「くるぞ!」
新たなる力を手にしたロロナが、セイク達に向けて両手を向ける。フェディアに防御の用意をするように叫ぶと同時に、炎がセイクの視界を埋め尽くす。
今までのオレンジ色の炎ではなく、その高温がゆえに白炎となっただけあって凄まじい熱気。下手な魔法職の魔法と遜色ない火炎を受けるセイク。だが、彼もトッププレイヤー、その程度の炎でやられてしまうほどやわではない。
「ゴフっ!?」
「セイクさん! きゃ!?」
火炎に耐えられる魔法防御を相手が持っていようと関係ない。ロロナの長所は高速移動での打撃戦、炎の噴出でセイクらの視界が遮られている間に拳を叩き込む。
セイクはフェディアをかばうように立つが、四方から殴られ視界が揺らされて、ロロナから視界が外れてしまう。見失ったのは一瞬だったが、後方から凄まじい熱量を感じて振り向く。
「ココ!!!」
(まずい!?)
ロロナが胸の前で握った拳に炎を凝縮して構えていた。熱気だけでも火傷しそうなのに、直撃などしては大ダメージだけではすまない可能性すらある。フェディアを守るように剣を構え、一瞬の内に展開できる防御魔法を最大限展開する。
「光炎噴火!!!」
目の前で炸裂する爆炎と轟音に、来るべき衝撃に備えて腰を落としたセイクであったが、何故か熱波は来るものの衝撃はこない。
(外した? いや、これは…………!?)
「さあ、これで邪魔は無くなったネ」
白き炎が噴火するかの如く、ロロナのアッパーに合わせて噴出される。その炎は防御を固めるセイクの眼前を掠め、聖櫃の天井に直撃し、その表面にヒビを入れて破壊していく。
パリン、と限界を迎えた聖櫃が砕け、キラキラと会場に降り注ぐ。
「瞬爆手甲・煌々彩炎波!!!」
「黒き盾!!」
ロロナの手から放たれる炎を纏った気弾を、フェディアが寸前で防ぐ。今のロロナの炎は火属性と光属性の両方の性質を持つ。フェディアの闇属性の盾は、最初は光ごと炎を吸収して防いでいたが、すぐに限界が訪れる。
「やらせるか!」
「固いネ、どこまで持つカナ」
セイクがフェディアを守り、フェディアはロロナを捉えようとサポートに回る。防御の事は考えない、フェディアの役割はロロナを捉えることとセイクのサポート、セイクの役割はフェディアを守ることと、ロロナの動きを少しでも見切ろうとすること。
信頼している二人だからこそできる連携、ハッキリ言ってロロナは攻めあぐねていた。パワーもスピードも闘いを重ねるごとに進化しているというのに、それですら攻めきれない。
「なん……だ、あの馬鹿みたいな魔力は!?」
「これは、雷?」
ロロナは瞬爆手甲の噴出で空高く飛び上がると、軽く握った拳を丹田の前でクロスさせると目を瞑る。集中する時間は一瞬、アイテムポーチから取り出したのは二つの小さな鉱石。
ロロナに魔術系のツテはトイニを除いて存在しない。が、元攻略組としてとある生産ギルドの少女との関わりならある。準決勝の前、ライトとの特訓の前に無理を言って売ってもらったその鉱石は高純度の雷属性の魔力を蓄えた魔石。
「気功抱擁・二重!!!」
spポーションを一気に飲んだロロナは、その魔石を握り潰す。ただでさえ高い出力を持つ白炎がに雷がまとわりつき、バチバチと音を立てる。
光、炎、雷、三つの属性を重ねたロロナの圧は離れているライトにも感じられる。その魔力は、あのシークと対峙したとき以上。
「…………フェディア」
「…………はい」
ならば、こちらとる手段は一つ。
できないなんて言わせない。これだけ闘いを重ね、互いの息もあってきた。今度こそ成功するはずだ、セイクとフェディアは雷を纏うロロナを見上げ手を繋ぐ。もはや長い呪文で魔力を合わせる工程はいらない。
「人妖合身!!!」
その一言で、二人は眩い光に包まれた。
「「さあ、最終ラウンドといこうか(ナ)」」