第百二十四話 準決勝
準決勝第一試合
ロロナVSセイク
準決勝第二試合
ライトVSリン
Decided strongest 三日目、既にコロッセオ内の席は満杯で、いい席のチケットは売り切れどころか高値で売買されるほどにまで観客の熱気は高まっていた。前評判では高い人気を誇っていたオバンドの一回戦負けや、攻略組幹部の一人であるヴィールの早期脱落と波乱はあったが、それは、そうなってしまうほど参加者のレベルが高い闘いが見れるということでもある。
二試合目ということで、ライトが少し遅く会場入りしようと控室前の廊下を歩いていると、
(あいつは…………)
自身の控室に入っていくセイクの姿を見つけた。反射的に隠れてしまい、セイクが部屋に入ったのを確認してからライトは自身の控室に入る。
「やっぱり、変わってないな」
姿を見たのはほんの少しの間。だが、それでも立ち振る舞いと雰囲気はかつての天河と同じものであった。デスゲームに囚われ、一変した世界にいても彼の芯はなにも変わっていない。能天気なようで、大きな問題に直面したときは真っ先に体を張って、常人には到底無理な解決策を手にする男、それが天河智也という男だ。
だが、そんな主人公だからこその問題もある。
「あいつは…………今どんな状態に自分がいるのか知らないんだろうな」
それは、問題を解決する力はあっても、それが表面化するまではその力を振るうことはできないということだ。この事件の原因である神の力は勿論、リンとロズウェルの問題についても違和感程度はあるかも知れないが、確信には至っていないせいで解決のための一歩を踏み出せないでいる。
光一の目標はロズウェルとその後ろにいる、この事件を引き起こした神を見つけ出す。もしくはそれに繋がる何かこの大会中に見つけ出すこと。その為には、リンを正気に戻して話を聞く必要がある。
(正直なところ、俺がこの大会で勝ち続ける必要はない)
光一の目標を達するだけならば、既に負けてしまっても構わない。おそらく、リンの洗脳という問題に直面したセイクはそれを解決するだろう。そのあとで話を聞けばいい。それよりも準決勝を棄権して、その間に他の管理教団らが暴れださないかを見回ったほうが良いだろう。
合理性だけを見ればそうだ。だが、彼の心の中ではそんな合理だけでは図れないものが渦巻いていた。セイクに対してだけではなく、リンに対してさえも。
『さてさて、皆さんお待たせしました!!! いよいよこの大会も終盤! 準決勝第一試合、ロロナ選手VSセイク選手の試合を始めます!!!』
コロッセオの中央で向かい合うセイクとロロナ。二人の顔は今すぐにでも戦いたいと、これからの激闘を純粋に楽しむかのようであった。
『両者準備はできたようですね。それでは、試合…………開始ィ!!!!』
「瞬爆手甲!」
「妖精召喚!」
開始の合図と同時に、二人は自身の起点となるアーツを起動。
「いきます! 輝星・一矢 拡散・五矢!」
先手を取ったのはセイクだった。召喚に応じたフェディアが最速かつ最大本数の光の矢を放つ。並の魔法職以上の威力と速度を持った魔法であったが、
「遅いよ」
「なっ!?」
それでもロロナの加速の方が速い。あまりの速度に陽炎のように彼女の体が揺らめいたと思えば、次の瞬間にはフェディアの後ろに移動していた。炎を纏った拳がフェディアに迫る。が、
「させるか! 防御魔壁」
セイクが防御用の魔法を使いながら、ロロナの拳を剣で受け止める。力比べではセイクが有利、それを悟ったロロナはセイクの剣と競り合った状態で瞬爆手甲から炎を噴出させて、目くらましと攻撃をしつつ距離を取る。
「大丈夫か、フェディア」
「はい、セイクさんこそ」
フェディアが後ろに下がり、それを守る騎士のようにセイクが前に出る。
(決めきれなかった……カ)
ロロナの当初の目標としては、相手の目がこちらの速度に慣れきっていない最初の一撃で、フェディアを昏倒ないし大きなダメージを与えたかったのだが、防がれてしまった。
この世界での最速に近い速度への対応、恐ろしいまでの反射速度と闘いの経験による予測。それをあっさりとこなすからこそ、セイクは今の今までこの立場でいられるのだろう。
「前より動きがいいじゃないか」
「いい師匠に教わったからネ」
セイクの剣に魔力が集まり、ロロナの炎はさらに勢いを増していく。
小手調べは終わった。ここから先は、主人公と攻略組幹部、この世界においても十指に入る実力者の全力のぶつかり合いが始まる。
宣伝
この作品 普通だった少年の普通じゃない日常~元脇役の少年は、『自身操作』でデスゲームを無双する~ の前作に当たる普通だった少年の普通じゃない日常~あの、俺の能力『自身操作』ってなんですか~ のリメイク版が現在連載中です。
前作と違う展開も多く、一度読んだことのある人でも楽しめるのはもちろん。デスゲーム編しか読んでいない方も是非読んでみてください。