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第百二十二話 洗練

 リュナの幻影達がリンの四方から襲い掛かる。無数の虚に紛れて僅かな本物の斬撃が混ざり、リンの肌を傷つけていく。二、三体の中から本物を見つけるのならば、リンの技量ならできるのだが、単純に数が多すぎる。


「なかなか厄介じゃない。でも、四方から迫れる人数には限りがあるわよね」

「……」


 確かに、リンがリュナの幻影を全て見分けるのは不可能かもしれない。しかし、メインウエポンを短刀とするリュナが攻撃する方向はある程度決まる。数にしておよそ四から六人が、リンの周りを高速で動き、入れ替わる事で今の状況を維持している。

 つまり、実際に四十もの相手にする必要はない、複数人の刃を止められれば十分なのだ。正面からの振り下ろしを受け止め、刃の反射と気配から後方の様子を瞬時に判断すると、左右からの突きをしゃがんで避ける。幻影ならば、たとえ同士討ちになろうとも特に反応はない。ただ、一度揺らめいてまた短刀を構え直すだけ。だが、


「見っけ」

「ッ!」


 本体、及び分身は別だ。これらは幻影と違い実態がある。たとえ幻影だとしても目の前に同士討ちとして攻撃が迫れば、僅かな硬直が自然な反応としてでてしまう。そして、そんな隙を見逃すリンではない。

 反応をしたリュナは、後ろにステップを使って距離を取ろうとしたのだが、リンは縮地を使って追いかける。それは純粋な殺意にもにた気合の差。縮地を使うのは、キャンセルランクの都合上リスクが伴う。カウンターで大技を合わせられれてしまうと戦況が大きく傾く可能性すらある。しかし、それでもリンは縮地を選択した。たとえ大技が来ても、自身の技量なら捌ききれる。そう、狂気に染まった瞳で信じているのだ。


「……影糸かげいと

「…………っ! まだこんな技を」


 今リンが追っていたのは分身だが、それを潰されると幻影が大幅に消えてしまう。本体のリュナがしゃがみ、前方にあった自身の陰に手を突っ込むと、その五指には細く黒い糸が絡みついていた。

 それと同時にリンの陰かららも細く黒い糸が出現し、彼女の手足に絡みつく。リュナが陰に伸びた糸を引っ張ると、リンは後方に引っ張られ体勢を崩す。刀を振るって糸を切断するが、一度切ってもすぐに再生してしまう。分身の放つアーツによる斬撃が直撃し、後方に倒されてもその拘束が解けることはない。


影糸包括えいしほうかつ……もう、逃げ出させない」


 気がつけば分身も影糸を出しており、リンに絡みつく糸はみるみるうちに彼女を球体に覆いつくしてしまう。そのまま二人掛かりで影糸を引っ張り、リンが入った影糸包括を持振り回す。

 

(これで…………倒れてくれると楽なんだけど)


 地面との衝突で砂煙が上り、煙の先に居るであろうリンを見てそう願う。あまり長期戦になるのも不味い、今までの大会にも彼の息がかかった参加者がいたのは観戦する上で分かっていた。それらを見るに、一度倒してしまえばその浸蝕は収まるはず。

 この攻撃で倒れてくれていれば、かつての自分のように自己を見失い、数多の人を傷つけることもない。だが、


「!」


 影糸包括から刀が生えた。血が混じったかのような黒に染まった刀が影糸包括を貫いたと思うと、幾重にも重なる赤黒い斬撃の軌跡が走り、全ての糸は切断されて強引に影糸包括は破られた。


「うん、この力にも慣れてきたね。ありがと、いい経験だったよ」


 ひらひらと舞う黒い影糸の残骸を背に、リンは赤黒い刃紋を眺めながら言う。かつてロズウェルの下に居たリュナは分かる。彼の息がかかっていた者たちは、その力を大幅に引き上げられていたが、それと同時にそれに振り回されていただけであった。

 しかし、今のリンは違う。ただ噴き出すだけであった禍々しい力の大部分を一本の日本刀に集め、狂気と理性の均衡を保とうとしているのだ。実際には狂気の割合の方が多いのだが、多少なりとも理性が戻ったおかげでアーツだけではない武術的な動きのキレが増している。


「それじゃ、そろそろお終いにしようかな…………飛刃・斬空」


 リンが刀を振るうと、そこから黒い波動が暗い赤の軌跡を(まと)って飛ぶ。リュナ幻影を掻き消し、地面を抉る。

 溜め無し(ノータイム)でこの威力。今までとは格が、違う。リュナがそれを感じとった時には、目の前に十はくだらない斬撃が飛んできていた。



「ちょこまかと頑張ってるみたいだけど、いい加減諦めたら?」

「…………」


リュナはひたすらに斬空を避けていく。幻影と合わせて何とか直撃を避けている状態だが、それでも少しづつそのスピードに目が慣れてきた。さらに、


(あの力、恐らく無限じゃない)


 リンが斬空を放つたびに、彼女の刀から赤黒いオーラが減少していることをリュナは感じ取っていた。この調子なら、もうしばらくは攻めることを放棄して相手の疲弊を待てるはず。そう考えていたのだが、


「はぁ……すばしっこいなぁ。だったらこいつはどうかな」

「?」


 リンは刀を鞘に納めると、深く腰を落としながら捻る。そう、それは正に居合の構え。


「飛刃・閃空」


 リュナが危険を察知して、最速で距離を取ろうとするのも遅かった。見えたのは一筋の光、リンの居合と同時に切っ先から放たれた光線がリュナの肩を貫いたのだ。

 飛刃・閃空。斬空より威力は大きく落ちるが、その速さは格段に上がる。この大会でも上位のAGEを誇るリュナが反応しきれないとなれば、その速さが異常なことは観客にも伝わった。

 リュナは貫かれた肩を抑え、痛みから足の動きが鈍る。それは、









「捕まえた」


 今のリンを相手取るには致命的すぎる隙であった。



   

 



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