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第百十九話 メリット

 扉の先に居たのはロロナだった。ライトは、まさか彼女が来るとは思ってもいなかったが、彼女の顔を見るとどうやらおちゃらけた話でもなさそうである。


「なんだ? 俺は今試合が終わったばかりなんだが……」

「それは分かってる。でも、ライトしか頼れる人はいないんだヨ」


 ロロナはしおらしく話す、あの彼女がこんな事頼み方をするというのは、ほぼ間違いなく厄介亊なのだが、そう頼まれると断われないのが光一という人物だ。


「何が望みなんだ?」

「アリガト、ライト。ライトなら特に何も言わなくてモ聞いてくれると思ったヨ」


 そう言って、ロロナはライトの控室に入ると、端にあったワープポイントの光にライトを引っ張って入っていく。このワープポイントは、通常控室から会場に行く際に使われるものだが、自身の出番以外の時間に入るとトレーニングルームへの入り口にもなるのだ。

 トレーニングルーム。これは、その名の通り修練を目的とした部屋であり、ステータスをある程度弄いじった状態での行動やいままで記録された敵エネミーとの訓練などの様々な事ができる部屋で、ギルドなどの施設ではメンバーの特訓目的で設置されているのである。


「こんなところに連れてきて、一体俺に何させようってんだよ」


 ソロプレイヤーのライトにとっては殆どなじみのない場所であり、興味深そうに辺りを見渡しながらロロナの目的を探る。ティーダの件で、他の管理教団スーパヴァイスオーダーの情報があったのかもと考えたが、わざわざトレーニングルームにまで連れてくるあたり、ただ話をするという雰囲気でもなさそうだ。

 ロロナは、ライトの目の前に立つと深々と頭を下げる。その姿は、普段のややおちゃらけた様子の彼女ではなく、心からの頼みだった。


「私ニ、高速戦闘を教えて欲しい」

「…………何言ってるのか、分かってんのか」


 ライトは流石に想像出来なかったのか、返答に少し時間がかかった。


「ハッキリ言って、ワタシの瞬爆手甲デトネーションガントレットはマダ使いこなせてないんだ」


 ロロナはそう言って、手慣れた手つきでトレーニングルームの設定をすると瞬爆手甲デトネーションガントレットを装備する。その目は本気だ、


「そして、ワタシが知ってる中、あんな速さで闘えるのはライト、キミだけなんだよ」

「ダカラ、教えて欲しい」

「俺にそんな事をするメリットがあるとでも」


 ライトにとって、そんな事をするメリットは一つもない。少なくとも、この大会中はライバルを強化するだけである。


「それハ分かってる。でも、ライトしか頼れる人はいないんだ……」


 ロロナは構えを取る。彼女が纏う威圧は、本選と殆ど遜色のないものであった。


「…………はぁ、仕方ないな」


 ライトは、小さくため息をつくと集中コンストレイションを発動する。


「ただし、とっとと終わらせたいからな。教えるのは実戦形式だぞ」

「ホント!! アリガト!」


 練習試合開始の機械音声が響くと同時に、二人は本選さながらの気迫でぶつかった。















『終わったかい、ライト』

『……ああ』


 爆炎で凸凹でこぼこだらけのフィールドで、ライトは満足した顔でトレーニングルームを去っていくロロナの後ろ姿を眺めながら念話をしていた。


『それで、キミにとってメリットはなさそうだけど』

『メリットならあるさ』

『ほう、教えて欲しいね』


 ライトもトレーニングルームから出て、いつの間にか出現していたリースの分も一緒に、備え付けのポットからお茶を注ぐ。減ったHPとSP、MPを回復させる効果を持つお茶だが、それを抜きにしても味はそこらの店のものよりはいい。温かい湯気が立つそれを、一口飲んでからライトは口を開いた。


『俺とはちょっと違うけど、ロロナの高速戦闘は俺の戦法と似ている。向こうのトーナメントで、当たる“アイツ”が、高速戦闘にどう対処してくるかを見るいい機会だろ』

『ま、そう捉えればキミにメリットがあるね。野暮な事を聞いたよ、それじゃ私は戻っていようかな』


 そう言ってリースは帰っていった。ライトが頼られると弱い性格なのもあるが、本心は今話した通りだ。彼は、このトーナメント表が発表された時から確信している。“左ブロックを勝ち上がるのはセイクだと”。


 ピロン、とメッセージが届いた音がした。殆どいないフレンド欄からそれを探すのは用意であった。差出人はケン。内容は簡潔に“「大通りにあるバーに来てくれ」と一文。


(どうやら、まだ今日は休めないみたいだな)


 既に空が暗くなるなか、ライトは隠密のスキルを使って人込みに紛れていくのであった。

 


  

間隔空いてすみません。長期休みに入ったらもう少しペース上げたいと思います。

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