第十二話 ボス討伐
AWOに人々が囚われてからゲーム内時間で、二週間が経過した。攻略組と呼ばれるゲーム攻略を第一に生活する者や、攻略組程では無いものの、それなりに攻略を頑張る者。
それ以外にも、恐怖から町に引きこもってしまう者などもおり。この一週間で、人々は、そういった生活のサイクルをそれぞれ作り上げていた。
そんな中ライトはというと、
「これでレベルアップか、ボス攻略の適正が二十だっけ?」
第一の町のボス討伐を目指して、レベルを上げていた。攻略組のトップグループは、既に第一のボスを倒していた。が、他のプレイヤー、特に攻略組以外ではボス討伐はまだまだ先といった雰囲気が漂っていた。
本来ボスの適正レベルは五人パーティーなら、平均十五レベル程度。ソロプレイヤーでも二十レベル程度であり、その程度のレベルなら、一日中AWOをやっていれば、もう到達していても可笑しくはない。
それでもまだ、第二の町へ到達したのは一握り。その原因となっているのは、やはり恐怖であろう。
死ねば記憶を失う。その恐怖はプレイヤーから勇気を奪い、必要以上の安全を取らせるようになった。そのせいで、プレイヤー達は五人パーティーでも、適正レベルにプラス五を足した値にならないとボスへ挑もうとはしなくなった。
「とりあえず適正レベルになったし、一度ボスに挑んでみようかね」
しかし、ライトは適正レベル丁度になると、ボス討伐への準備を進めてしまう。それを可能にするのは、やはり『自身操作』の存在だろう。
この能力のお陰で、難しいと言われるチェインですら直ぐに使いこなし、その上この辺りのモンスター相手では、被弾することなどまずない。
これほどの離れ業を易々とやってのけるプレイヤースキルがあれば、いやでも自信がつく。だからこそライトはソロでありながら、堂々としてられるのだろう。
「さてと、ボスに挑むと言ったものの何を買うべきか」
ボスに挑むことを決めたライトは、狩りを午前で切り上げると町へ一度戻ってきた。そこで昼食ついでに装備を整えようとしたのだが、何を買うべきか考え込んでしまう。
(防具かぁ、殆ど被弾したことないから、今まで初期装備だったんだよな。そろそろ買った方がいいかね。でも、下手に買うとAGIが下がったりするんだよな)
今ライトが使っている銅のナイフは、序盤に稼いだ金をほぼ全て使っただけあり、この町のナイフ系統の武器では最強である。
ただ、ライトはその人並み外れたプレイヤースキルに頼っていたため、防具は初期のままである。それなら防具を買えば良いのだが、考えなしに買ってしまうと、防具の中にはAGIにマイナスがかかる物もある。
(でも、一番軽い革装備なら別にいいか。これならマイナス補正は入ってないし)
それでも、ライトは、AGIのマイナス補正と防御力を比べて一番良いものを購入する。性能が良いだけに中々の値段がしたが、これまで、ポーションすら買わずに狩りを続けていただけあって、ライトの懐はかなり温かい。
ライトはその防具を買うと、ついでに道具屋でポーションを数個買ってボス討伐へと出発する。
ライトは、ボス戦へ向けてSPを温存するために道中の戦闘を出来るだけ避けながら、フィールドの奥まで進んでいく。
記憶を頼りに草原から森に入り、更に奥へ進むと威圧感を放つ石柱が二本現れる。
これこそが第一のボスへ繋がるゲートである。この二本の石柱の間を通ると、ボスのいるフィールドへと転移させられる仕組みとなっており、これはβ版から変更はない。
(いよいよボス戦か。俺のソロプレイヤーとしての力が、どれだけ通用するか、確かめさせて貰うとしよう)
もし、ライトがソロでここのボスを倒せるなら、ライトはこの世界で十分ソロでやっていけることになる。それを確かめるためにも、このボス戦は負けられない。
そう考えながらライトは石柱の間を通る。すると、先程まで木々が生い茂っていた森から、開けた広場に転移させられる。
そこには、自身の体長の半分ほどもある棍棒を手にした、巨大なゴブリンが立っていた。
(情報と違うところは無し、と)
これが第一のボス、ボスゴブリン。大城な体躯を生かしたパワー任せの戦闘を行う。HPゲージはソロだと二本(五人パーティーだと四本)さらに、三人以上で挑むと取り巻きのゴブリンが居るのだが、ソロのライトには関係がない。
ライトは、自身の持つ情報と差異が無いことを確認すると、ボスが棍棒を構えるより速く仕掛ける。
「ステップ、スラント」
ライトはステップを使い、素早くボスの懐へ潜り込むと、スラントをチェインする。ステップで速度が上がっていた為、通常よりも威力の上がった斬撃がボスの腹へ傷を刻む。
ボスもただ立っている訳もなく、手にした棍棒でライトを薙ぎ払おうとする。が、既にライトは棍棒が届かない距離まで下がっていた。
棍棒を空振りさせられたボスは、怒りをあらわにしながらライトへ向けて走る。その勢いのまま、ボスは力任せに棍棒を振り下ろす。
当然そんな大振りの攻撃など、ライトには当たらない。ボスは、それでも棍棒を連続で振り回す。ライトはその連撃を避け続けるが、何故か殆ど反撃をしない。
ボスが攻撃を空振りした隙があるにもかかわらず、ライトはその隙を付くよりも、次の攻撃を避けることを優先するような戦闘を繰り返す。
そして、五分程たった頃。ライトは、一回も被弾することなく連撃を捌いていた。しかし、ボスが棍棒を横へ薙ごうとしたその時、
「グ……ギィ!」
ボスゴブリンが驚いたようにそんな声を上げる。
ライトがボスの攻撃を避けた。それは今まで通りだったのだが、今回は少し違った。
棍棒をギリギリで、それこそ紙一重と言われる程の精度で避けると、ボスへナイフの連撃からの蹴りのコンボを食らわせた。
先程までのライトの避けかたは、ボスとの距離を取ることで避けてきた。それなら確実に避けられるが、追撃は難しくなってしまう。
しかし、今のようにギリギリで避ければ、ボスが晒した攻撃後の隙を確実につける。
そして、ライトは今まで避けてばかりの相手がいきなり攻撃しだしたのを、疑問に思うような表情を浮かべる。
「随分好きに暴れてくれたな。だが、お陰で大体の動きは分かった。ここからは攻めさせてもらうぞ」
そう、ライトが今まで攻撃を避け続けていたのは、観察していたのだ。ボスの動きを。ライトの『自身操作』は、集中力を引き上げる他、自身の見たものを完全に思い出させる事すら可能にする。
だからライトは、最初は見に回った。ボスの動きを観察し、攻撃のパターンやスピード等を把握。そして、大体のデータ採取とそのデータを元にした攻撃法も把握した。
こうなってしまえば、もうボスゴブリンに勝ちの目は消えた。いくら棍棒を振り回そうとも、ライトには当たらない。
ボスゴブリンが連続で棍棒を振り下ろす。まるで棍棒の雨のような連撃も、ライトは顔色一つ変えずに紙一重で避ける。さらに、棍棒を掻い潜りながらもボスの懐へ潜り込む。
そして、ナイフに蹴り、殴りと取り回しの用意な攻撃手段が多いライトは、それらの連撃をボスへ加える。
ボスは懐へ入ったライトを排除しようと棍棒を振るったが、ライトは素早く後ろに下がり避ける。
さらに、ボスが棍棒を振るった隙に、横を通り抜けるようにステップからのスラントをチェイン。
このように、ライトがボスの動きを観察し終えた後は圧倒的であった。ボスの攻撃は当たらず、ライトの攻撃は面白いように当たる。
そんな攻防とも呼べない戦闘が十五分程続き、
「グ……ガァ」
ついにボスのHPゲージがゼロとなり、ボスが倒れ、光となって消えた。
『おめでとうございます。第一のボスを討伐しましたので、第二の町、グレンデンへの道が開かれました』
そんな無機質な声を聞いて、ライトは今まで張っていた気をようやく緩める。
「あー、やっと終わった」
そして、ため息混じりに呟きながら第二の町へ歩を進めるのであった。
自身操作と見たものを思い出させる事に関しては、私の前作である『普通だった少年の普通じゃない日常 ~あの、俺の能力『自身操作』ってなんですか?~』の第十一話に詳しく書いてありますので、気になる方はどうぞ