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第百十六話 金剛石の筋肉

「魔斧 五連刃!」

「「「「「剛体」」」」」


 五体の分身が身体強化アーツを使用し、それを打ち落とすようにケンの斧から五つの魔力の刃が飛来する。それらを掻い潜って五人のライトが打撃を見舞うが、帰ってくるのはジーンとした感触とほんのわずかなダメージ。

 これがトップクラスのパーティーの盾役タンク。物理的な攻撃に対する防御力に限れば、彼はこの大会でもトップと言って差し支えない。このままでは、ケンの攻撃が当たらずともHPが先に尽きるのはライトになってもおかしくはない。


 そういった物理技が効果的ではない者を相手取るために、いつものライトなら分身で時間を稼いでリースやトイニを召喚したり、攻撃力の追加という面ではリュナを口寄せするのが手段としてあるのだが、


「さ……」

「そこだぁ!」


 それを妨害するようにケンからはの猛攻が来るのだ。ただのアーツでは、ケンが突進チャージ系統のアーツを使用されるだけでも他の分身の攻撃では止められない。当たることはないが、回避行動で詠唱は中断せずにはいられない。


「よくもまあ、毎回本物を見つけられるな」

「あったりまえだ、友達ダチの動きぐらい見分けられるぜ」


 これがただ、ケンと同じステータスの別人ならばここまで苦戦はしなかっただろう。他の分身に突撃する間にトイニとリースを召喚して終わりだ。だが、ケンは分身と本体の違いを見分け、毎回詠唱途中の本体に攻撃を仕掛けているのだ。

 ライトが五体もの分身を使いながらも、思考に混乱を起こさないのは並列思考のお蔭である。これは、増えた五感それぞれにある程度の判断能力を割りあてることで、本体を操るライトの思考に混乱を生まないようにしているのだ。だが、これはあくまで高精度なCPUを揃えたようなもので、人間らしい癖というものまで排除されてしまっている。

 そのため、ケンからすれば“なんとなく他とは違う、かつての光一のような気がする”という直観で本物のライトを当てることができているのだ。


「ぬおっ!?」

「足元が甘いぜ、そのへんは昔からだな」


 だが、ケンがライトに攻撃を当てられないのは事実。それならば、いくらでも試行錯誤する暇はある。まず最初は軽い蹴りをケンでの胸に当て体幹をずらし、襟を掴んで地面に叩きつける。そのまま数人がかりで踏みつけ(ストンピング)。これが現実なら、確実にノックダウンできそうな流れだが、


螺旋斧らせんふ!!」


 手に持った斧に引っ張られるようにケンの体が回転しながら上昇する。攻撃こそ喰らわなかったが、空中のケンへの追撃は完全に出遅れた。


地震斧アックスクエイク!!!」


 上空から飛来したケンが振り下ろした斧は、ライトをとらえることはなかったものの地面を砕き、揺らしていく。想像以上に広く揺れる地面に、分身の一人が足を取られ消えた。


「まず一人。さーて、次は」


 再度斧を握り直したその時、後ろから声が聞こえた。それと同時に金属同士がぶつかる音と衝撃がケンを襲う。


「させるかよ」

「ヘッ、やっと抜いたかよ」

「お前が抜かせなかったんだろうが」


 右手は逆手、左手は順手で魂喰らい(ソウルイーター)を構えたライト達と鋼鉄と化したケンの肉体と斧が火花を散らしていく。これならば、ライト側にダメージが行くことはない。このまま削っても、恐ろしいまでの時間はかかるだろうが、ケンのHPをゼロにすることは叶うだろう。だが、そんな事をしなくてももう一つの突破口はある。


「ちょ、それMP吸収あんのかよ!」

「その鉄の体は厄介なんでな、少し考えさせてもらったぜ」


 ケンが使用しているアーツ、鋼鉄の信念(アイアンハート)は使用中に微量ながらMPを消費し続ける。つまり、魂喰らい(ソウルイーター)の効果でMPをゼロにできれば強制的に解除される。そうなれば、打撃、斬撃も今の数倍とおりやすくなるはず、だが、


「確かにその武器はちょいと厄介だな……なら、こっちも全開でいくぜ!!!」


 ケンは目の前の地面に斧を突き立てると、何やら拳を頭上に掲げて大きく息を吸い込む。そう、まるでボディビルダーが力を目一杯入れるかのように、


鋼鉄の信念(アイアンハート) 全開フルスロットル!!!!」


 拳を振り下ろし、光と共にポーズを決めるとケンの上半身の衣服は消滅しており、その全身はより硬く、より強固なものに変化していた。


「まだまだいくぜ!!」

Ver(バージョン),金剛石の筋肉(ダイヤモンドマッスル)!!!」


 それだけにとどまらず、ケンの体は光沢を持ち、会場に降り注ぐ太陽の光をして眩しいほどだ。


「チッ、ダイヤモンドじゃなくてタングステンにでも改名したほうがいいんじゃないか?」


 ライトも思わず悪態をつきたくなる程の防御力、魂喰らい(ソウルイーター)の耐久力が一太刀で大きく削られていた。


「これが俺の切り札、金剛石の肉体(ダイヤモンドマッスル)だ。この、ダイヤモンドのように傷つかず、鋼鉄のように固い筋肉を壊せるかな? そしてこいつがお前の武器への回答だ」

鋼鉄の呼び声(アイアンコール)!!!」


 ケンが斧を掲げると、それにライトが引き寄せられていく。正確には、手に持った魂喰らい(ソウルイーター)が強烈な磁力のようなもので引き寄せられていた。

 ただでさえ軽量化を重ねて軽いライトは、武器だけでなくその磁力に囚われてケンがの方にまで飛んで行ってしまう。何とかケンを中心とした磁力の蟻地獄の前に、武器をしまうことで難を逃れたが、一体の分身はその判断が間に合わず消滅してしまう。


(さて、どうするかな)


 武器も封じられ、素手での攻撃はむしろこちらがダメージを負う。そんな状況で、彼は一体どうするのだろうか。






 

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