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第百十五話 鋼鉄

 何か、長くてリアルな夢を見るかのような感覚。視界は自分のものなのだが、まるで他人事のようにすら感じる。


『……ちょうどよかった。ライト、あなたを拘束させてもらう。拒否は認めない』

『…………ちょっとばかり話を聞かせて貰おうか』


 ライトと闘った時の記憶も戻ってきた。ロズウェルから命じられて、彼と対峙し、そして敗れた。あの時の彼の顔は、先ほど見せた平凡な顔とは打って変わって、激情を水面下で抑え込んでいるかのような鋭さがあった。

 

『俺の勝ちだ』

『…………』


 そして、負けた時の記憶も戻ってきた。管理教団スーパヴァイスオーダーになってからの記憶は、基本的にロクな記憶がなかったがこの戦闘だけは興奮すら覚えた。彼女にとって戦闘とは、作業にも近しいものであり、才能だけで十分に勝てる行為でしかなかった。それだけの才があったからこそ、記憶が無くなってからも稼ぎに困ることは無かった。


『お願い……私は、一体誰なの? 私はどんな人間だったの? …………教えて』


 今なら分かる、自分がどんなに勝手な事を言ったかというのも。ライトにとってリュナは他人どころか敵、それも多くのAWOプレイヤーから恐れられる管理教団スーパヴァイスオーダーの一員だ。

 ハッキリ言ってあの時、ライトに問答無用にキルされても不思議ではなかった。だが、それどころか彼はリュナの状況を察し、こうして過去の自分と向き合う勇気までくれた。








「…………ここは?」


 リュナが目覚めたとき、そこは記憶の欠片を使用した場所では無かった。何処どこかの部屋のベンチに寝かされていたようだ。寝起きのように働かない頭を回しながら隣を見ると、目を覚ました自分に驚きの表情を浮かべる少女がいた。

 最近の記憶が戻った今なら分かる。この少女の名はトイニ、ライトと同じようにロズウェルの命でかつて自分が襲った相手だ。一度は友達のような気がしたが、あちらからすれば自分はただの敵だ、


(……多分、あの人が置いていった見張りかな。どうしよう、なんて説明すれば……)

「えっと…………、その」


 あっさり許してもらえるとは思っていない。それでも、懸命に弁解を続けてまたいつか友人と呼べる存在を作りたい。その願いを実現する為にも、言葉を紡がなければいけないのに、いざ話そうと思うと何から話していいのか分からない。


「あ、起きた。リュナちゃん、大丈夫だったの! なんか悪い人に操られていたって聞いたけど」

「え?」


 しかし、その決意は軽々飛ばされた。

 トイニの目は自分が言ったことを何一つ疑っていない目だ。非をの原因を自分から話せば、多少言い訳気味になってしまうが、他人から聞けばまた違った印象を受ける。心理学の本なんかに載っている簡単な事象だが、ライトはそれを自分の命を狙った相手にフォローとして実行したのだ。


 ライトからすれば、リュナの交友関係は管理教団スーパヴァイスオーダーを除けばトイニとリースしか知らない。そしてその中でも友人と呼べるのは後者二人だけ。記憶を失い、孤立しているリュナの為にトイニとの関係を困らせるような事を言わなかったのはライトの優しさだと考えるのは、いささか深読みしすぎだろうか。いや、例えそうだったとしても、自分だけはそう思っておこう。

 

「…………うん、大丈夫。もう……大丈夫」

「ふぇ? な、なら良かった」


 トイニを抱きしめながら、リュナはその思いを心の奥へとしまうのであった。



「トイニ、ここ。どこ?」

「ここ? ライトの控室だよ。ほら、今試合やってる」

 

 色々あった心象も落ち着き、リュナが顔をモニターに向けた時には…………








『さあさあ、お昼を挟んで会場の修繕も終わりました。先ほどのセイク選手VSレクト選手の試合もす凄まじかったですが、この二人の試合も好カード! 良試合に期待しましょう!』


 会場が歓声に包まれるのも、会場にに立つ二人にはもはや慣れてきた。それでも、平時なら多少の緊張があるのだろうが、


「久しぶりだな、こう……おっと、ライト」

「そうだな、こうしてお前と闘うのは何時いつぶりだろうな」

 

 この二人にそんなものは見られない。ケンは今すぐにでも戦いたくてしょうがないと言わんばかりの表情を浮かべ、対照的にライトは落ち着き何か、昔の思い出に出も浸るかのような顔であった。



『両者位置について! それでは、二日目第三試合! ライト選手VSケン選手、試合…………開始!!!!』



「アイ…………!?」


 試合開始の合図とほぼ同時にケンの顔が跳ね上がる。ライトは、いつのまにか拳を振り切った

姿勢で相手の数メートル後方に居た。

 観客の大半はその一瞬で息を吞んだ。確かに、前の試合でのロロナも速くはあった。だが、あれは端から見ても大層なアーツやスキルを使ったものの筈だ。なのに、今目の前で放たれた一撃は彼女の速度に匹敵しながらも、ただ移動系のアーツを使っただけなのだ。


 その事実を理解した者はあまり多くはないのかもしれない。だが、少なくとも理解した者たちは疑いを確信に変えていた。あのライトと言うプレイヤーは、かつて第二のボスを単身で最速討伐を果たし、それ以降ロクに攻略で名前を聞かなかった為に失踪説すら騒がれたあのライトであるという疑いを。

 その事を理解した実力者たちは、皆こう思った“確かにケンも良いプレイヤーだが、所詮しょせんはパーティーの前衛職。ソロで活動を続けていたらしいライトには敵わないだろうと”

 ただ、


「いやー顔面のコリがほぐれたぜ~」

「ほぐれるどころか、よりガチガチになってないか」


 鋼鉄の信念(アイアンハート)で鋼鉄となった顔面で、笑みを浮かべるケンからはそんな絶望的な様子は一切感じられない。HPの減少は肉眼では確認できず、それどころか、


(固いな)


 ()()()()()()()()H()P()()()()()()()()()()

 

こんなに期間が開いてしまいすみません。

言い訳がましいですが、最近の寒暖差にやられ数日ほど寝込んでいた上にリアルの用事が重なり更新が遅れてしまいました。これからは元に戻していくので、どうかこれからもよろしくお願いします。

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