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第百十四話 過去

「お願い……私は、一体誰なの? 私はどんな人間だったの? …………教えて」


 消え入りそうな声だった。リュナは俯き顔は見えないが、その声色から大体の想像はつく。見知らぬ土地で迷子の子供が、不安で押しつぶされる寸前のような表情。


(コイツは、こんな顔をするのか……)


 その顔を見て、ライトは目の前の彼女が“天才”である前にただの少女である事を再認識した。至極当たり前のことなのだが、この世界に来てからすっかり忘れていた。この世界に生きるプレイヤーは、元々普通の生活を送るものが大半だ。いくら天才的なセンスがあっても、名前を失い、家族の記憶も失い、身に覚えもなく犯した罪を見せられた彼女。そんな状況で、ライトは自分の事を知っていると言ったのだ。

 しかも、リュナに対して敵対する意思も見せずに近づくあたり、あの行いを知らず彼女の事を知っている存在。つまり、元チームメイトやプレイヤーの可能性が高いと彼女は判断して言葉を発したのだろう。


 だが、実際のところライトはリュナという人物をよく知っている訳ではない。管理教団スーパヴァイスオーダーに入る以前の彼女については一、二度刃を交えた程度であり、その内面を深く知る程の交友は無かった。

 リュナに近づいたのも、ロズウェルへの手がかりを求めた上での行動であり、彼女を恐れなかったのは彼に倒されない、自身操作は簡単に破られるような力ではない、という半ば狂信にも似た信頼からくる行動なのだ。


「俺は、過去のお前を詳しくは知らない……。あくまで、このゲームに巻き込まれてから二、三度戦っただけだ」

「そんな……っ」


 残酷な事実。ようやく見つけた希望も、自分の過去を肯定してくれるものでは無かった。リュナの顔が曇っていく、膝を折ってしゃがみこんでしまいたい。そんな思いが胸いっぱいに広がったが、


「だから、これから話すことはただの想像だ。本当のお前を教えることは出来ないが、俺の感じたお前の事ならいくらでも話そう」

「えっ?」


 ライトは言葉を続ける。望む答えをを持たないのは事実だ。だが、それでも彼は目の前の泣き出しそうな少女をこの場で見捨てられるほど薄情な男にはなれなかった。


「最初にあったのは…………カンフでそっちから襲いかかってきた時だな。あの時からお前は戦闘狂バトルジャンキーだったみたいで、散々腕試しと襲いかかってきたな。……勿論、全部俺が勝ったがな」

「…………」


 記憶復元メモリーリペアを使い、ライトはリュナに出会ってからの事を事細かく伝えていく。数がないのなら、質を高めればいいと言わんばかりに一つ残らず彼女に関する情報を話す。

 彼女が絶望しないよう出来るだけフォローを入れ、まるで旧知の友人に近況を伝えるかのような口ぶりに何時いつしか聞き入っていた。


「多分、お前は自身の意思で弱いやつを一方的に襲った事は無かったんじゃないか」

「…………どうして?」


 その答えは、ずっと聞きたかったこと。


「俺の知っているお前は、このゲームを、戦闘を人一倍楽しんでいるような奴だ。そんな奴が、格下狩りなんて率先してやるとは思えないね。そんな暇があるなら、もっと強いダンジョンにでも潜ってると、俺は思うぞ」


 それは、都合のいい想像と言われれば反論出来ないような言葉で、リュナ自身も自分に何度も言い聞かせた仮定だ。だが、それでも自己暗示のように言い聞かせるのと、他人に言われるのではまるで違う。


「それに、修行で会ったお前は、何となくそんな奴だと思ったしな」

「修行?」

「ほれ、コイツがさっき言った()()ってやつさ。使うかはお前に任せる」


そう言って、ライトは何かを投げ渡す。リュナが手に取ったそれは、


「これ……は」

「ここ最近のものしかないけどな、ないよりはマシだろ」


 忍者の里で激闘の末、ライトが拾った“リュナの記憶”だった。少し前ならば、管理教団スーパヴァイスオーダーに染まり切った自分の事なんて、逃げ出してしまいたくなる程嫌になりかけていたのだが、


「ありがと…………それと、最後にお願い」

「なんだ?」

「何かあったらよろしく……ちょっと自分と向き合ってみる」

「? お、おい!」


 ライトが止める間もなく、リュナは記憶の結晶を自身の額に押し付けるようにして使用する。するりと、数センチ程の球体が彼女の頭蓋に侵入しする。彼女は、一瞬身を震わせたと思えば、脱力してその場で意識を失ってしまった。

 彼女が地面に倒れこむ直前、ライトはその体を支えたものの、この状態になった彼女はしばらく起きることはないだろう。ロズウェルへの手がかりを求めていただけなのに、いつのまにかこんなことになるとは予想だにしていなかった。、


「これで、また一つ闘う理由ができちまったかな…………」


 気絶したリュナの横顔を覗くと、そう呟いてライトは彼女を担ぎ歩き出したのであった。

 


 







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