第百十話 双銃VS炎拳
開始の合図とほぼ同時に、ロロナが両の拳に火を灯す。炎付与のスキルを使い、序盤から攻め立てるつもりなのだろう。だが、
「……ショット」
「っ!?」
それよりもザールが銃を抜き、発砲するまでの方が速かった。ロロナの眉間を狙った銃弾は、一分の狂いもなく直進し、彼女は大きく仰け反り倒れた。
『おおっとーー!!! オープニングヒットはザール選手か!?』
実況が騒ぎ、観客がどよめく一方、硝煙を吐き出す銃を構えながら冷淡にザールは口を開く。
「立てよ、そんなにダメージは喰らってねぇだろ」
「……ヨット。イヤー、流石の早撃ちだネ。ギルドでも見たことないカモ」
軽快に跳ね起きたロロナの手には、ザールが発砲したであろう銃弾が握られていた。彼女はそれを拳に灯った火で焼き尽くすと、足を肩幅に開き構えを取る。
「さあ、やろうヨ」
「面白れぇな、お前」
先ほどの銃撃はウォーミングアップと言わんばかりに、ザールの表情に真剣さと笑みが浮かぶ。対するロロナの方にもこれからの闘いが楽しみでしょうがない、と言わんばかりに口元が緩んでいた。
ザールの早撃ちをロロナは、斜め前に方向にステップを使って避けつつ接近。それを読んでいたいたと言わんばかりの不可視の弾丸が彼女の眉間目掛けて放たれた。
「ヘー、コレがあの不可視の弾丸ネ。確かに凄いけど、ボク相手にタネの割れた技はそうそう当たらないヨ」
「……ッチ」
しかし、ロロナの右手には三指の指に二つの弾丸が挟まれ止められていた。確かに不可視の弾丸は一回戦でキアンがそのトリックを見抜いているが、だからといってすぐさま対処できるような技でもないはずなのだが。それを可能にしているのは、ひとえにロロナの技量の高さである。
ロロナの手から投げ返された弾丸は炎を纏い、ザールの視界を一瞬眩ませた隙に彼女は活歩で懐に潜り込む。左フックがザールの横腹にめり込み、彼は少し顔を歪ませる。彼の顔が下がったところに、追撃の右アッパーが入るかと思われたが、
「グッ……ようやく本気カナ」
「ここまで早く抜かされるとはな。だが、ここからは本気だぜ」
ザールが二丁目の銃をロロナの顎目掛けて発砲する。彼女は素早く首を振って、直撃は避けたが頬に一筋の赤い筋が刻まれた。それでも、彼女は追撃に動いたが、直撃を避けるためにできた一瞬の隙に、ザールの銃から何かが落ちた。それはマガジンのようでもあったが、それが落ちたのは今発砲した方だ。一発しか打っていない銃をリロードをするのは、あまりにも不自然である。彼に限って、事前に弾を込めるのを忘れていたなんてことはないだろう。
「爆ぜろ」
「なっ…………!」
弾がほぼ満タンに入ったマガジンが地面に落ち、中に入っていた弾丸が全て衝撃で爆発する。激しい閃光でロロナの視界が白く染まっていく。空白の時間は短いが、それでもザールが十分な距離を取るのには十分すぎる。
「Hundred shoot!」
ザールの声と共に、二つの弾丸がロロナの肩と脇腹を抉る。しかし、そのダメージよりも今気にかけるべきなのは彼との距離だ。この距離ではロロナに勝ち目はほぼ無いといっても過言ではない。彼女はすぐさま強化アーツである練気功で全身を強化し、再度接近を試みる。
二丁拳銃での不可視の弾丸は脅威だが、前面からくる攻撃なら対処はできる。ロロナは迫りくる弾丸の雨を捌きつつ、徐々に接近していく。多少のかすり傷は覚悟の上、それでも接近できれば流れは自分の方に傾くはず。そう信じてまた一歩、足を踏み出したその時。
「うっ…………」
「どうした? 背中ががら空きだぜ」
ロロナの背中に二発の銃弾が着弾した。一回戦で見た追尾弾にしては速度が速すぎる。一度は見切り、避けた筈の弾丸が急に曲がったかのように背中に当たったのだ。
(跳弾ってヤツなのカナ……)
「Six burst!!」
背中の銃弾にあたりをつけた瞬間、二丁の銃が激しいマズルフラッシュと共に三発づつ弾が吐き出される。三点バースト、普通なら反動で照準がずれてしまうものなのだが、ザールはそれを逆手にとる形で、それぞれの弾丸は眉間、水月、肩、足と合計六発の弾丸は別々の標的に放たれる。
跳弾への驚きで足が止まったのは一瞬だったが、さらに三点バーストの物量からからロロナはその場に釘付けにされてしまった。前後からの弾幕に、不可視の弾丸まで混じりだした。左手で二つ、右手で二つの弾をつかみ取り、次の弾を炎で焼き尽くそうとしたが、
「お前の炎は中途半端なんだよ」
「!?」
ザールは、弾が燃え尽きる前に弾を後押しするように次弾を発砲し、ロロナに弾を当てたのだ。
「弾弾き、この技見せるんだから見料は高いぜ」
もはやザールの放つ弾は変幻自在と言っても過言ではない。本来、弾の速度はしっかりと目で追い切れるものではない。銃口の向き、銃者の目線、それらの要素から弾の軌道を無意志の内に予測することで、ロロナは銃と渡り合っていたのだ。
だが、それは弾弾きによって成り立たなくなる。予測した筈の軌道から鋭く曲がり、追尾弾、不可視の弾丸を織り交ぜられるとロロナでも追いきれない。
(ボクの炎が中途半端…………カ。確かにそうかもネ)
ロロナの炎は取り回しの良さに優れているようで、実は確固たる強みがないのだ。近接職が炎の属性を持つことはよくあることで、この本選でも持つものは多い。一口に炎といっても、オバンドなら範囲、サイアなら火力と+αとなる特徴があるのだが、ロロナにはそれがない。彼女の持つ格闘センスにその事実が覆い隠されていただけなのだ。
(ヴィールは滅多に使わない上に、“まだ修行中だ”なんテ言ってた技まで使ってたっけ)
「Six hundred shoot!!」
ひときわ強い弾幕がロロナを襲い、決まった。そう観客も思っていた。もう彼女のHPは残り少ない上に、仮に今ので生きていたとしても、距離を詰められない今の状況ではすぐにでもやられるのがオチだ。ロロナに賭けた観客が、一斉に肩を落とし始めた。その時、
「…………アンナこと言われたら、ちょっとくらい無茶してもキミに勝ちたくなってきちゃったカモ」
一瞬、オレンジの炎が噴き出したと思うと炎型のガントレットを嵌めたロロナが、闘士を燃やす瞳でザールにそう指を突き付けていた。
先日、とあるネット方にロズウェルの絵を頂きました。
そのようなことは初めてで、かなり舞い上がりながらも許可をいただいたので、こちらに掲載させていただきます。https://28837.mitemin.net/i371424/