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第百四話 自動人形(オートマトン)


「そうか」


 ライトの返事は短い。その右手には、魂喰らい(ソウルイーター)の片割れが握られ、青白い光が揺らめく。この武器の最大の特徴は、“攻撃時にSP吸収”という効果。普通なら、SP減少速度がやや緩やかになる程度のものだが、ライトの攻撃速度ならその普通を超える。これによりライトの移動アーツの限界はほぼなくなったといってもいい。

 四方から迫るライトに袋叩きにされるオバンド、しかし、その目は死んでいない。未だ追いきれないまでも、眼球を必死に動かし相手の動きに対応しようとする。


(元々自力が及ばないなら、隠していてもしょうがない。ここで、全てを出し尽くせ!!)


 この本選はトーナメント、切り札を隠せるなら隠したまま勝ち上がれる方がいい。だが、全力を出すと決めた今、何かを出し惜しむ気など毛頭ない。


「ッ!」

「獄炎の大槌…………全力だっていったろ?」


 オバンドが赤い宝石のようなものを取り出し、それをハンマーで砕くと彼ののハンマーが豪火に覆われる。砕いたのは、火の魔力が込められた魔石であり、これ一つで半月以上の稼ぎが吹き飛ぶ高級品であるだけに、それを触媒にして使われるこのアーツはオバンドの切り札である。

 まず、単純に炎の分攻撃範囲は増大し、当たる可能性も上がっている。さらに、このアーツはライトの弱点を突くものでもある。


 ライトの戦法は著しく尖っている。防御手段は基本回避、唯一の防御スキルは即死回避のみであり、速さを求めた結果、彼は状態異常対策が殆ど出来ていない。獄炎の大槌は、その弱点を的確に突く。ライトの脆弱な耐性では、攻撃を受けた瞬間確実に燃焼の状態異常を引き起こす。それは、即死回避で一残ったHPを即座に削る事を意味する。

 一撃貰えば、確実に即死。押しているようで、薄氷の上の戦況。それでもなお、ライトが精神的動揺を引き起こすことはない。自身操作による集中力の増加と、それを活かした高速戦法を選択したのはライト自身だ。それを疑い、動揺することはリースへの裏切りにほかならない。彼女がくれた力が、目の前の男の力ごときに負けるはずがない。それを証明するために、彼はさらに意識を尖らせる。四つの視界を、四つの思考意識を作ることで制御し、オバンドのHPを削っていく。


(チャンスは一度……確実に決める)


 オバンドは耐える。全身を刺すような痛みにももう慣れた、あとはタイミングをはかるだけ。久しく忘れていた感覚だが、この極限状態で彼の集中力は最大まで高まる。あと数撃で彼のHPは無くなるところまで削られながらも、その一瞬を逃さなかった。


(今だ!!!)

大地極振グランクエイク大噴火イラプション!!!!」


 獄炎の大槌から炎が噴き出し、それをオバンドは全力で地面に叩きつける。彼が狙ったのは、四人のライトが地面に着地している瞬間。大地は揺れ、裂けた大地から炎が噴き出す。その揺れは、分身を消し去り、荒れ狂う獄炎と共にライトに迫る。


「縮地」


 だが、彼の体はそれを遙かに凌駕する速度で移動し、オバンドが一縷いちるの望みをかけて放ったアーツを避けきってしまう。が、


「スラッシュスイング!」

「!?」


 その先にはオバンドがいた。彼が発動するのは、威力は低いが出の早さはハンマー系アーツでも最速の一撃、それでさえライトにとっては即死のダメージを与える。オバンドは、最大の一撃が避けられる前提で、炎の噴出先を操作し、ライトがこの場所に来るように誘導したのだ。

 そして、オバンドは知っている。ライトが使ったアーツは縮地、それは移動系のアーツでも最高レベルの性能を持つものだ。だが、それゆえに弱点を抱えている。


 このゲームのアーツには“キャンセルランク”というものが設定されている。これは、今や必須テクニックとなったチェインを使う上で重要な概念であり、端的に言うならば“同系統のアーツはキャンセルランクがそのアーツより高いものでしかチェインを繋げられない”というものである。

 例で分かりやすいのは、ステップ、ハイステップ、縮地の三つだろう。この三つは同系統のアーツであり、キャンセルランクは『ステップ<ハイステップ<縮地』である。ステップからステップは繋がらなず、縮地を発動してしまうと、別の系統のアーツをチェインしなくてはならないのだ。


 これこそが縮地の弱点、なまじ移動系アーツの最上位に位置しているが故に、他の移動系アーツに直接つながらないのだ。これは、瞬身や変わり身も含む。

 今、ライトがチェイン出来るのは移動系アーツ以外。だが、攻撃で相殺できるほどオバンドの一撃は甘くない、かといってアーツやスキルを使わなければアーツ後の硬直で動けない。


(決めるっ!!)


 オバンドが持つ、最速の一撃が振り下ろされ辺りには土煙が巻き起こる。

 手ごたえは…………あった。





「な、…………にっ!?」


 だが、土煙の先で赤く光る大槌は、何かに受け止められていた。視界が晴れ、オバンドが見たものは、


「…………」


 緑の髪をたなびかせた人型の何かが、そこにいた。顔は綺麗な女性のようで、エメラルドのような目がオバンドを見据えていた。全体的に生命を感じさせない無機質な“それ”こそが、オバンドの一撃を受け止めた正体であった。

 その存在に目を奪われていたのも一瞬、次の瞬間にはオバンドは空を見上げていた。腹には感じた斬撃の痛みを知覚して、ようやく自身HPがゼロになったことを理解したのであった。





『し、試合終了!!!! 勝者、ライト選手!!!!!』


 実況がようやく自身の仕事を思い出し、試合終了を叫ぶ。観客は何が起こったのかも完全に理解できずに、口を開けたままの人々すらいた。



「ご無事でしたか、ご主人様(マスター)

「ああ。上出来だ、ミユ」


 ミユと呼ばれた少女は、平坦な声でそう言うとまた押し黙った。彼女の正体は、自動人形オートマトンである。通常、それはまだ戦闘に耐えうる程の域には達していない。今の最先端ならば、並の戦闘には耐えるかもしれないが、それでもこの大会のような上のレベルの闘いについていけるものではないはずだ。ならば、なぜそれを可能にしているのか。


 自動人形オートマトンの強さは、主に外郭とコアの二つの要因で決まる。ミユの外郭は、かつて忍者の里でコアを壊したあのカラクリ人形である、ライトのステータスのコピーに耐えるそれは、今の生産職が作り出す最高品質のものと同等か、それ以上の外郭となる。さらに、動力となるコアにはあのマウンテンゴーレムのコアを使用している。今の攻略組では、ソフトボール大のコアを作れるようになったらしいが、マウンテンゴーレムのコアはバスケットボールほどもあり性能差は圧倒的である。その二つを合わせて作られたのがミユだ。ここまで高性能な品を使った自動人形オートマトンなら、威力を犠牲にした一撃を止めることなど容易たやすい。


 ライトがあの一瞬で選択したのは、“口寄せ”のスキルである。カラクリ人形を口寄せするという実に忍者らしい戦法で、彼はミユを口寄せし、あの窮地を脱したのだ。

 そうして、ライトと一人の自動人形は勝者として会場から去ったのであった。

 



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