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第百ニ話 洗脳

 ズシンとあたりが揺れる。今頃、レクトVSネロの攻略組同士の対決が始まっているのだろう。ライトは今、コロッセオ地下にある選手控室に居た。ここは、選手なら大会中いつでも出入り自由な部屋であり、室内に設置された内線を使えば、他の選手の部屋に行ったりもできる。

 ライトがここに来たのはとある目的の為だ。トイニは“この試合を見たい”と言っていたので、追加のジュースを渡して置いてきたので、一試合の間程度なら大丈夫だろう。彼が手に取ったのは、参加者の部屋同士をつなぐ内線機器。基本的に、参加者は自身の部屋にしか入れず、他人の部屋に入るには、このように一度内線で連絡をとった後に、部屋の持ち主から許可をとらなくてはならない。


『もしもし、俺だ。約束の通り、少し話を聞かせてもらいたい』

『…………はい、分かりました』


 通話機械越しにくぐもった声が聞こえ、通話が切れるとライトの横にワープポイントである青い光の柱が出現する。

 それに入ると、そこには甲冑を脱いだティーダとラフな格好に着替えたロロナがいた。テーブルには、ジュースとお菓子が置かれ、小さなパーティーでも開いているかのようだった。


「女子会でもしてるのか、お前らは」

「いいんじゃないカナ、真面目な話ばかりじゃ疲れちゃうヨ」

「ああ、ロロナが色々持ってきてくれたんだ。お蔭で少し落ち着いた」


 そういって、ティーダは手にした紅茶に口をつける。ライトがその姿をみても、特に異常な魔力の流れは感じない。ティーダVSロロナ戦の後、ライトはロズウェルの足跡を追うために話を聞きたいと思い立ち、ロロナを通じてティーダと話す機会を作ってもらったのだ。

 管理教団については、噂や存在程度なら掲示板でも出回っているが、こんな祭りムードで人が集まる中で、最大規模のPVギルドが活動しているかもしれないなどと知れ渡れば、確実にパニックが起こる。ここなら、許可がなければ入ることもできない上に、盗聴される心配もない。


「単刀直入に聞くが、ロズウェルという男に心当たりはあるか? 金髪でスーツ姿のいけ好かない野郎なんだが」


 ロロナがポット淹れてくれたくれた紅茶を受け取り、一度口をつけてからそう切り出した。


「ああ……あまり覚えていることは多くないが、話せることなら話そう」


 ロロナはスナック菓子を口に含みながら、ライトは早くも二杯目の紅茶を注ぎ入れるなか、ティーダはまだ僅かに暖かい湯気を立ち昇らせるカップを両手で持ったまま語り始めた。





「はぁはぁ…………螺旋槍撃スクイーズスクリュー!!」

「無駄だよ」


 ティーダが放った一撃は、目の前の男に掠ることもなく、それでいて彼が彼女を通り過ぎた時には、鋭い痛みを両足に感じて座り込んでしまう。

 帰還石を使おうとしたのだが、一瞬空が紫色にまたたいたと思うと不発となってしまう。もはやSPもMPも殆ど残っていない。彼女はポーションを取り出し、まだ闘おうとするが。


「あっ!」


 目の前の男、ロズウェルが長い脚でティーダの手元を蹴り飛ばし、衝撃でポーションの瓶は彼女の手を離れ、近くの地面を濡らすだけにとどまった。


「貴様は…………一体何が目的なんだ」



 もはや体はまともに動かないが、それでもティーダの闘士は失われていない。息も途切れ途切れになりながらも、ロズウェルを睨みつける。


「そうだなぁ、ちょっと倒してもらいたい奴がいてね。手駒は多い方がいいだろう?」

「貴様、何を言って……」


 ティーダが言葉を言い切る前に、彼女の眉間にスペードの二が深く突き刺さった。その瞬間、彼女の意識は途切れ、全身から力が抜けたように倒れた。すると、そのトランプは彼女の額にゆっくりと入り込んでいく。そして、完全に入り込むと、彼女のオレンジの瞳に赤が一筋混ざった。


「…………」


 次にティーダが体を起こしたとき、ロズウェルの姿はなかった。そうして、彼女は無言のまま夜の闇に紛れていった。








「私の記憶では、それからの記憶は殆どない。意識がはっきりしたときには、私はあの会場で倒れていた」


 そうしてティーダは話を区切った。ライトは、彼女が話す内容に耳を傾けながらも、魔力の流れを探ってみるが特に異常な気配は感じない。


「そして、アイテムポーチにはこれが入っていた。正直、私にはこれがどんなものなのか想像もつかない」


 そういって、ティーダはアイテムポーチからスペードの二のトランプを取り出した。それから感じる魔力は僅かだったが、確かにロズウェルから感じた魔力と同質のものであった。


「なにコレ? トランプ?」

「こいつはロズウェルのものだな、俺が戦った時もこんなのを使っていた筈だ」

「何! おまえ、あいつと闘ったのか!」

「ライト、それホント! 大丈夫だったノ!」

「大丈夫だっての。倒し切るのは無理だったが、倒されないくらいならなんとかなる」


 迫る二人をなだめ、ライトは四杯目の紅茶を注ぐ。ロズウェルについては、少しでも多くの情報が欲しいうえに、警戒を強めてもらう必要もある。ライトは神の従者に関することは伏せつつ、ロズウェルの戦闘で気づいたことを話していく。


「おっと、そろそろ時間だ。じゃ、俺はもういくぞ。お茶、ごちそーさん」


 レクトVSネロの試合が終わったようで、ライトのメッセージ欄に"試合の準備をしてください"のメッセージが届き、彼はワープポイントを通って自身の控室に戻ってしまう。


「なあ、ロロナ。あいつは一体何者なんだ?」

「ンーそうだね…………」


 自身が全く歯が立たなかった相手と、互角に近い男の後ろ姿を見送ったティーダは、細い声でロロナに尋ねる。隣にいた少女は、中身のなくなったポットの中を除きながら、


「凄く強い、ただのソロプレイヤー。カナ」


 そう、一言だけ話すのであった。


 

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