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第百一話 切り札

 先に仕掛けたのはヴィールだった。相手妖精の実力が未知数な以上、短期決戦を挑むのがこの場での最善との考えでの戦法。


風鎧かぜよろいまとい!)


 移動速度の上昇に加え、遠距離攻撃に対して耐性の付くアーツを使用することで魔法への対処をしつつ、セイク以上の速度で距離を詰める。まずは、不確定要素であるフェデイアを処理しようとするが、セイクがそれを阻むように体をヴィールとフェデイアの間に割り込ませる。

 

「風刃・つちふる


 ヴィールが地面を削るように刀を振り上げると、セイクとフェデイアの視界は砂に覆われた。この砂煙が晴れるのに数秒もかからないだろうが、今はその数秒が命取りだ。


(取った!)


 ヴィールが、フェデイアの居た位置目掛けて刀を振るう。気配察知のスキルで、この視界でも相手の位置は分かる。セイクが妖精を召喚したときは驚いたが、動き出す前に処理してしまえば問題はない。

 きわめて冷静に、ひたすらに自分の知識から最善手を導き出して取り続ける。それができるから、ヴィールはこの世界で攻略組というギルドをまとめ上げ、ここまで成長させることができたのだ。


 だが、対するセイクもこの世界で一人パーティーを引っ張り、トップクラスの実力を持つ存在だ。そして、前衛職でありながら、妖精と契約を結ぶ異常性も持ち合わせている主人公の一人である。


光壁ルーミンウォール!!」

「なっ!」


 ヴィールの手に帰ってきたのは、固い壁を叩いたような感触。あの状況なら、防御手段は自分に使うはずという予想に反して、セイクは光の壁をフェデイアの周りに展開し、間一髪でヴィールの攻撃を防ぐ。

 フェデイアは、セイクが防御してくれるのを信頼して、既に詠唱を終えている。ヴィールの防御は間に合わない。彼女の手が一瞬、きらめいた瞬間、光の筋がヴィールを貫く。


「大丈夫か、フェデイア!」

「はい、大丈夫です! セイクさんこそ大丈夫ですか?」


 砂煙が晴れると同時に、フェデイアの無事を確認して一度距離をとる。ヴィールの方に目線を移すと、撃たれた肩にポーションを振りかけ、治療を手早く終えていた。


輝星・一矢(トゥインクルシュート)か、出の早い光属性の魔法だな。しかし、この威力、プレイヤー並だな…………やはり長期戦は不利だ)


 出の早い魔法なだけあって、あまり威力は高くないものの、それでもフェデイアの力量は大体把握できた。このままではジリ貧なのは目に見えている。ならば、今とれる最善手は、全力をもって賭けにでるしかない。


「…………」


 ヴィールは、SPポーションを一気に飲み干すと足を肩幅に開き脱力したような構えをとる。一見隙だらけに見えたのもつかの間、彼の周りを風が吹き荒れていく。それは、今までの風鎧の比ではない。前髪をそよがす程度だった風は、スーツをはためかせ、あたりに軽く砂を巻き上げていく。


「豪風円舞・改!!」


 そのアーツ発動と共に、ヴィールの動きはすべて段階が上がる。セイクが、ヴィールの猛攻を受けるも、防御で精一杯になってしまう。これが一人だったらこのまま倒されていただろう。だが、


輝星・一矢(トゥインクルシュート)   連弾(マヌスクアトロ)十八矢(ルーキス)!!!」


 セイクの後ろから、フェデイアが援護の魔法を放つ。十八もの光の矢は、上手くヴィールの連撃を止め、セイクは体勢を立て直す。フェデイアの援護もあって、闘いは互角に見えている。だが、内心では両者焦っていた。


(決め手がない)


 そう焦っていたのは、セイクだった。彼のパーティーでの立ち位置は、前衛兼遊撃と決まった役割はない。ケンのように、物理に特化したわけでも、リンのように遊撃に優れているわけでもない。

 何でもできるが、何もできない。このまま長引いて、フェデイアのMPが尽きてしまうと打開策はなくなる。切り札はある、しかし失敗すればそのまま敗北に繋がる鬼札でもある。そのリスクを恐れて、セイクは切り札を切りかねていた。


(そろそろか。ここで仕掛けなければ、こちらがやられる)


 そう考えていたのは、ヴィールだった。豪風円舞・改は、SP、MPを同時に消費し続ける代わりに、幸運以外のステータスを大きく上昇させる上に、各種攻撃への耐性を持ち、一定ダメージ以下の相手の攻撃は、風により自身から逸れていくという効果を持つ強力なアーツなだけに、消費も激しい。

 今の二対一の状況でも戦えているのは、このアーツのお蔭である。豪風円舞・改を維持できている今のうちに決めなければ、勝ち目は無くなる。先に仕掛けたのはヴィールだった。両の刀で暴風を起こし、バク転で大きく後ろに下がる。


「暴・雷風刃!!!」


 その叫び声とともに、ヴィールを覆う風が全て左の刀に集まり、右の刀に雷が落ちる。

 ヴィールが両の刀を振るうと、二つの斬撃が風と雷を纏い飛ぶ。


「フェデイア! 俺の後ろに!」


 セイクはとっさに防御姿勢をとり、フェデイアの前に出る。光防護壁ルーミンコートを使用したものの、HPは目に見えて削られていく。まさに暴風雨のごとく迫る風と雷の斬撃から逃れるすべはない、数の不利も、距離の不利も吹き飛ばす、ヴィールの切り札だ。このままでは、すぐにでもこちらのHPは無くなる。


(…………覚悟は決まった)


 セイクはちらりと背のフェデイアに視線を移す。彼女もまた、覚悟を決めた目線をこちらに返してくれる。失敗すれば負ける。いや、例え失敗しようが勝ってみせる。それが、パーティーメンバーへの示しであり、この試合を見ているであろう、かつて自分が誘えなかった友人へのメッセージだ。


「いきます!」


 フェデイアが、強めの闇魔法をヴィールに向けて放つ。それは無数の斬撃によってかき消されてしまうが、一瞬セイクに届いていた攻撃が止まる。それを合図に、二人は全力をもって走る。

 二人の口が同時に詠唱を始めた。


「何をするかわからんが、やらせはせんぞ!!」


 その呪文は、ヴィールでさえ聞いたことはない言葉。だが、それを完成させてはいけない、そう今までの経験から判断し、さらに攻撃速度を上げる。


(しまっ…………、これじゃ呪文が不完全だ)


 その猛攻により、切り札である人妖合身に淀みが生まれてしまった。乱れた互いの魔力が、行き場を失い体を破壊にかかる。このままでは、次の瞬間には二人そろって行動不能に陥る。


「負けて…………たまるかぁ!!!」


 フェデイアと共に自身の中に流れ込み、暴走を始める魔力を、セイクは無理やり騎士剣に流し込むことで、自己の破壊を防ごうとしていく。魔法専門に使う者からしたら、無謀としか呼べない行為。普通にやったところで、魔力に飲まれるのがオチだ。だが、その無謀を彼は成し遂げようとしていた。

 常識外れの量の魔力を注がれた騎士剣は、その体躯を二回りは巨大化させ、光り輝いていく。


巨躯なる(エクスヴェルド)聖剣(ディアボース)  不完全エクセクエンス!!!」


 その大剣をもって、セイクはヴィールの斬撃をかき消しながら接近する。

 二人の距離はあっという間に縮まった。風雷の刀と、巨躯なる(エクスヴェルド)聖剣(ディアボース)  不完全エクセクエンスが衝突する。


 交錯は一瞬だった。辺りにに衝撃がまき散らされ、観客も実況も思わず顔を覆うほどの光と風が駆け巡る。そして、


『き、決まりましたぁぁぁぁ!!!  第三回戦、勝者、セイク選手!!!!』


 ボロボロになりながらも、剣を掲げる一人の聖騎士の姿がそこにはあった。





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