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第百話 主人公VS攻略組

「そろそろか…………」


 セイクは控室の中で一人座っていた、既に前の試合は終わっている。試合相手であるヴィールは、攻略組の幹部であり、創立当初から組織を戦闘、経理、人脈と幅広く支えてきたことから実質的な攻略組のトップと言う人間が多いほどの実力者だ。だが、そんな実力者を相手と戦うというのに、セイクは今一つ身が入っていなかった。


(あいつは、今どうしているのだろうか)


 思い浮かぶのはトーナメント表に記されたライトの文字。思い返せば、彼とは長い付き合いだった。小学生のころからの友人で、リンやケンらとも友人だと思っていた。だから、このゲームを始められるとなったときは素直にうれしかった。だが、このゲームが脱出不可能のデスゲームとなったとき、パーティーメンバー制限で五人までしかパーティーに入れられなくないという現実に直面した。

 このゲームを一緒に始めた友人は五人。これがただのゲームの時であれば、二つにパーティーを分け、楽しく攻略を進めていれば良かった。しかし、デスゲームとなった今、フルパーティーでないというのは多大な危険が伴う。戦力的な不安に、精神的な不安も大きい。他人をパーティーに入れれば、それだけPKなどを引き入れてしまう可能性がある。


(あの時のこと、あいつはどう思っているのだろうか)


 自分はβテスターだ。このゲームのことを,

開始時点では一般プレイヤーより多く知り、装備も充実していた。だからこそ、パーティーメンバーの不安と、自分への信頼が混ざった表情を無視することはできなかった。そもそもゲームの経験が浅いシェミルとフェニックスは勿論、いつもは気丈なリンや、ケンですら不安を隠しきれていなかった。”βテスターである自分が、皆を引っ張っていかなくては”それを考えて、このゲームを攻略してきた。その結果、アマネラセというパーティーで活動し、生活が安定するどころか、攻略組に迫る勢いで攻略を進めるまでになった。


 しかし、それは最初の町で友人全員でパーティーを組むことは出来ない。それを突きつけられた際に、自ら身を引き、ソロで活動を始めたライトのお蔭でもある。それから、彼とはしばらく連絡が取れなかった。”もしかしたら既にやられてしまったのかもしれない”、彼と別れてから数日はそのことばかり考えていたが。第二のボスの最速討伐の知らせを受けて、そんな心配は杞憂であったと悟った。そして、同時に自身よりもっと上のレベルに彼がいるということを実感し、それに追いつくように自分を鍛えてここまで来た。

 アマネラセというパーティーが有名になってきたころ、ライトに合流しないかと話を持ち掛けたことがある。彼が入ってくれるのであれば、アマネラセの規模は拡大し、実力も申し分ない。なんならギルドととして立ち上げると言ったのだが、”俺はソロの方がいい、慣れちまったからな”そんな一言だけであっさりと断られてしまった。


 思い返してみると、ライトと闘ってみたことはなかった。そんな機会は無く、また、闘おうとは思ったことはなかった。だが、トーナメントを見たときは、パーティーメンバーと一緒に驚いたものだ。自分とは反対のブロックだが、確かに"ライト"の三文字があったのだ。


「…………もう時間か」


 試合開始が迫ることを知らせるコールで、思考は中断させられた。セイクは傍らに置いた剣を手に取り、試合会場に転移する為のポータルに足を踏み入れた。



『さーさー、皆さんお待ちかね。一回戦左ブロックで最大の賭け額を記録しているこの試合! 攻略組のまとめ役、ヴィール選手VS夜明け(アマネラセ)のリーダーセイク選手のバトルでーす!!』


ヴィールはパッと見るとスーツを黒いスーツ姿にも見れる格好だが、その腰に携えた二本の刀のせいで彼を会社員と誤解するものはいないだろう。


『さあ、両者準備はよろしいでしょうか!!』


 実況の声が響く、二人が軽くうなずき武器を構えると、


『第三試合開始でーす!!!』


 その合図と共に二人は弾かれたように飛び出した。

 セイクは聖衣を使い強化された筋力を持って剣を振るい、ヴィールはそれを刀の腹で滑らし流す。


「最近経営が忙しかったんでな、本気を出させてもらおうか!」

「ッ!」


 セイクが何かアーツや呪文を使う隙も無かった。ヴィールの首を狙った一太刀目を剣で防いだが、もう一本の方の刀がセイクの足を切り裂く。VITが高いセイクは、それを無視してスラッシュで攻め立てようと力を込める。

 が、ヴィールは剣に防がれた方の刀を、人差し指を軸に親指ではじくことで回転させる。それにより、急に抵抗がなくなったセイクは拍子を外され、体重が前に流れる。転ぶ前に踏ん張ることは出来たが、ヴィールは刀を上段に構え、セイクはほぼ無防備な状態。


春嵐はるあらし!」

防御魔壁プロテクトコート!」


 剣での防御は間に合わない。セイクは防御壁を張る魔法を使って防ごうとしたのだが、ヴィールの風を纏った振り下ろしは、それを易々(やすやす)と切り裂きセイクに到達する。


『おおっとー!! これはヴィール選手いきなりの大技だぁ! セイク選手このまま終わってしまうのか!』


 土煙が上がり、二人の姿が隠されたが、ヴィールが風を纏った刀を振ると同時に煙は晴れる。セイクは追撃を受け止め、ヴィールの振るわれた二本の刀との競り合いとなった。STRはセイクの方が高い筈なのだが、ヴィールは二本の刀に力を分散させることで、上手くセイクの剣に抑え込まれないようにしているのだ。


「お前、真面目にやっているのか?」

「あたり……まえだっ!」


 競り合いのさなか、ヴィールが話しかけてくる。その内容は小馬鹿にするというよりも、喝を入れようとしているようにも聞こえた。それの言葉に反論するように、セイクは押し込む力を強めるも、ヴィールが移動系のアーツを使い、セイクの周りを回るように翻弄する。一瞬、セイクの視界からヴィールの姿が消え、出の早いアーツである突風とつきかぜが背中に直撃する。


「お前が、何を目的にこの闘いに参加しているのかはどうでもいい。だが、今は目の前の闘いに集中することだ」

「!」


 斬撃に息が詰まりそうになりながら、それを忘れるほどヴィールの言葉が突き刺さる。

 もう、余計な事を考えるのはやめた。


「なるほど、吹っ切れたか。…………だが、手加減する気は毛頭ないぞ!!」


 ヴィールの攻めがさらに激しくなる。セイクは、相手の動きをある程度予想をして攻撃するも、ヴィールの連撃を途切れさせることはできない。

 こちらが剣を振るえば、左の刀で受けら右の斬撃を受ける。防御を固めて相手の攻撃の終わりを突こうとも、一撃目、二撃目を受けて三撃目につながる前に、剣を構えて突進するも、ひらりと側面に回られてしまう。


(一度距離を取らないと……)


 今やらなくてはいけないのは、ヴィールから距離を取ることだ。セイクの持つ剣はヴィールの持つ刀より僅かに長い、互いに前衛職な以上その僅かな差は大きく戦況を左右する。それに、序盤のもたつきで減ったHPとMPも回復したいが、それを許してくれるほどヴィールは甘くない。

 攻略組幹部なだけあって、対人戦の経験も豊富なようで、自身に最適な距離を保ちながら、セイクがステップなどで無理やり離れようとすれば、瞬時に追いかけ、アーツでの打開も簡単には許してくれない。攻略組の実質トップであるからこそ、ヴィールはこのゲームのテンプレートともいえる戦法、スキル構成、アーツの効果も知り尽くしている。


 そんな彼から逃れるために必要なもの、それは"普通"では計り知れない手段で手に入れた手段だ。


「何っ!?」

「大丈夫ですか! セイクさん!」


 この試合初めてヴィールが驚きの声を上げ、体制を崩した。彼の今まで攻められていたセイクの後方から、光槍レイランスが飛んできたのだ。セイクは確かに光の魔法に適性のある聖騎士だが、魔法はあくまで補助。そのリソースは前衛としてのものに割り振られ、こんな高レベルの魔法を使えるまでの余力はない筈だった。


「ああ、助かったよ、フェデイア」

「…………良かった、いつものセイクさんに戻ったみたいですね」


 ヴィールの常識では、妖精というものは高レベルの魔法言語がなければ会話することもできず、そもそも魔法職として高い実力がなければ姿を現すこともなく、それらをクリアしたうえで強い絆がなければ契約などできないほどの存在の筈だ。


「ごめん、ちょっと上の空になってたみたいだ。こっちも全力でいく。力、貸してくれるかな」

「もちろんです! 一緒に闘いましょう、セイクさん!」


 断じて、聖騎士のような前衛職で魔法を補助程度にしか扱わない者がパートナーにできるような存在ではない。しかし、目の前のセイクはそれを成し遂げていた。詳しい原理は分からない、スキル構成なんて予測もできない。だが、


「やっと楽しくなってきたな」


 HPポーションを服用しながら、ヴィールは立ち上がり二刀を構える。


『こ、これは!!! セイク選手、妖精を召喚したようです! 純粋な魔法職以外での妖精との契約者は初! これはこの試合分からなくなってきました!!!』


 片方はロングソードを構え、傍らに妖精が浮遊し、もう片方は二本の刀を構えて鋭く相手を睨む。今度こそ、Decided strongest 第三試合が始まろうとしていた。 

 

 






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