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第九十九話 炎拳VS水槍

 キアンVSザールの決着がつき、会場には歓声と共にただの紙切れとなった賭博券が宙を舞う。だが、まだまだ観客の熱は冷めることはなく、次の試合への期待で加熱していく。第二試合は、攻略組の上位層でありながら、ルックスに人当りもよく一般プレイヤーからの人気も高いロロナの試合ということもあり、観客は高揚していた。

 

『さぁさぁ皆さんお待ちかね! 第二回戦のお時間です! 攻略組のチャーミングな幹部、ロロナ選手VS麗しき槍使い、ティーダ選手の試合です!』


 熱狂する観客に負けないよう、実況が声を張り上げ二人を紹介し、二人の少女は向かい合う。ロロナはひらひらとした布装備、対照的にティーダは銀色に輝く鎧の重装備。装備も対照的な二人だが、実は立場も対照的である。攻略組の幹部というこのAWO屈指の実力者であるロロナと、傭兵としてかなり評判が高いティーダ。賭けのオッズはロロナよりではあるものの、先程のキアンVSザールほどの差がない。


『両者準備ができたようです!! それでは!! 第二試合、開始でーす!!!!』


 その合図とほぼ同時にロロナが飛び出す。気功で強化された肉体は一息でティーダとの距離を埋める。二人の距離は約2メートル、既に槍の距離ではないが、ティーダは瞬時に槍を短く持ち直し対処する。


「三連槍」

「鋼気功!」


 ティーダの突きを一つ、二つと避け、三つ目を防御を固めた手のひらで流しながら前への一歩を踏み出すが、


槍薙そうなぎ!」

「!」


 ティーダは薙ぎ払いのアーツをチェイン。ロロナは両手をクロスさせて受けるも、その衝撃で後ろにと後退させられてしまう。


『おーおっと! 両選手のっけから激しい攻防だぁ! しかしこれで距離が開きました! これはティーダ選手の間合いだ!!』



 これで二人の距離はまた開き、さらにこの距離は槍の距離だ。こうなるとキツイのはロロナの方で、このままではSP、MPともにジリ貧である。だが、このままやられるようでは攻略組の幹部はつとまらない。

 ロロナは自ら後ろに跳び、これで槍の射程から逃れる。といっても、それは普通の攻撃に関しての事、ティーダは射程の長いアーツを発動しようと、槍を握る手に力を込める。


螺旋槍撃(スクイーズスクリュー)!!」


 回転する槍が、空を切り裂きながら高速でロロナに迫る。この距離はステップでは届かない。だが、


「ふっ」

「な!?」


 思わずティーダの口から驚愕の声が出てしまった。ロロナは簓木させらぎの発動に活歩をチェイン、回転する槍を上手く逸らしながら地面を滑るようにティーダの懐にまで潜り込む。このタイミングでは、アーツ使用後の硬直でティーダは動けない。その、無防備な腹部にロロナの拳がめり込む。


「破山砲!!!」


 破山砲がクリーンヒットして、この試合で始めて目に見えてHPが減った。衝撃で吹き飛ばされたティーダ、ロロナは追撃の手を休める気はない。空を切るように放たれた蹴りの衝撃が、気の刃となってティーダ選に迫り、それに追従するようにロロナ自身もティーダに迫る。






「ね、ライト。あの動きどうやったの! なんか槍に突っ込んでいったのに、あっちの方がふっとばされてたやつ!」


 観客席の一つで、ライトの隣ではトイニが手に持ったジュースを溢しそうな勢いで立ち上がりながら話す。諸事情でリースは今はいない。ライトも宿屋で休んでいたかったのだが、朝早く起きたトイニに半ば強引に連れてこられたのだ。


「あれは、おそらく活歩だな。移動系のアーツで、最高速はそんなに高くないが、出の早さと距離に優れたアーツだったはずだ。ロロナはそれを使いながら、簓木させらぎで槍を流しながら進むもんだから、注意して見てないとああやってすり抜けるみたいに見えるんだ」

「へー、あのロロナってほうもやっぱり強いんだね」


 ライトの解説に満足したようで、トイニは席に座り直して試合の観戦に戻る。

 普通に解説してはいたものの、ライトも正直なところロロナの攻防には感心していた。ステップや活歩等の移動系のアーツは、足の動きを制限されるがそれ以外は割と自由に動く。彼もステップを使いながら、ナイフで切りつけるといった攻撃はよく行っていた。だが、それは集中コンストレイションあってのこと。移動系のアーツを使用している最中では、当然のごとく景色はそれ相応の速度で動く。それに対して攻撃を当てるのは並大抵のことではない。仮にライトが素の状態で縮地を使えば、その最中にまともに攻撃を当てることは不可能だろう。


 流石に縮地には劣るものの、ハイステップ並の速度に長い移動距離。そしてタイミングがシビアな簓木を使いこなすロロナは紛れもなく攻略組の幹部に恥じない実力を備えているのだ。


「…………」


 ロロナに殴られ、蹴られながらもティーダは不気味に受けるだけ。ただ、


「!」

「どうしたのライト?」


 ライトは見た。ティーダの瞳が青から赤に変化していくと同時に、微かな魔力の痕跡を感じとる。彼女の瞳がオレンジから完全に赤に染まった瞬間、ロロナの肩に水の槍が突き刺さる。


「くっ…………!」

水豪槍すいごうそう鞭呉むちくれ


 ティーダ刺された肩に気を取られて、ロロナの攻撃が緩んだのを狙ったようにティーダの攻撃が一転、激しくなる。槍が激流に覆われ、槍先が水の鞭のようにしなりながらロロナに襲い掛かる。槍の時以上の遠くから、不規則な軌道を描き彼女の肌を切り裂いていき、後退しながら直撃を避ける事しかできない。活歩で距離を詰めようにも、この距離ではととかない上に、単に活歩を使っても水の鞭で迎撃されるだけだ。

 

『これはティーダ選手! 防戦一方であった序盤から一転、ロロナ選手を近づけさせない猛攻だぁ!!!』


 実況が煽る声に、観客も盛り上がりを見せる。


(あいつ、故意かどうかは分からないが、あの野郎となんらかの関わりがあるな)


 そんな中、ライトは冷静に魔力の流れを感じ取っていた。予選でリリーから感じたものと同一の魔力を感じていた。どんなカラクリかは分からないが、あのように瞳が赤く染まってからはリリーの動きは格段に鋭くなっていた。ライトも過剰集中オーバーコンストレイションを使っていなければ、どうなっていたかわからないほどに。

 今、ロロナが戦っているのはそれほどの相手なのだ。


「ウっ…………!」


 水の槍が二つに分かれ、ロロナの右足に槍が突き刺り、彼女の動きが止まった。待ってましたと言わんばかりに、水の槍と、槍を持ったティーダが一気に接近しアーツを使って槍を振り上げる。この攻撃が直撃すれば、ロロナのHPは全壊する。”決まったか”観客達がそう思ったその時、


「…………」

「エ!?」


 槍を振り上げ、水の槍がロロナの眼前まで迫ったところでティーダは攻撃を止めていた。目の前の光景に、ロロナが思わず驚きの声を上げると、ティーダがこの試合で始めてアーツ名以外を口にする。


「…………今……だ、私を……倒せ」

「!」


 掠れ掠れな声で、ティーダが小さく呟く。瞳は赤からほんの僅かに黄色が差し込み、カタカタと槍を握る手は震え、その一言を呟く間に瞳はまた赤に染まり、止められていた水の槍が襲い掛かり地面をえぐり土煙を上げる。だが、


(さっきのは…………いったい?)


 あれだけの猶予があれば、逃げるのは容易だ。ロロナは闘技場の端まで逃げ、壁を背にしながらティーダの言葉を思い出していた。”私を倒せ”確かにそう彼女は言っていた。何故、自分にそんなことを頼むのか、何故、先程攻撃を止めたのか。正確な答えは出せそうにない。


「あー、モー、細かく考えるのは苦手なんだよねー!」


 そう叫んで、HPポーションとSPポーションを一気に使う。元々自分は深く考えるのが得意ではない、”私を倒せ”そう言われなくとも、手を抜くつもりは毛頭ない。もとよりやることは一つ、ただ全力を尽くして目の前の相手を倒すだけだ。少しばかり揺らいでしまった決心をあらたに固め、相手に向き直る。


豪雨ヘビーレイン撃連槍ストライカーランス!!!」


 振り返ると、優に二桁はあろうかという小型の水の槍を背に激流の槍を構えたティーダが、今まさに最大の一撃を放とうとしていた。もう、先程のように攻撃がとまるようなことはない。


「…………フッ」


 ロロナは腰を落とし、足を開き、短く息を吐きながら丹田に力を込める。

 

 その、高速で連打される拳は大気との摩擦で炎を纏い、炎混じりの気弾が無数に発射される。


「彩炎光乱舞!!!」


 黄色い炎弾と水の槍が正面衝突する。最初は水の槍の勢いが勝っていたように見えた。


「や、ァァァァァァァ!!!」


 相性の不利を打ち消すほどの物量をもって、炎弾が視界を埋め尽くしていく。


『これは何という大技のぶつかり合いでしょう!!! 水蒸気でなにも見えません!!』


 白一面の世界から、最初に飛び出したのはティーダであった。鎧の節々を焦がし、決して無視できないダメージを負っている。しかし、彼女が選択したのは回復ではなく攻撃、


海神の投擲(ポセイドンスロウ)


 分けられていた水の槍が、彼女の持つ槍に集まり巨大な水の槍に変貌していく。チャンスは一度、AGEで劣っているティーダでは、この視界が晴れる前にロロナを補足して決めるしかない。あの、複数の水の槍を維持するMP、SPはもう残っていない。


「…………そこだ」


 ティーダは白に染まった水蒸気の中に、一つの人影を視認する。人影はまだこちらに気がついていない様子だ。そこにめがけて海神の投擲ポセイドンスロウをたたきこむ。白を切り裂き、地面をめくりあげながら穿たれた槍、それは確実に人影を貫いた。しかし、


「…………なに?」


 そこにロロナはいなかった、審判の試合終了のコールも聞こえない。すると、後ろからジリジリとした熱気を感じて振り返ると、


「この距離なら、槍は使えないよネ」

「!?」


 後ろには、拳にこの試合最大級の炎を蓄えたロロナが拳を構えていた。この距離では槍は使えないし、防げるタイミングでもない。そして、その光景を見て、驚愕の表情を浮かべながら振り返ることしかできなかったティーダに、


「崩山炎極砲!!!!」


 この試合最大級の一撃が入った。





『き、決まったぁぁぁぁぁ!!!! 第二回戦、勝者はロロナ選手です!!!』


 爆炎がはれた後、そこに立っていたのは片手を挙げて、喜ぶ少女であった。


 

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