第一話 帰って来た世界と違和感
あらすじの通りこの作品は続き物ですが、この作品から見始めても大丈夫です。なので、これからよろしくお願いします。
「……おき……。起き……て。……や」
「う、うん?」
朝、俺が気持ちよく眠っていると、誰かが声を掛けながら揺さぶり起こそうとするのを感じた。
俺はその眠りを邪魔する声を何とかしようと、視界がぼやけたまま手を声のする方向へ伸ばす。まるで目覚まし時計を止めるような手つき、その指先に何か柔らかい物が触れた。
(柔らかい? なんだこれは。朝方の今、こんな柔らかい物を用意出来そうなのは……まさか!)
そこまで想像したとろこで、俺の意識は急に覚醒する。恐る恐る瞼を開けてみると、
「……どうやら、また目を覚まさせてあげた方が良いみたいね」
そこには顔を赤く紅潮させた、幼馴染みの久崎凛の姿と、その胸に俺の手が触れている光景がひろがっていた。
「い、いや。いいよ。ほら、もうしっかりと目は覚めてるからさ、だからその手を下ろし……」
「眠気退散!」
「ぶべらっ!」
俺の必死の弁明も虚しく、凛の目覚ましにより、俺は横顔に赤い手形を付けながら高校へ行く羽目となった。
「ったく。智也はもう少し寝起きをよくするべきだよ」
「仕方ないだろ、朝の布団ってのは魔法使いなんだよ。あの魔力に逆らえる奴なんて少ないぜ」
「全く、言い訳は一人前ね」
俺が凛と会話をしながら登校していると、学校の校門で二人の男と出会う。
「よう、智也」
「おはよう智也。その手形見るのも久しぶりだな」
「そうか? この間も智也が手形付けてきた事があった筈だが」
「あ、そうだっけ。ちょっと忘れてたな」
今俺の目の前で会話を繰り広げて居るのは、俺の小学校からの友人である谷中光一と斎藤健二だ。
てか、俺はそんな頻繁に手形付けてる印象があったのか。俺がその事実に少しショックを受けていると、健二が
「そう言えば、いよいよ今日だな」
そう話を振ってくる。確かに今日の夜からだったなアレが始まるのは、
「「AWOのサービス開始は!!」」
「AWO……ああ、あのゲームね。鳳条さんが送ってくれたからやるけど、私は余りゲームの経験は無いのよね」
そう、今日は世界初のバーチャルリアリティーゲーム。『Another world online』通称AWOの正式サービスが開始される日なのだ。
俺はこのゲームが楽しみでしょうがなかった。剣と魔法の世界で闘う。男なら一度は皆憧れるだろ? 俺はβテストにも応募して見事当選。それで一度プレイしてからさらに虜になった。
そのゲームの正式サービスが今日開始されるのだ、昨日なんて遠足前の小学生みたいにワクワクが止まらなかったぜ。まあ、そのせいで今日の朝はあんなに目覚めが悪かったんだが。
そうして盛り上がっていると、光一が会話に入ってこないことに気づく。
「どうしたんだ? 光一。お前もこのゲーム結構楽しみしてなかったか」
「あ、ああ。悪い、少し考え事してた」
「βテストに当選した智也はともかく、俺達がAWOをやれるのは光一のお陰なんだよな」
「そうね。あのテロリスト事件のお礼ってことで、鳳条さんから私達に贈られてきたときは驚いたわ」
凛の言うとおり、俺の居る学校は一度テロリストに襲撃された事がある。というのも同じクラスメイトであり、最近転校してきた鳳条灯という生徒を狙っての犯行だった。灯は世界でも有数の大企業『鳳条グループ』の一人娘であり、世の中を知るためとこんな普通の高校に通っているらしい。
最もそのせいで一度テロリストに狙われてしまったが、テロリストの戯れか俺と凛は武術の心得があるという事で、そのテロリストのボスと闘う羽目となった。
結果としてそのボスは警察の特殊部隊に狙撃されたものの、俺と凛はボスに倒されてしまっていた。そこで、狙撃までの時間を稼いでいたのがこの光一だ。
光一も、あの後テロリストの銃撃を受けて、腹に包帯巻いていたのに。灯からAWOのソフトとゲーム機が贈られた事を伝えたら喜んでいたんだけどな。そんな光一が考え事するなんて珍しいな。もしかしたらAWOの事でも考えていたのかもな。
その日の俺はそれこそ普段は学校が終ると、普通に歩いて帰る道のりを流行る気持ちを抑えきれずに、早歩きで帰る位には急いで下校した。そして、家に帰ってからもバーチャルリアリティーゲームを可能にした、ヘルメット型の新ハード『パルスギア』の調子を確かめたりなど落ち着きがなかった。
ーーーーーーーーーー
その頃。谷中光一は、自室で一人パソコンへ向かっていた。その画面を見ると、AWOについて調べていることが分かる。
すると、光一は手を額に当てながら椅子の背に大きくもたれかかる。そして、一つ大きなため息をつくと
「さて、リース。これはどういう事だ?」
そう一人言のように呟く。はたから見れば可笑しく見える事だが、次の瞬間
「そうだね、どこから説明して欲しいの? 光一」
そんな言葉と共に、白色の髪と青色の瞳を持つ少女がいきなり虚空から現れる。
その虚空からいきなり現れた少女に対して、光一は特に驚く様子は見せずに話を進める。
「何処からも何も最初からだ。一から十まで説明してもらいたい」
「分かった、最初から説明するよ。しかし、随分質問するのが遅かったね」
「何度呼んでも返答をしなかったのはそっちだろ。学校でリースを呼び出す訳にもいかないしな」
「それもそうだね」
少女は光一の問いに薄く笑いながら答える。
この少女はリース、神様だ。
別に光一の頭が可笑しくなった訳ではない。実を言うと光一は一度トラックに引かれて死んでいた筈なのだ。
しかし、光一は元々トラックに引かれる運命ではなかった。では、何故光一はトラックに引かれてしまったのか。それは、神様であるリースが、神々が住まう天界から人が住む人間界へ来たさいに、光一に道を聞くために僅かな時間光一を呼び止めた。
そのせいで、本来なら光一が通りすぎた後でトラックが事故を起こすという運命が変わってしまった。
結果として、光一は呼び止められたせいでトラックに引かれた事となる。よって、幾分かリースに非があるという事から。『自分の体を思い通りに動かせる』という『自身操作』の能力を貰い、神様の手伝いをする条件で生き返えらせて貰ったのである。
前置きはここまでにして、光一がリースを呼び出したのは、ある疑問を解決するためだ。それは、
「リース。今日智也が言っていた通り、世界初のバーチャルリアリティーゲームのサービスが始まる」
「そうみたいだね。光一の部屋にも、そのヘルメットみたいなゲーム機があったよね」
「だけどよ、¨俺の世界にそんな技術はなかった筈なんだ¨」
光一の言うとおり、AWOは本来この世界には存在しえない物ということだ。
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