第五話「目的」
第三の扉に向かうべく、ハヅキと母ヒデコ、シモヤマと謎の名探偵が歩を進めてゆく。
ハヅキはゴウゴウと唸る島の中、先ほどの、謎の名探偵の言葉を考えていた。〝黒幕がいる〟突然のその言葉に生唾を飲んだ。
「(まさか…。だって今ここにいるのは私のお母さんに隣の家のシモヤマよ。そしてその事実を伝えてきた謎の名探偵…)」
考えたくもない事実にハヅキは首を横に振った。その横でシモヤマがふいに口を開く。
「それにしたって、腹減ったなあ」
確かに、この島に入ってからというもの、持ち合わせていたお菓子と水筒の飲み物以外は口にしていない、空腹になるのも仕方なかった。すると、シモヤマは何かに気付いたのか視線をすぐそばの木へと向けた。
「シモヤマ? どうしたの」
ハヅキが問うと、シモヤマは木に実った赤い林檎に手を伸ばす。
「ちょうどいいや、これで空腹をしのげるぜ」
そうして手に取った林檎を勢いよくかじった、次の瞬間、
「ぐっ!? な…なんだこれ!ペッペッ!」
シモヤマはどういうわけか口にした林檎を吐き出してしまった。
「ど、どうしたの! シモヤマ!」
駆け寄ると、シモヤマは青い顔をして言った。
「だ、大丈夫だ。けど、こんなの食えたもんじゃねえ」
「どういうこと?」
「…味が。味がおかしいんだ」
「…?」
シモヤマの答えは、この島の本質を現わす、恐ろしいものだった。
「うんこなんだよ…」
「は?」
「だから!この林檎、うんこみてえな味がすんだよ!」
「シモヤマ、あんた、うんこ食べたことあるの?」
「ねえよ!けど…。うんこなんだよ、これ」
驚愕するシモヤマの表情に謎の名探偵は考えた。
「(まさか…。そうだとすれば、空を飛ぶトンビが寄り付かないのも説明がつく…。しかし、そんなまさか)」
そんなことをしているうち、目の前には第三の扉が姿を現した。
「くそ、やっぱりこの扉は避けては通れないのか」
シモヤマが舌打ちをした横でハヅキは
「しょうがないよ、もうやろう。そして、この島の創設者を捕まえるんだよ」
「…そうだな」
扉に近づくと、そこには暗幕のされた正方形の箱が四つあった。箱の上にはそれぞれ片手を入れられるだけの小さな穴が開いている。
「なにこれ…」
扉には、また文字が彫刻されていて、こう綴ってあった。
「〝目ノ前ノ箱ニ同時ニ手ヲ入レ、死者ヲ出セ。四ツノ内、一ツガ ハズレダ、順番ハ各々デ決メロ〟」
その扉の文字により、謎の名探偵はハッとした。死者という言葉の執拗な強調、生存者を絞る謎の扉、島を避けるトンビ。島に入ってからのさまざまな謎のカケラが集まり、ついに一つの真相に辿り着こうとしていたのだった。
「(そうか…!先ほども〝死者をだせ〟という言葉を強調してきた。まるで反対の〝生存者〟という言葉を隠すように。やはり、これは、完全なるこの島のミスリード。島に足を踏み入れた時から既に俺たちは騙されていた。この島の目的は死者を出すことじゃない、あくまでも生存者を絞るためのもの。だとすれば、この島の目的は…!)」
「…んてい!謎の名探偵ってば!」
ハヅキの呼びかけに謎の名探偵は我に返る。
「…すまない」
「大丈夫? すごい汗よ」
「平気だ」
冷や汗を拭う謎の名探偵の横で、ハヅキとヒデコは口を開いた。
「この箱、一体何の生物が入っているのかしらねえ」
「うーん、扉には、一つがハズレってしか書いてないもんね」
するとシモヤマが暗幕のされた箱の前に立つ。
「うだうだしてても扉は開かねえ、もうやるしかねえだろ」
「そうだね」
シモヤマの姿に他の三人も緊張した面持ちでそれぞれの箱の前に立つ。並び順は、左の箱から順に、謎の名探偵、ハヅキ、ヒデコ、シモヤマだ。そして、
「では1、2、3で手を入れよう、合図は俺がさせてもらう」
謎の名探偵の言葉に三人は頷いた。
緊迫した空気の中、カウントダウンは始まる。
「1…2…3!」
謎の名探偵の掛け声により四人は一斉に手を 目の前の箱へと入れた。