第四話「胸騒ぎ」
早まる鼓動を抑え、ハヅキは覚悟を決めた。
「ハヅキ!?」
母ヒデコが驚くのも無理はない。テーブルの上に置いてある拳銃を手に取ったのだ。
「お母さん、私やるよ」
「待って!あなた、死んじゃうかもしれないのよ!」
「分かってるよ。でも、謎の名探偵が言った通り、誰かがこの事を伝えないと、また…。またこの島の被害にあっちゃうもん!」
「ハヅキ…」
ハヅキは銃口を口に入れた。六つシリンダーのうち、即効性のある猛毒が入ったものは一つだ。
「六つってことは…、六分の一でしょ、いくよ…!」
震えて汗ばむ手で、ハヅキはその引き金を引いた。
「うっ…!」
「ハヅキ!?」
「ご、ゴホッ」
引き金を引いた瞬間に口に入って来た液体。それを確かめるようにゆっくりと口の中で舌を動かした。
「…甘い。た、ただの砂糖水だ」
「なんだ、脅かすなよ」
安堵するシモヤマ。そして、拳銃はハヅキからハヅキの母ヒデコへと渡され、謎の名探偵、シモヤマが引き金を引き、ついに最後のツルギにまで拳銃が回った。
「最後は俺か…」
緊迫する空気の中、ツルギもまた、恐怖に煽られていた。
制限時間は十分。既に残りの時間は二分を切っていた。ツルギの前の四人も引き金を引いたが、即効性の猛毒には当たっていない。
「六つのシリンダーのうち、四人が引き金を引いたってことは残るは二つ。二分の一か」
ここでツルギが引き金を引かなければ、時間超過となり、せっかく生き残った他の四人も道連れになるだろう。ツルギは生唾を飲み込み、銃口を口に含む。そして、ゆっくりとその引き金を引いた、次の瞬間。
「うっ…!?」
ツルギの顔が険しくなる。今までの四人とは明らかに違う反応だった。
「ツルギ!」
ツルギがその場に膝から崩れ落ちた。
「の、喉がッ!!喉が焼けっ…!ゴホ、ゲホオオオッ!」
「ツルギ、しっかりしろ!ツルギ!」
四人の問いかけも虚しく、ツルギは白目を向いて倒れてしまった。
「…そんな!」
ハヅキがツルギを揺さぶるが、彼はびくともしなかった。
不穏な空気が流れる中、謎の名探偵は倒れ込んだツルギに近づく。
「謎の名探偵、ツルギは…」
「ダメだ。死んでる」
「ウソだろ…」
謎の名探偵はツルギの顎下、首元に触れ、
「呼吸困難による死だ。この即効性、おそらくヒョウモンダコの毒とみた」
「タコ、なの?」
「ああ、およそ二ミリグラムが致死量となる。毒性は青酸カリの千倍の強さだ。この島は海に囲まれ、多くの生物が存在するとみて、ヒョウモンダコも島近くの海で捕獲したのだろう。しかし…ヒョウモンダコを捕まえるなど、相当な手練れだな…」
謎の名探偵は考え込んでいると、目の前の巨大な壁がまたもや大きな音を立てて真ん中から左右へと開き始めた。
「…また、開きやがった…」
絶句するシモヤマにハヅキは、
「…みんな、行こう、ツルギの死は絶対無駄にしない。この島から出て、ここの創設者を警察に突き出してやろうよ」
「…ハヅキ…。ああ」
頷くシモヤマ。彼もまたハヅキ同様、震える手を握りしめ覚
悟を決めた。
「よし、じゃあ、先導頼むぜ、謎の名探偵」
「ああ」
そうして次の壁に向かうため、ハヅキを含めた四人は今しがた開いた壁の先へと歩みを進めようとしていた。
唸りだす巨大な島。ゴウゴウと風も強さを増してゆく。
そして一行が歩き出した際、謎の名探偵が先導のためハヅキを追い抜く、そのたった一瞬。彼は耳元で、聞こえるか、聞こえないか、そんな小さな声で呟いた。
「この先誰も信じるな。黒幕がいる」
「え…」
途端に風に流されたその言葉にハヅキは胸騒ぎと身震いを覚えた。