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第二話「巨大な壁」

「…ヅキ!…ハヅキ!」


自分の名前を呼ばれ揺さぶられたハヅキはうっすら目を開けた。その先には


「…シモ、ヤマ…?」

「よかった、目を覚まして」


安堵の溜息をついた泥だらけの服をしたシモヤマと、


「全く、参ったな。ハヅキ、起きれるか」


と、その横には学校で隣の席のツルギもいる。


「うん、大丈夫、ありがとう」


ゆっくり身を起こすと、夏だというのに何故か肌寒さを感じる。ハヅキはハッとして、


「そうだ、学校の皆は!?」

「分からない。俺も目を覚ましたらこの島に流されてて。近くにツルギとお前がいたから」

「そう…。お父さんとお母さん…大丈夫かな」


すると、不安で眉を八の字にしたハヅキの後ろから、まるで叫びに近い声が響いた。


「ハヅキ!?」


振り向くとそこには


「お、お父さん…お母さん!」


ハヅキは立ち上がり、父母の元へと駆け寄った。


「ハヅキ、どこもケガしてない!?大丈夫?」

「うん平気…。お父さんもお母さんも…よかった…!」


そう安堵の表情を浮かべるハヅキに父母も安心した様子で肩を下ろした。


「そうだ、私たち以外にこの島に流れ着いた人はいないの?」


と、ハヅキは父の顔を見上げる。


「分からない。だが今いるのはこの五人だ」


薄暗く荒れた海に囲まれた不気味なこの島。流れ着いたのはハヅキに、ハヅキの父タカシ、母ヒデコ、隣の家の同級生シモヤマ、そして学校で隣の席のツルギだ。

ツルギは鋭い目を尖らせる。


「ここ…一体どこなんだ。それにこの壁…」


一同の前に立ちはだかるのは五十メートルはあるであろう高さの壁だ。まるで意図として人工的に作られたような巨大な壁はおそらく島の端から端まで続いている。

すると、突然、木々の影から一人の男の声がした。


「ここは、『うんこアイランド』だ…」


その場にいた全員が声の方を振り返ると、そこにはカメレオンのマスクを被った男が腕組をしながら立っていた。いかにも怪しげな男に、母ヒデコは問う。


「あなた、誰なの?この島の人?」


ヒデコの問いに男は静かに答える。


「俺は『謎の名探偵』だ。全国ジュニア名推理大会 中学生部門にて毎年覇者として君臨している」

「そう…なの。それで…なぜここに?」

「…今回の海難事故、事故でなく事件な気がしてな」

「え!?」


〝事件〟という言葉にシモヤマは恐る恐る問いただす。


「事件って…。というか、お前さっき この島の名前なんて言ったんだ…」


すると謎の名探偵は小さくつぶやく。


「…この島の名は『うんこアイランド』と言って、よもや伝説に近い、島の殆どが何も解明されてない呪われた島だ」

「呪われた島?」

「ああ。俺も探偵として、この島の事は知ってはいたが、まさか本当に実在する島だとは…心底驚いた」


カメレオンのマスクを被る謎の名探偵は細い溜息をついた。それを聞き、ハヅキはハッとする。


「そうだ、あなたさっき、この島については〝殆ど〟解明されていないって言ったよね。という事は少しは何か、知ってるんじゃない?この島の脱出方法とか!」


ハヅキの言葉に皆息を飲む。

ゴウゴウと吹き荒れる嵐の中、謎の名探偵は口を開いた。


「…確実な脱出方法は解明されていない。ただこの島の丁度反対側は東だ。運が良ければ東京からの漁船が見える可能性はある。漁船を見つけ救助を待つのが賢明の策だとは思うが…しかし」


言葉の続きを遮るようにして父タカシが、


「なら、この島の周りは海だし、いかだを作って流れに乗り、島を半周すれば反対側に行けるんじゃないか?」

「無理だ」

「なぜ?」

「ただでさえ気候変動が激しい上に、この海域にはメイルストロムが起こる」

「…メイルストロム…。確かノルウェーの海域に存在する巨大な渦潮…。それが日本にも存在するってのか?」


ツルギが、まさか、と驚きを隠せずにいた。


「現に今起きている。もし素人が作ったいかだを海に着水すればいかだ元い人間さえも一瞬でバラバラだ。それにこの島。島全体こそ見えないが、面積にして約八十キロ平方メートル。北海道の面積と同じだと思っていい。荒れた海をいかだで、しかも北海道同等の面積のある島を渡るなど…脱出が容易でないことは理解できただろう」


淡々に述べたその答えにハヅキは落胆した。


「そんな…じゃあ、他にどうすれば…」

「他は確実なものではないが…。あくまでも〝ウワサ〟としてただ一つ。この島を脱出できる方法がある」

「…そのウワサって?」

「それは…」


謎の名探偵が言いかけた途端、父タカシはしびれを切らしたのか彼の言葉を遮った。


「さっきから聞いていれば。名探偵だかなんだか知らないが所詮は子供だ。ここは大人である俺の指示に従ってもらう。いいな、謎の名探偵!」

「正気か。あなたはこの島を軽視している。それに」

「黙れ!いつまでたっても救助が来ないんじゃ命の危険だってある!ここはいかだを作って反対側へいくんだ!」


声を荒げた父タカシにハヅキは、


「お、お父さん、いかだなんて作れるの?」

「ああ、香味野菜マイスターの知識を応用すれば、いかだは作れる!」

「無茶苦茶だ、雨に濡れた木を使っては水に浮かない。もっと合理的に」

「うるさい、うるさい!」


謎の名探偵の説得に頭を横に振ったタカシが、足元の木を拾おうとした途端。


「うわあっ!」


日頃の運動不足がたたり何もない平地で転んでしまった。


「お父さん!?」


バランスを崩したタカシは、雨でぬかるんだ土に足を滑らせそのまま荒れた海へと引きずり込まれた。


「お父さん!!」


父タカシは一瞬で荒波の中へと姿を消してしまった。視界が悪いせいで叫ぶ声の方向も、どこを向いて父の名を呼べばいいのかすら皆目見当もつかなかった。


「そ、そんな…。そんな!」


ハヅキが恐怖に震えていると、瞬間。目の前に立ちはだかる人工の分厚い巨大な壁が音を立てて動き出す。


「…え…」


左右に開いた壁が完全に開き終わると、その奥にはまた同じような分厚い壁がハヅキたちの前に現れた。


「…なにこれ。勝手に、壁が開いた…?」


その言葉に謎の名探偵は冷や汗をかきながら答える。


「勝手にじゃない…やはりウワサは本当か」

「ウワサって、さっき言ってた…!?」

「ああ。このうんこアイランドの脱出方法はただ一つ。この分厚い壁を開いて反対側の東へ向かうこと。そしてこの壁が開く条件は」

「…ま、まさか」


謎の名探偵は生唾を飲みこみ、嵐の島に呟いた。


「…誰かが命を落とすことにより、この巨大な壁は…開かれる」

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