12.
「走ってきたのか?なんでまた。ああーなるほどなー」
汗を拭きながら、タカオは松嶋そっちのけで辺りを見渡す。
――どうやって戻れる。どうやって……。
「浅川……諦めろ。無駄だ」
松嶋はとうもろこしをかじりながら、ベンチに座った。辺りは家族連れの子供達の笑い声と、太鼓の音で溢れていた。
それとは正反対に松嶋はどこか悲しそうだった。
ーーもしかしたら、松嶋さんは知っているのだろうか。
タカオの頭にはある考えが浮かぶ。ミステリーオタクの松嶋は、実はあの森の事を知っていて、もう戻れないと言おうとしているのではないか。タカオの心臓は凍りつきそうだった。
「無駄なんだよ。俺がここで何もしなかったと思うのか?俺だって探したよ。だけど……!」
「どうしたんですか?松嶋さんらしくないですよ」
タカオは無理に笑って、松嶋の言葉を止めようとした。けれど、松嶋は爆発したように叫んだ。
「若い女の子なんて、いないんだよ!」
松嶋の苦痛な叫びが、お祭りの音に紛れた。松嶋はもうひとつ買っていた、新しい焼きとうもろこしに手をつけた。
「.............は?」
「よく見ろよ!お前がどんなに探しても一緒だよ。子供か彼氏付きの子しかいねぇーんだよ!俺がどれだけ探したと思ってんだ!ああーなんか虚しくなってきた」
そう言ってとうもろこしにかぶりつく松嶋は、Tシャツが汚れていく事にも気が付かないようだった。
完全にお祭りに来た目的を失ってしまった松嶋は、見るからに荒れていた。一体、焼きとうもろこしを何本食べるつもりなんだろうとタカオは心配した。
「そういえば、さっき女将さんとこの神社の事を話したんですよ」
「ほーーーぅ」
見かねたタカオは、女将さんから聞いた話を松嶋に話そうとするが、松嶋は今やそんな事には興味がない様子だった。
「今年は特別らしいですよ。ここで祀っている神様にお願い事をするとか……」
「ああ、そんな事言ってたな。稲荷神がそんな願い聞き入れるかね。俺が稲荷神なら絶対断るな」
なんとも投げやりな返事が返ってきた。松嶋のこの飽きっぽい性格も知ってはいたが、こうも早く飽きられると困りものだ。
「ああ!そうだ。稲荷神なんですけど、ここで祀っているのは……」
そこまで言うとタカオは固まってしまった。自分の目を疑ったほどだった。神社の奥の方はお祭りの灯りが届かずに、夕闇で視界がぼんやりとしている。
そのせいか、元気いっぱいな子供達でさえもそんな所には行かない。タカオは息を飲んで"それ"を見つめた。
神社の裏手から、"それ"が現れてこちらを見ていたのだ。白く、やけにぼんやりとした犬のようでもあったけれど、犬ではなかった。
「白狐……?」
口から出た言葉にタカオ自身でも信じられなかった。しばらくすると、白くぼんやりとしたものは神社の裏手に消えてしまった。




