8.
「浅川!」
松嶋の声でタカオは突然起こされ、目を開けた。
「体調悪いなら布団敷いて寝ろよ。風邪引くぞ」
タカオはまどろみながら起き上がる。松嶋はさっき工場に向かったのにと思いながら。
「どうしたんですか?忘れ物ですか?」
「なに寝ぼけてんだ。もう夕方だぞ。それよりこの部屋寒くないか?」
そう言われて窓を見ると、確かに夕陽が遠くの山に沈みかけていた。
「あれ?どれくらい寝たんだろう……」
スーツの上着を着たまま眠っていたので、寒さはそれほどでもなかったが、首がやけに痛い。首をさすりながら、痛みの場所を探す。
「どうした?」
ご機嫌な松嶋は、スーツからお気に入りのTシャツとジーパンに着替えていた。
「あ、寝違えたみたいで……左側、向けないです」
「そっか。ちゃんと布団敷いて休んでろよ。土産買ってきてやるからな!」
タカオの心配もそこそこに、松嶋は軽い足取りで祭りへと向かった。松嶋がいなくなると、部屋の中は静まり返りやけに寂しい。
追い討ちをかけるように、部屋の中は松嶋が言うように確かに寒い。タカオは気分を変えようと部屋を出る。一階には自販機があったのを思いだして向かってみると、先程挨拶をした女将さんが掃除をしているところだった。
「あら、お祭りに行くの?その格好じゃ暑いわよ」
タカオを見つけるなり、まるで自分の息子に言うように指摘した。確かに寒かったのはあの部屋だけで、今は少しずつ暑くなってきていた。苦笑いで上着を脱ぐ。
「今年のお祭りはいつもと違うから、きっと楽しいわよ」
女将さんは掃除を続けながら、何気なくそう言う。
缶コーヒーを買って蓋を開けると、タカオはつい聞いてしまった。
「いつもと違うって、何がですか?」
「あら、知らないの?」
女将さんは掃除の手を止め、嬉しそうな顔でタカオを見た。何故か、女将さんに松嶋が重なって見えた。嫌な予感をタカオは感じていたけれど、もう遅すぎる気しかしない。
――この話は長くなりそうだ。
そして、それは的中する。女将さんはタカオの腕を掴むと、掃除もそっちのけでムリヤリ近くにあったソファーに座らせた。
「今年はね、特別なの。あなた、大昔にあの神社が燃やされたことは知っているわよね?」
「はぁ……」
第二の松嶋だ。タカオはそう思いながら、むやみに質問するのは止めようと心に刻んだ。
「何が特別かってね、今年はあの畑の一部に田植えをしたのよ!」
普通なら何でもない事だけれど、あの畑に関してはその言葉は異様だった。
「でも、稲荷神の呪いで育たないんじゃ……」
「そうなのよ。いつもこの時期までは順調に育つんだけどねぇ。お祭りの日を境に稲がどんどん弱っていくのよ」
女将さんは身振り手振りでせわしなく動き、説明する。
「お祭りの日を境にって、まさか……」
タカオの言葉に女将さんの目は輝きを増し、生き生きとし始めた。




