2.
しばらくすると廊下の方が騒がしくなり、扉は無遠慮に開け放たれ、部屋には次々と人が入って来る。そうかと思うと、部屋には次々と人が入って来る。先頭を切って入って来たのは、眼鏡をかけた老人だった。
「おぉ!よかった。すっかり毒が抜けたようだな」
魔法使いのような長いローブを身にまとい、眉毛がふさふさとして目にかかっている。顔のシワや、手のシワをみる限りではかなりの歳のようだ。
老人に目を奪われていると、女の人や小さな子供達が狭いこの部屋に集まり、それぞれに話をして一気に騒がしくなった。遅れて、土木作業員のようながっちりとした体格の男達も入ってくると、部屋は一気に息苦しくなる。
それでもかまわず全員が同時に話すから、何一つまともに聞こえない。集まった人の隙間から、あの少年が部屋には入らず、腕を組んで廊下に立っている姿が見えた。
何故か、険しい顔で睨んでいるように見える。
なぜ睨まれているのか不思議に思いながらも、誰に聞いたら良いか分からないまま声をあげた。
「あの、ここは一体……」
思っていた以上に自分の声は小さくて、あまりにも弱々しい。声を聞き取る事ができたのは、近くにいた老人だけだと、部屋にいた人の反応で分かる。
老人は頷いていたが、騒がしさは収まらなかった。その老人がベットのすぐ横にある椅子に腰掛けると、部屋の中は水を打ったように静かになった。
ベットから降りようとして、老人とは向き合うように座る。
「さて、私の名はエントというてな。はじめまして」
老人は座ったまま軽くお辞儀をした。それからこちらを見るとにこりと微笑んだ。人の良さそうな顔に、やけに安心感を覚える。
「あ、浅川……孝夫です。はじめまして」
つられて同じように小さくお辞儀をした。自信のない声が部屋の中に響く。
「タカオッ!!」
突然そう声を上げたのは小さな子供だった。5、6才の子供で、満面の笑顔で近づいてきた。
「僕はジェフって言うんだ!分かんない事はとにかく聞いて!何でも教えてあ……」
話しの途中で首根っこをつかまれたジェフは、あっという間に部屋の入り口まで連れ去られてしまった。
「元気があってよろしい」
老人は愉快そうに視線を戻した。