21.
湖は恐ろしいほどの静けさだった。湖の周りの景色は木々は倒され地面はえぐられ、ただならぬ事態だった。今は音の全てがどこか遠くから聞こえてくるだけの異質な空間になっていた。
この場所はもはや、生きているものの存在を忘れ去られたような気さえする。その中でジェフ達は静かに待った。タカオを、ウェンディーネを。
タカオは暗闇の中で目を開けた。まるで、ウェンディーネの夢の続きのようだった。違うのは、タカオにはすでに水の感触もあるし、息もできないという事だけ。
――殺すのか?
タカオは心の奥で呟いた。
――お前は私を裏切った。これで2度目だ。
ウェンディーネはタカオの中にいて、体そのものを奪い、思考すら共有していた。
――裏切る?2度目?
――忘れたとは言わせない。私を見捨てて1人で逃げたお前を私が許すとでも思ったのか。
ウェンディーネはタカオの思考を覗き込みながら、記憶さえも探り出していた。
――ウェンディーネ。君の名を聞いた時から、ずっと引っかかっていたよ。どんなに名を呼んでも、この名の向こうに君はいなかった。
――だまれ。
ウェンディーネは苛立ち、タカオの眠った記憶にまで手を伸ばす。
――オンディーヌ。君の姿を見た時にその名を思い出したよ。いつ、出会ったのかは分からない。君の言う裏切りも、正直分からない。でも、君を守りたい。その気持ちだけは鮮明に思い出した。
――だまれ。だまれ!守るだと?私は化物だ。化物……バカなことを。
――オンディーヌ。泣くな。世界が乱れる。この森が乱れる。
――偉そうに……。
――笑え。この体を破壊する事で君が救われるなら、殺せばいい。でも、その後は誰も傷つけるな。笑ってくれ。そしたらこの森は穏やかになる。その心の闇は、この血のせいなんだから。
――思い出したのか。
――何を?ここは変だ。まるで自分が自分じゃないみたいに……。
――……。
――オンディーヌ。お前は道を踏み外した。精霊としての役割を果たしていない。けれど、今もなお、生きようと願うなら、私が許そう。私の血で、新たに生まれよ。
――立場が逆だな。面白い。
――オンディーヌ、守れなくて、傷つけたな。許せとは言わない。この体も意識もまだ未熟だ。それでも........................




