14.
イズナは首を傾げ、分かったのか分からないのか、何も言わずにジェフの後を追いかけた。
水筋はすでに小川のようで、イズナはその水をはじかせながら走って行く。水は何故か下から上に向かっていて不思議な光景だった。タカオはますます、ウェンディーネが呼んでいる気がした。
森の中は木がやけにずっしりとしていて、光があまり入らず薄暗い。タカオはグリフと並んで歩くと、上り坂になっている地面を滑らないように踏みしめた。
「ウェンディーネの事だけど、夢でみたんだ。変な夢だったよ」
危なっかしいタカオを、グリフは振り返りながら見ていた。
「精霊とお前は繋がっているからな。ウェンディーネがお前の意識に触れる事が出来るなら、その逆が起こったとしても……」
グリフそう言うと前を向いて歩き出す。考え込みながら、地面からひょっこりと現れた木の根をかわした。
「もしそんな事が出来るとするなら、ウェンディーネと対等の力がなければならない。精霊と同等の力なんて……」
その時、タカオはグリフがよけた木の根に見事に足をとられた。グリフが気がつく間もなく、タカオは一気に前に倒れ込み、ついでにグリフも巻き込んだ。
2人は小川に倒れこんだ。グリフはタカオのせいで体の半分を小川につくように倒され、タカオは真正面から倒れた。2人共、泥だらけになってしまった。
「お前……」
グリフは呆れとも怒りとも分からない、おそらく両方の気持ちがその表情に表れていた。
「ごめん……本当に」
タカオはビクビクしながら苦笑いで言ったけれど、グリフは鋭い瞳をさらに鋭くさせただけだった。
「精霊と同等の力なんて、あり得ない」
立ち上がるとグリフはぼそりと言い、タカオはその言葉に理解できないまま立ち上がった。タカオは泥だらけの手をグリフに手を差し出す。
「近づくな」
グリフの冷たい声が静かに響いた。その声があまりにも恐ろしかったせいで、タカオは少し間隔をあけてグリフの後を歩いた。
コートも、中に着ている服もさっき倒れた時に水がかかり、重たくて冷たい。おまけに森の中に光は届かず、足元には小川が流れているせいでタカオはだんだんと寒くなってきていた。
坂を上っても上っても、体温は奪われていくばかりだ。グリフが怒るのも無理はない。そのグリフは何も喋らず前を歩いている。けれど明らかに歩く速度が遅くなっているし、体も重たそうだった。
「グリフ、大丈夫か?少し休もう」
タカオは見ていられなくて、怒られるか突き放されるか、そのどちらかを覚悟で肩を掴んでグリフを止めた。
けれど予想外にグリフは何も言わずに足を止めた。何も言わない変わりに、グリフは息を切らせて、目線はどこにも定まらず、何も見ていないようだった。
――変だ。
そう思うのと同時に、坂の上からジェフの声が聞こえた。
「グリフー!タカオー!どうしたのー?先行くよー!」
ジェフは坂の上で叫んでいた。タカオは片手を上げてそれに応えた。ジェフとイズナはそれを見るとまた前を向いて坂を上り始めた。
もうすぐ開けた場所に出るのだろうか。鬱蒼として薄暗いのに、ジェフ達の向かう先は木の葉から光が漏れて眩しい。トンネルがようやく終わるような、タカオは不思議な感覚になった。
前にも同じ事があったような気がする。嫌な予感がしていた。




