6.
3人とも席に座ったところで、ドワーフは大きな瞳をぎょろりと動かして辺りを見回した。そして思い出したように大きな声をあげた。
「そうだ!自己紹介がまだだったね。こっちが僕の妻だ。それでこっちがさっき出会った人間だ」
ドワーフは休む暇もなく話しを続ける。
「このスープ!!これは妻の得意料理でね。格別なんだ。さぁ食べてみて。さぁ!」
挨拶もそこそこに、なかば強引に突き付けるようにスープの入った器を渡され、思わず手にとる。深い器に入っているのは白くて、とろみのあるスープだった。中にはきのこや木の実だろうか。なんだか色々入っていて美味しそうだ。
気がつかないうちに唾を飲み込む。
「いただきます」
木のスプーンを手に取り、スープを口に入れた。彼ら2人は微動だにせず、その様子をじっと見ていた。本当に人間が珍しいのだと、そんな事を頭の片隅で考えていた。
けれど、違和感はすぐにやってきた。スープを口にした時には気がつかなかったけれど、徐々に苦さが口の中に広がった。
正直に言うと美味しくはないが、そんな事は関係ない。腹が減っていたのだ。
彼らの食べ物は見た目もその香りも美味しそうで心惹かれる。それなのに、何故かどの料理を食べても同じような苦味がある。
「私達の料理はどうかね」
ドワーフがパンを入れたカゴを渡しながらそう聞いた。美味しくない。そんな事は言えなかった。もちろん、お世辞を言おうと決めていた。
「とても……美味しいれ……」
うまく喋ることが出来ないと気がつくのに、数秒かかった。パンをとろうと腕を動かそうとして、腕は持ち上がった後にだらりと落ちていく。頭と体がちぐはぐになったように、口も体も動かなかった。さらに困惑したのは、目の前の2人が不気味に歪めた笑みを浮かべているからだ。
背筋が寒くなるような笑みが目の前で広がっていく。かろうじて、眉間に皺を寄せることくらいはできていた。
そんな時、それは突然に起こった。大きな爆音と振動が、ほぼ同時にやってくると家は激しく揺れた。
ドワーフの家は木の内側をくり抜いたような作りのせいで、あまり頑丈ではないようだ。見上げれば木のかけらが天井から沢山落ちてきて、その度に穴のあいたスカスカの幹の内部が見えはじめた。可哀想なほど、この木は弱っているように見えた。
ドワーフも爆音が聞こえたほうに顔を向けている。目を見開き、口は半開きだった。不気味な笑みを忘れることができないまま、振り返るようにその衝撃があった場所を一緒に見つめた。
これは何事なのか、聞くことすら頭になかった。3人とも動けず、けれど頭ではこの事態にどう動けば良いのか見極めているようだった。
全ての時間が止まったかのように、その一瞬はとても静かだった。