21.
「それに、同じでしょう?」
アレルは続ける。その声は不思議と部屋中に響くように聞こえた。
「"森のかけら"で命を落とすのも、精霊に呪われて命を落とすのも、大して変わらないんじゃないかしら?」
とぼけた顔でさらりと言い放った。エントの顔が少し強ばったのがタカオには分かった。エント以外の人は皆、顔を見合わせているくらいで、アレルの発言の重要性には気が付いていないようだった。
それを見て、今なら誰もタカオが精霊に呪われただなんて信じる者はいないだろうとエントは踏んでいた。だから、アレルがドアの向こうで盗み聞きしていた事について問いただすような事はせず、
「……何を言っているんだ」
そう言っただけだった。けれど、人々は次第にざわめきはじめた。アレルの言葉の意味を理解しようとしていたのだ。
そんなざわめきの中、アレルはタカオの近くに立つと周囲の人はもちろん、エントにさえ聞こえないような小さな声で言った。
「ここから出て行く方法は、あなたはもう知っているんじゃないかしら」
その言葉は落ち着きのある穏やかさに満ちていた。タカオはアレルを訝るように見つめる。
「あなたなら、きっと大丈夫よ」
微笑んでそう言うとタカオの肩に手を置いた。出て行く方法なら、アレルの言うようにタカオは知っていた。
ーーはじめから、そうすべきだった。
そう思うと、タカオは左目を覆っていた眼帯を掴むと静かに外した。
エントはざわめきを沈めようと、立ち上がり両腕を広げた。けれどエントが言葉を発する前に、人々は息を飲むように一瞬で静かになった。
誰の目線もエントではなく、エントの後ろに向かっていた。エントは人々の視線を辿るように振り返る。そこには背中に陽の光を受けたタカオが立っていた。
逆光のせいでタカオは黒い影のようにしか見えない。その影の中でタカオの左目だけが黄金に輝いている。
その黄金の輝きは誰もが心を奪われた。まるでサラの美しい瞳を覗き込んだ時の気持ちを克明に思い出せたほどに。
「……すぐに、出発します」
タカオのその言葉を合図に、人々は恐怖の悲鳴を上げ、席を立つ音や逃げるように走る音がそこらじゅうから聞こえた。精霊でなければ、この瞳は破壊を巻き起こす種だ。
こうなる事は分かっていたけれど、目の当たりにすると、心は重石をつけたように深く沈んでいった。
エントはため息と共に椅子に腰掛け、この騒ぎを傍観した。
ーー早く立ち去るべきだ。
タカオはそう思うと、足早に食堂から出ようとした。




