17.
この瞳を見せてはいけないのだということをタカオは思い出して、慌てて後ろを向いた。それを確認したエントは扉をほんの少しだけ開けた。
「おお、いるとも。何かあったかね?」
エントが何事もないかのように言うと、少し開けた扉の隙間に顔が現れた。
「いえね、食堂にいらっしゃらないので。あら、何かあったんですか?」
甲高い声が部屋に響く。タカオはその声に聞き覚えはないが、どうやらお節介なおばさんが登場したようだった。こういう性格の人は世界が違っても存在するものなんだなと、タカオは思いながら窓の外を見つめていた。
さして大きくもない窓は、レースのカーテン越しに淡く森の輪郭を見せている。
「ああ、いや、怪我をな。タカオが目に怪我をしたようでな。それを診てたんじゃ。眼帯を今取りに行く所でね。ジェフ!すまんが探してきてくれんか」
エントがなんとか話をまとめている間に、ジェフは扉の隙間から出ていく。
けれどエントの話は、火に油をそそぐようなものだった。
「まあ!それは大変だわ!私が手当てをしましょう!目だなんてまぁ……切り傷なの?それとも腫れ上がっていたりするのかしら?さぁ、タカオさん、こっちにいらっしゃい」
そう言いながら、ドアを開けようと力を入れている。
エントはすかさずアレルの肩を掴むと廊下に戻し、自分も廊下へと出た。
「いやいや、手当てする者はおりますから。せっかくの朝食の時間にアレルさんの手をわずらわせるなんてとんでもないことだ。あなたがいない朝食の席なんて、みんなどれだけがっかりするか」
その声が遠のく中、おだてられてまんざらでもなさそうなアレルの声が最後に聞こえた。
「あら。やっぱり?私もそれが心配だったのよ」
しばらくして眼帯を持ってきたたジェフは、そのやりとりを聞いていたのか、変な顔をして帰ってきた。
アレルの最後の言葉が忘れられないらしい。ジェフは吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。
ジェフに言わせると、『アレルさんと朝食を同席してしまった日は最悪』らしい。食べ終わるまで噂話に付き合わされるから迷惑この上ない。一部の噂好きな者達は例外らしいけれど。
必死に笑いを堪えているジェフから、母は眼帯を取り上げるとタカオにそれをつけさせた。
「ここにいる間は、これをつけるしかないわね」
そう言って、眼帯をつけたタカオを満足そうに見て微笑んだ。
「まるで海賊ね」
そう言って、ついでに変に型崩れしたシャツの衿も直してくれた。ふわりと、花の香りがした。その瞬間、タカオの脳裏には細長い奇妙な門と、木々に囲まれた小さな小屋の映像が浮かんだ。まるで古い写真でも見たような感覚だった。
けれど、そんな事はすぐに忘れてしまった。それよりも自分と同い年くらいのジェフの母が言った「海賊ね」という言葉に浮かれていた。




