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3.

 「彼」と勝手に性別を決めたのは、そもそも声が女性の声ではなかったからだ。シャツにチョッキ、くたくたのズボンは歩きやすそうなブーツにしまわれている。


 顔は年老いた老人のような顔つきをしていて、真っ白な髪を綺麗に後ろに束ねていた。顔の大きさの割に目は大きく、耳の形は上部が少し尖っている。


 座ったまま呆然と見ていると、彼はその大きな目で見上げる。


「私は、ドワーフだ」


 唐突に放たれたその言葉に、仕方なく止まった思考を無理矢理動かす事にしたが、うまくは動かない。


 「ドワーフ」という言葉を、本やゲームで知ってはいても、実際にそれがどういうものなのかは知らない。


 そもそも彼が言う「ドワーフ」が、種族の分類としての名前なのか、若しくは彼自身の名前なのか。困惑するばかりだ。


「そう、ドワーフだ。君は見たところ人間のようだが。こんな夜更けにこんな所にいるなんて」


 そのドワーフは喋れば喋るほど愉快そうに笑う。


「帰り道を探しているのなら、案内してあげよう。その代わりと言ったらなんだけど、ひとつ、お願いがあるんだ」


 ドワーフは人差し指を立てると顔の前に持ってくる。まるで〝内緒〟もしくは〝静かに〟のジェスチャーのようにも見える。


「僕の妻に会ってくれないだろうか。妻に君を紹介したいんだ。家に来て一緒に夕食を食べよう!どうかな?」


 そう言って、大きな目を見開き、遠慮がちに付け足した。


「なにしろ、人間に会うだなんてすごく珍しい。君が来てくれたら、妻もきっと喜ぶよ」


 帰り道を案内してくれて、夕食までご馳走してくれる。それもこんなに歓迎されるなんて。疲れはて孤独に森の中をさまよっていた者に、これ以上の誘いはない。


 ドワーフの言葉に頷きながら、内心では混乱と安心が混ざり合っていた。


 頭の片隅ではやはり考えているのだ。今聞こえている声、見えている物事は本物だろうかと。幻聴や幻覚を見ているのではないかと自分自身を疑ってしまう。


 実のところ、霧はまだ森を覆っていて、静寂の中で1人でいるのではないのだろうか。


 今見えているのは、ドワーフが子供のように飛び跳ねて喜んでいる姿だ。


ーーありもしないものを見ているのか?


 喜んでいる小人のような者を観察しながらそう思った。それでも、この場から離れられるのなら、なんでもいい。こんな突拍子のない小人でも、妖精でも信じよう。





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