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2.

 その得体の知れない声は、正面から聞こえたように思えた。


 幻聴だとしたら、こんなにもはっきりと聞こえるものなのだろうか。どうにもこれが幻聴とは思えなかった。もしかしたら、この瞬間に心のバランスはさらに崩れて、希望に塗りかえられたのかもしれない。


 それにしても、声が聞こえた方向を見ても、この霧ではやはり何も見えるはずがなかった。そう思っていると、辺りの様子はおかしくなっていた。


 今までぴたりと動きを止めていた霧が森の奥に吸い込まれるように徐々に薄くなっていくようだ。ひと呼吸ごとに霧は薄くなっていき、見える景色は徐々に広がっていた。


 しばらくすると、道の両側に木が立ち並んでいるのを確認できた。だいぶ高い木のようで、上の方はまだ霧に包まれている。


 視界が開けてきても、声の主の姿は確認できなかった。視線を木の根元へ向けると、木の陰で何かが動いている。風もないのに細長い草が揺れ、微かに草と草がこすれる音が聞こえる。


 幻でもいいから現れてほしい。


 そう思ったのは本当の気持ちだ。けれど本当に何かが現れようとすると、こんな森の中では不気味でしかない。


 まだ見ぬ脅威が近づいている。そんな予感めいた直感が、心の奥の見えない場所で危険信号をだしている。その反面、木の向こうにいる何かの正体を知りたいとも思っている。


 ごくりと唾を飲み込む音が響き、顔だけを微かに前に出す。その直後、出した顔は引っ込めることになった。


 見たこともない光景が目の前に出現して、思考を全て止めてしまうほどの衝撃が走った。


 木の影から現れたのは、小さな子供のような〝何か〟だった。それは恐らく、先ほどの声の主だろう。まるで様子を伺うように顔だけをだし、こちらを見つめている。


 何も言えずにいると、その〝何か〟は、遠慮がちに木の陰から少しづつその姿を現した。


 声の主は人のような容姿をしているけれど、あまりにも小さかった。子供のようだと思ったのは、彼が小さ過ぎたからだ。


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