3.
タカオの話になるとやはり気になるのか、部屋の中にいる者達は静かになり、聞き耳を立てている。
「トイレには誰も居なかったぞ」
誰かがそう言った。
部屋にも、トイレにも、食堂にもタカオはいない。エントは小さなため息をついた。
「……ふむ」
ジェフの母親が戻ってくると、ジェフの前には朝食が置かれた。牛乳にパン、スクランブルエッグにベーコン、それに多すぎるほどのサラダ。
ジェフは牛乳を飲みながら、昨日のタカオとの会話を思い出していた。
ジェフの表情をみて、母親が多すぎるサラダに視線を落とした。
「どうかした?」
「ううん、ちょっと気になって。そんなこと、ないと思うんだけど」
ジェフは牛乳をじっと見つめたあと、困ったような顔でエントを見上げた。
「ねぇエント。昨日タカオに、サラのことについて聞かれたんだけど」
ジェフは恐る恐るそう言った。そのジェフの後ろから、突き刺さるような鋭い声が、エントよりも早く返事をした。
「それで?」
その声はグリフだった。いつの間にかエントのすぐ後ろに立っていたのだ。ジェフは一瞬驚いた顔をして、すぐに椅子から立ち上がる。
「明日会えるかなって。お礼を言いたいって。でも僕、サラには会えないって言ったよ。でも眠たくて……」
ジェフは首を傾げて自信のなさそうな声をだす。グリフは冷たく問い詰めた。
「で?」
「たしか、サラが倉庫にいることを言った気がする。あんまり覚えていないけど、サラのこと、ちゃんと説明してない……」
最後の方はもう、何を言ってるのか分からないくらい小さな声になっていた。ジェフの言葉を最後まで聞くこともなく、グリフは食堂を出ようとしていた。
ジェフとグリフの会話で食堂の中はざわめいた。その中で誰かが言った。
「あら大変。今のサラに会うなんて!死んでも文句言えないわね」
面白がるような声が響く。
「あんな化け物に会うだなんて、ただのバカだ!大丈夫だよ、放っておけ!」
無責任な声が笑いを誘う。
グリフは食堂の入口で足を止めると、静かに、けれどその声には怒りのような感情が紛れているように響いた。
「あいつが死体になったら、同じように声をかけてやるんだな」
そこにいた全員が、その言葉で固まった。グリフが食堂から出ようとした時、重たい金属が落ちるような音が聞こえた。
それから、食堂にいた全員が凍りつく音が続く。倉庫の重たい扉を開ける音。その時になってやっと、ジェフも含め、全員が事態の重さにようやく気が付いた。
グリフは眉間にシワを寄せ、食堂から出て迷わず倉庫に向かう。その場にいた男達も駆け出して倉庫に向った。
ジェフは扉に向かう途中で母親に捕まり、倉庫に向かう事は出来なかった。
「僕のせいだ……昨日ちゃんと言わなかったから」
ジェフは母親に抱き寄せられ、何度も振り払おうとしながらタカオの名前を叫んでいた。