4.
これだけの人がこの部屋にわざわざ集まったのは、その理由を聞くためだったのではないだろうか。
エントの言う、神や精霊のような力がどういうものなのかは知らない。けれど自分にそんな力がない事だけは確かだ。だから、どうやって来たかと聞かれても、エントの期待するような ことは答えられないだろう。
混乱する頭をなんとか落ち着かせて、エントの期待する答えではなく、起こった出来事を話すしかなかった。
「神社に寄ったんです。出張先で、なんとなく」
その答えにエントは一瞬、目を泳がせた。それから前のめりにしていた姿勢を戻すと、頷きながら話しの続きを聞いた。
「えっと、神社に寄って、それから裏手に森へ続く階段を見つけたんです。すぐに引き返すつもりで登って、しばらく歩くと霧で方向が分からなくなったんです。それからドワーフの夕食に誘われて……」
自分自身でもおかしな事を言っているのは分かっている。けれど、正直に話すとこういう事なのだ。神の力や、精霊の力とは関係なくて、どこか申し訳ない気持ちになる。
話し終わると、エントは静かに言った。
「なるほど。どうやってこの森に来たのか分からない、という事だね」
つまりは、そういうことです。心の中で呟きながら、エントの言葉に静かに頷いた。部屋のあちこちから、ため息がこぼれる。それはまるで、期待はずれだった時にだすため息だ。
部屋の中が妙な雰囲気になった時、エントが助け舟を出した。
「疲れているだろうから、今日はもう休んだほうがいい」
エントは立ち上がり背を向けた。その言葉は嬉しいが、肝心なことをまだ聞けていなかった。
「あの、まだ聞きたい事が……」
エントは振り返ると、ゆっくりと説得するように言う。
「そうだね。分かっている。しかし、できれば君の体力がもう少し回復してから話をしたい」
その話は、自分が期待するような内容ではないことは、なんとなく分かった。話したがらないということは、そういうことだろう。エントは話せないかわりに、腕の怪我の話をした。
「それから、その腕の怪我は私達の不注意のせいでな。また詳しく話すつもりだが……申し訳ない」
その時には腕の怪我なんてどうでもよくなっていた。そんなことよりも、エントが話したがらない事の方がよっぽど気になっていた。返事をするかわりに少し笑って頷くと、エントも微かに微笑んだ。
「何かあったらグリフに聞くといい。君の力になるだろう」
そう言って部屋から出て行った。他の者達もエントの後を追うようにぞろぞろと部屋を後にする。
最後にはグリフだけが残った。声をかけようと思ったけれど、グリフはこちらをろくに見もせずに勢いよく扉を閉めた。
風と森のざわめきが聞こえる部屋でただ1人、グリフが去る足音に耳をすましてた。
心はまるで外の嵐のように、不安が渦を巻いて暴れているようだった。