17.
「夢か……?」
タカオは辺りを見回しながら1人でそう呟いていた。頭を抱えるように腕で押さえると、首が痛むことに気がついた。
ーー元の世界にいた時に、たしか首を痛めた。
そう思ったものの、すぐに首を振る。寝違えただけだとすぐに思い直した。髪の毛をかきむしりながら大きなため息を吐き出す。すると、背後で扉が開く音がする。
音の方向を見れば、ジェフと同じ歳くらいの5、6歳の女の子が扉からこちらを覗いていた。扉がさらに開けられると、その後ろにはその子の父親らしき人が慌てている。
「こら!ノックもしないで……」
「精霊様、目が覚めたみたい!」
タカオを見るなり女の子は部屋に入り、ソファーに駆け寄った。そして好奇心の目で見上げる。
「本当に目が金色!キレイねー」
女の子は羨ましそうな顔で見上げ、長い栗色の髪の毛がゆるく波うっている。まるで西洋の人形のような女の子だ。
タカオは『精霊様』と呼ばれ困惑していると、父親らしき人も慌てて部屋に入ってくる。
「気分は、どうですか?」
優しい声が部屋に響く。タカオが答える間もなく女の子が口をはさむ。
「ねえ精霊様!お願いが……」
「シア!止めなさい。ほら、『精霊様』の為に水を持ってきなさい。さあ行って」
小さな女の子は何か言おうと口を開いたけれど、結局は最後まで言うことはできなかった。それと重なるように、部屋の何処かで母親が女の子の名前を遠くから呼んでいた。
「はぁーい。精霊様あとでね!」
父親から止められ、母親からも横槍が入り、シアと呼ばれた女の子は諦めたように部屋の外に消えた。
「さっきから『精霊様』って一体……?」
女の子が部屋から出るのを見届けると、タカオは不思議そうな顔で聞いた。それにシアの父親は少しだけ笑った。
「覚えていませんか?私達があなたを見つけた時に、少しだけ目を覚ましたんですよ」
タカオは少し考えるように上を見て、視線を右へ左へと動かした。 けれど、何も思い出せはしなかった。
「いえ、なにも」
シアの父親はタカオの言葉を聞きながら、窓のほうへ移動する。窓をほんの少し開けて外の空気を入れると、冷たい風と音楽の音が入り込んだ。
「そうですか」
シアの父親は何処か遠くを見つめていた。
「ここは精霊が住む湖のそばにある村なんです。湖の水は地下を通ってこの村に流れつきます。しかし、ここ100年の間、この村の泉は枯れていました」
シアの父親は窓の前に立ったままだった。タカオからは逆光が眩しくてよく見えない。
「それが、昨日の朝突然に水が湧き出て、精霊が復活したと皆驚いたんです。そしてその泉にあなたが倒れていて、呼びかけるとほんの少し目を開けて……」
そこまで言えば、タカオにも想像がついた。