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4-2 映画鑑賞

 純也はどんな映画を見るのか知らされていなかったのだが、そのあらすじを聞いて思わず目ん玉が飛び出しそうになった。おそらくは、隣にいたユーリも同じような気持ちだったと思う。

 こういうのは映画や小説の世界では、たまに見かける話なのかもしれない。そんな内容のあらすじのフィクション映画だった。

 ――そんな衝撃を受けたあらすじとは。

 映画のタイトルは『気まぐれな神様のイタズラ』という。

 主人公が幼いころに猫を拾って育てるのだが、ある日その猫は失踪してしまう。しかしその猫は十年後、人間の姿に変身して、恩返しをするために主人公の下を訪れるという話。

(なんかすげえな。偶然? だよな)

 自分はこの映画を見なければいけないという義務があったのではないか、そんな運命を感じずにはいられなかった。

 いざ映画が始まっても、どこかで見たことのあるシーンが続いた。夜道で人間の姿になった飼い猫と再会する主人公。困惑しつつもそれを受け入れる主人公。

 少女になった飼い猫が主人公の願いをひとつだけ叶えてあげると言うと、主人公は「俺が今、叶えたいと思っている願いがなんなのか、自分自身でもわからない。だから時間を取って、考えさせてくれないか?」と提案した。

 コメディ映画だったら、時間を取って自分の願い事を考える、という願いを叶えて少女がいなくなってしまうところだが、この映画ではそんなこともなかった。

 ひょっとしたら、自分たちに見せるためにこの映画を作ったのではないかと、思ってしまうほど、状況が酷似していた。だからこそ、純也はこの主人公を自分の分身と見立てて、映画を追っていた。

 手に汗をかきながら、握り拳を作って、純也はスクリーンにかぶりついていた。

 そして最後のシーン。

 すべての物事には終わりがある。映画だって、二時間程度で終わりを告げるものだ。

 その飼い猫が人間の姿で居られるのは、所詮はうたかたの夢だった。夢は長くは続かない。

 夢は終わりをお迎え、その猫と主人公とに別れの時が来た。

 その瞬間、たまらず純也はスクリーンから目を逸らし、横に座っている、ユーリの顔を覗き見た。彼女はただただ無表情で、綺麗な瞳でスクリーンを眺めていた。ひょっとしたら、彼女の目にはスクリーンの中の映像が映っていないのではないかと思わせるほどに、その顔にはなんの色も感じられなかった。

 スクリーンの中では、主人公が人間の姿をした猫に「俺の前からいならないでくれ」と叫んだ。

 人間の姿をした猫は「これが運命なんだよ」と主人公を諭した。

 純也は「この二人が離れ離れになることなく、幸せに暮らせる未来がきてほしい」と願った。

 果たして純也のその願いは、スクリーンの向こうの二人に向けた願いだったのか。それとも別の誰かのために願ったものだったのか。

 ――そしてクライマックス。人間の姿をした猫が、神秘的な白い光に包まれ。


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