3-3 わたしの使命
学校から帰宅し、夕飯も済まして一息ついたところで、ユーリは無性に外の空気を浴びたくなった。
こういうのは猫だったころの名残なのかもしれない。
当てもなく、街灯の光を浴びながら、ぷらぷらと街を徘徊する。
近所の小さな通りを曲がって、少し大きな通りに差し掛かったところで、聞き覚えのある声が聞こえてきて、無意識のうちにそちらに耳を傾けた。
「なんだか、幸人を家に招いたのはすごい久々な感じがするね」
それは美月の声だった。
ユーリは咄嗟に彼女に気づかれないようにと、曲がり角から彼女の姿を覗き込んだ。すると今度は幸人の声が聞こえてきた。
「あはは、実際、美月さんの家に来たのって、結構久しぶりだし」
とある一軒家の前で話し込んでいる二人。あそこが九曜美月の自宅なのだろう、とユーリは推察する。
「それにしても、純也にあんな可愛い彼女がいたなんて……。純也もいっちょ前に男になったんだねえ」
感慨深いようにしみじみと呟く美月。
その彼女というのが誰のことを指しているのか、ユーリにはすぐに知れた。
(それって、わたしの……ことだよね……?)
美月たち二人に心臓の音が聞こえてしまうのではないかというくらいに、ユーリの心臓がドクンドクンと鼓動する。
「小さいころの幼馴染が、自分の前に戻って来る。なんかこういうのって、運命的な感じがするよね。純也が主人公で、ユーリちゃんがヒロイン。俺、こういう話結構好きなんだよね」
「運命ねえ……。ところで幸人自身も、何か運命を感じたことってあるの?」
「あるよ、もちろん。美月さんとこうして出会えたのも運命だから――っていうのは、ちょっとキザすぎるかな?」
「ううん、そんなことないよ。確かにちょっと臭いセリフだけど、そう言ってもらえるとやっぱりうれしいものなんだよ」
そう呟き合った二人は、ユーリから窺えるほどに顔が紅潮していた。
それから二人は周囲を警戒するようにキョロキョロと見回したが、ユーリが通りの角に隠れていることに気づかなかった。
「美月さん……」
「うん……」
そして、彼らはごく自然に、それをするのが当たり前かのように、お互いの唇を触れさせ合った。
――ダメッ!
思わず声が漏れそうになったが、ユーリはそれをなんとか堪えた。
そしてユーリは悟った。この二人の間に割り込むのは不可能であると、それこそ神の力でも持ってしない限り……。
(わたしはなんのためにここにいるの? それを忘れちゃダメ。それはすべて純也のためなんだから)
改めて自分に言い聞かすように、ユーリは胸中で自問自答した。
曖昧な覚悟じゃ、純也の願いを叶えることなんてできやしない。
『くふふ、面白くなってきたね』
それは、天からユーリを見下ろす神様の言葉。