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第207話:アインファストダンジョン3

1年以上更新できず、申し訳ありませんでした。今も読んでくださる皆様に感謝を。


本日は第207話から3話連投しています。これは1話目です。

 

 複数のパーティーがいるはずなのに、それらと遭遇することは滅多になかった。面倒がなくていいと思うべきなのか。それだけダンジョンの階層が広大ということでもあるんだろうか。

 できるなら、住人のパーティーとは情報交換をしたかったのに、出会ったのはプレイヤーパーティーのみ。しかもこちらが解体作業をしてるところに通りかかったので、その場から逃げられた。人型を解体する姿はさぞかし猟奇的に映っただろう。すまない。でもな、住人のパーティーも俺らと同じはずだぞ? だから慣れろ。

 それはともかく。この階層で遭遇する敵は、あの人形兵もどきだけじゃない。外と同じ獣や魔獣も出た。イノシシなんかは外よりも大型で、軽く100キロは超えている。これが狭い通路で突進してくるのだから、場合によっては脅威だ。

 それからパペットや魔法生物的なものも出現している。アンデッド系は今のところ出ていない。というか、このダンジョンでの目撃例は今のところないようだ。

 あと、人形兵もどきも、獣型が出た。これもやはり全身真っ白で体毛はない。不気味さは人型のそれといい勝負だ。人型以外が出たので、もうひっくるめてホムンクルスと呼称してもいいんじゃないだろうか。

 

 

 そんなわけで遭遇する敵を倒し、剥ぎ取りながら進み、1階層のフロアボスを撃破。出てきたのは赤銅色の肌をした3メートルほどの巨人だ。角があったので、多分、オーガ的な何かだろう。種族としてのオーガについての情報は今のところないので、断言できない。

 とどめを刺したのがローゼだったので、ゲットできたのは大きめの魔石だった。

 で、このダンジョンのボス部屋は、GAOらしからぬ親切設計。1つのパーティーが入ったら扉が閉まり、再び開いたら別のボス部屋が用意される。そして攻略後も、別のパーティーが同じボス部屋に入ってくることはなく、次の階層に降りたところで合流、という形になるようだ。ただ、一度倒したらダンジョンを出るまではボスの復活はないとのこと。

 誰かが倒したボスが復活するまで待つ必要がないというのは、初めてこのダンジョンに来た俺達にはありがたいんだけど。どうした運営、何が起きた?

 ということで、ボスを倒して一段落したので。

「フィストとー」

「に、ニクスの……」

「ダンジョンクッキングー」

 パチパチパチ、と手を叩いた。脳内には例の3分間クッキングのBGMが流れている。

 隣のニクスは恥ずかしげに俯きながらも小さく手を叩いている。あ、なんか可愛い。

「はい、それでは今日は、獲れたてのダンジョン食材を調理していこうと思います! 今日の食材はこちら!」

「そのノリ、いつまで続けるんだ?」

「いや、これ以上は俺も無理」

 グランツのツッコミに真顔で答える。こういうのは一発ネタであって、延々と続けるものじゃないと思うんだ。

「ま、冗談はさておいて。幸いなことに人型以外が出てきたからな。検証はしておきたいんだ」

 足下にはダンジョン内で狩った獲物(にく)を並べてある。普通のイノシシと、ホムンクルスの両方だ。

「特に気になるのは内臓な」

 こいつらがダンジョン内で何も食べてないのなら、内容物は存在しない。捌く時に気を遣わなくていいってことだ。

「てことで、やってみるか。ニクス、片方頼めるか?」

「はい。それでしたら、私が普通に見えるイノシシのほうを。【解体】スキルはフィストさんのほうが高レベルですから」

「そうだな、じゃあ任せた」

 【空間収納】から、二の腕くらいの太さの木を3本取り出し、ロープで縛って三脚にする。そこに後ろ脚を縛ったイノシシ型ホムンクルスを吊した。その下にたらいを置いて、血抜きを開始。

「白い血が、いかにも人工的って雰囲気を醸し出してるねぇ」

「フィクションだとそういうのあるよな」

 ミュウの感想に頷きながら、たらいに溜まった血に触れてみる。特に血自体がおかしいって感じは――白い時点でおかしいわな。

 色が違うだけで他は変わらないんだろうか。これ自体に使い道があったりしないだろうか。カミラに渡すのは決定として、食材や触媒に使えるかどうか、フレンド連中にお裾分けしてみよう。

 血抜きを終えたので腹を裂く。解体用ナイフ一式を取り出して、イノホムを捌いていく。白いのは外見だけで、中の肉は普通に赤い。

「あー、こいつもか」

 本来出口がある少し手前で、腸が終わっているのが確認できた。

 念のために腸の端を麻紐で縛り、床に別のたらいを置いてから、内臓を切り離して落とした。そこから胃と腸を裂いてみる。予想どおり内容物はない。これ、洗浄しなくても食えるのでは?

 皮は……毛はないけど、革製品として加工するなら、こっちのほうが手間はかからないんだろうか? これもシザー達に渡して検証してもらおう。てことで、剥ぎ剥ぎ、と。

「フィストさん、こっちのイノシシは外のものと変わらないようです。腸は塞がっていませんでした。内容物はありません」

「そうか。じゃ、あとは味を確かめるだけだな。ミュウ、火の準備を頼めるか?」

「はいはーい。鉄板でいいよね?」

「ああ。それからグランツ。さっき狩ったトカゲのホムンクルス、あれの脚を焼けるようにしといてくれるか?」

「分かった。鉄板使うなら、スライスしとけばいいよな?」

「よろしく」

 イノシシの味比べもそうだけど、ホムンクルス自体の味が違うのかも確かめねば。形が違うだけでどれも同じ味、という可能性もあるわけだし。

「なんか、オレだけ暇だな……」

 作業をしていると、そんな呟きがローゼの口から漏れた。【解体】スキル持ってないし、料理もできないからね。仕方ないね。修得する?

「それならローゼ。俺の代わりに検証頼む。壁や床の石材、取り外せるか試してもらえるか? あと、【空間収納】に片付けられるかも」

 オーガが持ってた棍棒で床材が砕けてたから、多分いけるだろ。

 

 

 石材は取り外せたし、片付けられた。つまり、このダンジョンのボス部屋も採石場になるってことだ。扉も多分外せるんじゃないかと思う。あとで試すだけはしてみよう。持って帰るつもりは……【空間収納】の容量次第か。同じ重量なら金属よりも肉を確保するのが当然というもんだ。

「んー……ちょっと味が薄いか?」

 焼いたイノホムの肉を食べた感想はそんなもんだった。一緒に焼いたイノシシよりも味が薄いというか。見た目が普通のダンジョンイノシシは外のものと大差ない感じなのに。

「肉の質自体は、悪くなさそうなのですが、何かが違いますね」

「なんだ、このコレジャナイ感」

 ニクスとローゼが困惑した様子でイノホム肉を咀嚼している。

「食感は変わらねぇよな? 味だけがちょい薄い」

「好んで食べたいかと言われると、ちょっとねぇ」

 グランツとミュウも、いまいちな評価だ。是非とも確保したい、とは思えんなぁ。

「トカゲホムも同じだ。トカゲの味ではあるけど、薄い」

 トカゲ型ホムンクルスの肉を食べて、思ったことを口にする。こりゃ、他のホムンクルスも同じだろう。うーむ、これだけで狩りの意欲が落ちてしまった。

 でも、クインの餌としてならどうだ? いくらか持って帰ってやろうとは思ってるけど、クインの好みに合うかどうかによるか。

 狩猟ギルドでの買い取りも、どうなんだろうか。ダンジョンから持ち出してる奴っているのか? かさばるから放置してる可能性が高い。【空間収納】アイテム、俺達と住人じゃ仕様が違うらしいし。

 ひとまず持ち込んでみるか。肉には違いないし、いくらかにはなるだろ。

「しっかし、面白いよなぁ」

 イノシシ肉を一切れ頬張って、グランツが笑った。ホムの肉はもう誰も手をつけようとしない。

「何が?」

「いや、今のこの状況が、だよ」

 今のこの状況。ダンジョンのボス部屋で、ダンジョン内で狩った獲物を捌いて、肉を焼いて食っている。

「いや、ダンジョンアタックの時の食事なんて、普通は保存食だろ? それが料理までしてさぁ」

 旅や探索をする上で重要なのが食料や飲み物だ。行程に沿って準備しておく必要があるけど、持ち運べる量には限度があるし、日持ちの問題もある。となると保存食しか選択肢がないわけだ。干し肉やドライフルーツ、堅パンあたりが定番になる。

 でも、それを覆すものがある。重量制限を気にすることなく物を持ち運べて、消費期限を気にしなくてもよくなる、そんな反則級のものが。

「【空間収納】やその機能付の魔具のお陰だな」

 人が持ち運べる限界を超えることができ、その中にある物は時間が経過しない。これ程便利な物があろうか。

「お陰で、こんな場所でも温かいメシにありつけるってわけだ」

 焼肉の準備のあとでミュウとニクスが作ってくれていた野菜スープを口に運ぶ。大きめに切られた根菜が入っていて、結構な食べ応えがある。うん、旨いね。

 とまあ、こんな感じで、かさばる根菜だってダンジョンに持ち込める。まあ、現地で調理するプレイヤーが少数派だってのは理解してる。同じ温かい料理を食べるにしても、大抵の連中は、出来合いの物を買い溜めして終わりだ。

 そもそも、ダンジョン内で照明以外の火を焚くって事自体が難しいんだ。薪や炭を準備しておかないと燃やせる物がない。まして料理に必要なだけとなると結構な量になる。

 外の自然環境を再現したダンジョンなら木とか生えてるのかもしれないけど、こういう人工物的なダンジョンだとそれも望めない――いや、ダンジョン内で枯れ木とか調達できるかね? 木が生えてても生木だと燃料にするのは難しいか。

 俺らの場合は燃料も持ち込めるわけだから、そこまで考えんでもいいけど。

「さて、と」

 食事を終えて、立ち上がる。そして壁へと向かった。適当な場所を殴って砕き、そこから壁材を壊さないように回収していく。

「ん、フィスト、それ持って帰るのか?」

「おう」

 背後からのローゼの問いに答えながらも、手は止めない。建材として使えるかは別にして、形の揃った石材なら利用価値はあるし、何なら売ってもいい。

「何に使うんだそれ?」

「んー、屋敷の修理に使えれば使うし、何か作るのにも使えそうだな」

 グランツの問いに答えると、音が止まった。何だと振り向くと、皆が驚きの表情でこちらを見ている。

「屋敷、って、フィスト君、住む場所買ったの?」

「ん、ああ、言ってなかったっけ。買った」

「マジかよ。しかも屋敷ってことは、結構でかいんだろ?」

「まあ。田舎の小学校くらいの敷地だな。屋敷もその本校舎くらい?」

 人によってイメージが変わるかもしれないけど、俺の中ではそういう位置づけだ。

「つっても、ドラードから離れた廃村にあるからな。おまけに曰く付きだったから安く買えた。孤児院の皮を被った暗殺者養成施設跡だ」

 感心したようなミュウとグランツに説明すると、目を輝かせたのがグランツだ。

「え、それって隠し部屋とかギミック満載な感じ?」

「満載じゃないが、あることはある。ただまあ、焼き討ちに遭ってるから、住むために色々準備してるところだ」

「うわー、見たい。そういうの、リアルに見たい」

 好奇心が抑えられないらしい。

「ドラードまで来たら、案内するぞ。でもまあ、完成してからのほうがいいだろ。今は廃墟だし」

 作業を中断し、撮影してあった画像を見せてやる。敷地の外から内側、建物の内部と、結構な量を撮っていた。

 それを興味深そうに見る4人。

「いや、でもこれ、いちプレイヤーに買えるシロモノなのか? いくら事故物件だっつってもさぁ」

「フィストさん、お金持ちだから。さすがにこの規模だとは思わなかったけど、買えてもおかしくないのかな」

 ローゼが疑わしげにこちらを見た。でもニクスは俺の実績を知ってるから、納得してるようだ。

「金持ち?」

「倒した海賊の船が結構な額で売れたとか」

 ああ、海賊船の金額はどっかで話題になってたっけ。それだけじゃなくて森絹の代金とか金塊の代金とかもあるけどさ。

「マジか。ニクス、今度海賊狩りに行こうぜ」

 金に目がくらんだローゼが、そんなことを言った。そういや最近の海賊共、どうなってたっけ? 拠点を滅ぼした後は大人しくなってたような?

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― 新着の感想 ―
[一言] 肉の脂身が少量でもダメな親を見てるので、「匂いは美味しそうで食べたいけど肉の味が強く感じられてどうしてもダメ」って人たちには人気ありそうだなと思いました。ホム肉。
[一言] 遅かったじゃないか……………… おかえり
[一言] 待ってて良かった……
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