第203話:作業1
前回までのあらすじ
屋敷の改築に向けて動き始めたよ
羊獣人のカミーユさんは女性でした
今回は、3話同時投稿となっています。この話から開始です。
現地確認会は有意義なものとなった。
特に、実際に暮らすことになるカミーユの助言は助かった。住人が増えることを考慮しての設備面のあれこれを、労働条件的な話もしながら詰めていったわけだけど、俺が提示したものは、色々な意味で好待遇らしい。
GAO内の標準的な労働条件がブラック、てわけではないと思うんだけど。まあ、気持ちよく働いてもらえるならそれでいい。結局は俺のためなんだし。
あとは望む設備を、現場を見ながらラファエルさんに相談して細かな部分を調整していき、ひとまずの確認は完了した。
大がかりな改修工事になるから人手も必要だ。すぐに着手というわけにはいかない。材料の調達もあるし。金額と同時に工事のスケジュールも出してもらい、それで問題なければ正式な発注となる見通しだ。
というわけで、着工はしばらく先となる。それでも実現に向けて動き始めた。今から楽しみだ。
それまでに、使用人の数を確保したいところではある。カミーユが心当たりに声をかけてくれるそうなので、そちらにも期待しよう。
ログイン196回目。
今日は俺とクインでの活動だ。屋敷までの道の整備を考えている。整備と言っても、馬車が通れるように邪魔なものを取り除く程度だけど。道を均したりするのはまた今度。まずはルートの確保だ。
道の上に伸びている木の枝があれば適当に落として進む。屋敷への分岐点までは大きな障害もないことは以前に確認済みで、あれから何かが起きてる様子もなかった。
さて、と分岐点に立って考える。屋敷までの道はほぼ獣道と言っていい。そこを拡張するように脳裏に図を描いていく。
「進路上の木は、全部伐ってしまうか」
道については馬車がすれ違えるくらいに拡張するつもりでいる。そこまで広い道が必要かというと自分でも首を傾げるけど、余裕をもって通れるほうが安全だろう。
まずは道の左右1メートルを範囲に定め、歩いていく。そこに木があれば切っていく、という感じだ。草刈りとかは今やってもどうせまた生えてくるだろうから後回し。草対策とかもしないといかんだろうなあ。
さっそく邪魔な木を発見。太さは俺の手首ほどで、高さも3メートルくらい。
「しっ!」
根元に近い位置へ【斧刃脚】を繰り出すと、一撃で伐採できた。【魔力撃】がなくてもこれくらいの木ならサクッといけるか。
木を【空間収納】へ片づけて、次は切り株の処置。こちらは土精さんにお願いして切り株の周辺の土をよけてもらうと簡単に除去できた。土の精霊魔法って土木工事との相性が最高だ。重機要らずで結構結構。
切り株も【空間収納】へと片付けてから進み、次の木を伐る。その繰り返しだ。
でもこの作業、使用人に任せようと思ったら斧とか必要になってくる。そういうのも準備しとかないと。レイアスに発注を――いや、今あれこれ忙しそうだし、普通に住人の店で買うか。
よし、この木も完了。次の木は、っとっと。こいつは伐っちゃ駄目だ。別の場所に植え替えよう。実りのある種類はなるべく活かす方向で。
幸い、大きな木は今回の範囲内にはなく、約2メートル幅の道らしき空間が屋敷まで通じた。しばらくはこれくらいので十分だろう。
そして、ここまで特に動物とは出会わなかった。【気配察知】の範囲内にはいるけど、肉食系も近寄ってこないのはクイン効果だろうか。屋敷周辺と道沿いの安全が確保できるなら何よりだ。
ああ、でも、廃村の畑も一部使わせてもらえることになったから、あの辺りの安全も確保したいところ。そうなると、廃村までの道の整備とかも必要か。こうしてみると、なかなかやることは多い。
「ま、それも追々だ」
何でもかんでもすぐにできるわけじゃないし。まずは屋敷とその周辺の整備が最優先だ。
「てことで、ひとまずは昼食にするか」
いい時間になっている。この後の活動に備えて、力を蓄えるべきだろう。
その前に片付けといこう。壁を乗り越えて敷地に入り、【空間収納】から伐った木と掘り起こした切り株を取り出して一カ所に置く。敷地内の整理は済んでるので、こうするためのスペースは有り余っている。
敷地内の薬草類については、一部の区画を残してすべて収穫した。今後、広げるかは分からないけど、現状では作業の邪魔になりそうなので、すっきりさせておいた。元々、大量に薬草が必要なわけじゃない。普段、森に入った際の採取で十分だったし。
あと、毒草類は全て撤去し、適切に処分済みだ。
出した木と切り株は、しばらく放置して枯らしてから、適当な大きさに切って薪にでもしてしまおう。
「クイン、今日は鹿の脚でいいか?」
相棒に尋ねると、軽く尻尾を振りながら頷く。よし、俺も鹿の脚にしよう。そのまま焼いて、かぶりつくのだ。結構な量だけど、GAO内なら満腹で食えなくなることはないし。
かまどを組み立て、火をおこし、それを挟むように支柱を立てて、鹿の脚を刺した鉄杭をそこに置く。俺のほうは塩や香辛料を振りかけて味をつけた。クインのはそのままで、手は入れない。
「そういえば……クイン、お前、屋敷の中の部屋は不要だって言ってたよな?」
ふと思い出し、確認すると、クインが首肯する。
部屋数は十分あるから、専用の部屋を準備することは可能だった。でもクインは、それを聞いた時に首を横に振ったのだ。
その時は、そうなんだなで流したけど、その先を全く詰めていなかった。クインだって雨風をしのぐ場所は必要だろう。だったらそれを用意しなきゃならないわけだ。
「お前達、ストームウルフって、どこで寝てたんだ? 普通に地面に穴を掘って巣穴にしてたか?」
普通の狼がそんな感じなので聞いてみると、頷いた。そのへんは変わらないようだ。だったら、巣穴の場所を考えないといかんか。
でも、あれって平地にそのまま穴を掘る感じだったろうか? 斜面とかに横穴ってイメージがあるけど、敷地内にそんな地形はない。土を持ち込んで山を作って、そこに穴を掘るか? それとも犬小屋的なもの?
「……よし、塚を作ろう。クイン、お前の家は、俺が作ってやる」
そう言うと、相棒は若干呆れたような目を向けてきた。何だその反応?
「地面を少し掘り下げて、その上に木で屋根を作って覆う。そんで、それに土をかぶせる。それとも、馬小屋みたいに大きめの小屋を作ろうか?」
クインの反応は変わらない。戸惑いのようなものが感じられる。遠慮してるわけじゃないだろうけど、何だ?
「それとも、自分でどうにかするほうがいいか?」
細かい好みまではこちらで読み取れない。自分でやりたいようにやるほうがいいのかもしれない。
「どうする? 自分で適当な場所に穴を掘るか?」
再度、問う。軽く息を吐く仕草を見せたクインは、首を横に振った。つまり、俺に任せてくれるということだろう。
「よし、決まりだ。敷地内で好きな場所を選んでくれ。そこに作るから」
敷地は広い。いずれは何か建てるけど、今は相棒の寝床が優先だ。どこでも大丈夫だぞ。
とりあえず俺が考えてるのは、ブッシュクラフト系動画とかで見るシェルター的なものだ。それを土で覆って塚にする。
食事後、さっそく取りかかることにした。
クインが指定した場所を、土精さんにお願いして50センチほど掘り下げる。広さは大体3メートル四方といったところ。
掘り出した土は一旦よけておいて、屋根や壁にする木を準備する。材料は屋敷の外にたくさん生えてるので、それらを伐ってきた。
使用するのは直径10センチくらいの木。それで柱を作る。片側を【手刀】で削ってとがらせ、隅の地面に適当な穴を開けて突き立ててから【拳鎚撃】で更に打ち込んで、穴を埋めて周囲を踏み固める。
2本の柱を立てたら、上部に溝を彫り込み、そこにはまるように両端を加工した丸太を梁のように間に渡す。同じように、もう2本の柱を隅に立てて丸太を渡し、角同士を繋げるように更に2本の丸太を渡した。四角い木の枠を、4本の柱で支える形だ。
天井部は丸太を並べて置いていく。入り口部分の丸太だけ長めにして庇のようにしておき、柱で端を支えた。
並べた丸太の上に、製材時に落とした枝を葉がついたままでかぶせて、丸太の間をなるべく埋めておいた。屋根部はこれでいいだろう。
「思ったより時間がかからんなぁ」
ここまで全部人力だというのに作業がスムーズだ。現実の生身でやるとこうはいくまい。いや、現実でもやってみたくはあるけどさ。場所だけなら爺さんの山とか使わせてもらえそうだけど、時間がなぁ。動画とかでああいうの作ってる人、本当に尊敬するし羨ましい。
まあ、それはいいや。作業再開だ。
壁部分は、丸太を斜めに立て掛けるようにしていく。接地面は埋めて固めた。
角部分にできている三角形状の隙間は端材を横にして積み重ねて塞ぐ。入り口部分の隙間も端材を使って塞いだ。
よし、とりあえず小屋が完成した。このままでも人間なら十分住めそうな出来だと自画自賛。しかし俺が良くても、住むのはクインだ。彼女のお気に召さなければ意味がない。
「ひとまずこんな感じなんだがな。どうだろうか?」
問うと、入り口からクインが中に入っていく。彼女が立って歩けるだけの空間は確保してあるけど、狭かったりするだろうか?
少しして、クインが出てきた。
「どうだ?」
問うと、頷いてくれた。これで大丈夫ということだろう。
「よし、それじゃ進めるぞ」
端材の隙間を、土に水を加えて泥にしたもので埋めていく。それから掘り出しておいた土をかぶせて……って絶対足りんなこれじゃ。土を調達しなければ。
敷地の外に出て、堀を埋めていた土を回収することにした。堀の復旧もできて一石二鳥だ。でも、土を運ぶ道具がなかった。手押し車か畚があれば……ないな。土木建築プレイでもしてない限り、持ってるわけがない。
仕方ない、樽を1つ空にして、土を詰めて運ぶとしよう。
そして――
「よし、できた!」
もう少し土を盛りたいところだけど、完成したと言っていいだろう。どうだ、とクインを見ると、頷いて尻尾を振ってくれた。どうやら彼女が知る雰囲気に近いものになったようだ。今後、土を追加してやれば、更にらしくなるだろう。
あとは中を整えてやるくらいか。地面に枯れ草とか敷けば、暖かく過ごせるんじゃないかね。ストームウルフがそこまでしてるかは分からんけど。
ふむ……あー……
「なぁ、クイン。頼みがあるんだが」
首を傾げるクインを見て、言う。
「今晩、ここに泊めさせてもらえんか?」
いや、ここはもうクインの家だけどさ。ほら、せっかく作ったわけだしさ。ここで寝てみたいなー、と。
単にテントを立てて寝るのとは、また違うロマンというかさぁ。クインには理解できないことだろうけどさ、頼んます!
クインのお許しが出たので、巣穴で一泊した。何とも言えない充実感があった。自分で作ったものってのは、やっぱり特別だ。
初の試みにしては上手くいったんじゃないかと思う。森の中ならテントがなくても野営できるんじゃないかって自信もついた。廃村の家の復旧も自分だけで何とかなりそうな気がしてくる。
屋敷の復旧時に、作業を見学して色々と学ばせてもらうとしよう。
さて、明日は何をしようかね。