第196話:調査1
大変お待たせいたしました。
前回までのお話。
念願だった土地と家を手に入れたフィスト。
ただし曰くのある事故物件だったため、友人達に調査をしてもらうことに。
ログイン188回目。
調査隊を編成し、孤児院跡へと向かう。
メンバーは俺とクイン。【シルバーブレード】の6人。【伊賀忍軍】の3人。
【伊賀忍軍】からはツキカゲ一家の派遣となった。探索系スキルについてはドラードにいる構成員だとツキカゲが一番らしい。それでもGAOを始めたばかりのマサトシさんとマリアさんが選抜されたのは、彼らが持つ『現実の知識』を期待してのことだとか。マサトシさんは忍の末裔だし、マリアさんも忍者マニアだし、探索に役立つ知識を持ってるってことなんだろう、多分。
俺が買った孤児院跡がどういうものなのかを、道中で説明しながら歩く。森から先は馬車が使えないので、全員徒歩での移動だ。
「そんなところを普通買う?」
「そこに目を向けなければ、好物件だからなぁ」
呆れるルークの言葉を背に受けつつ先導していると、ジェリドが聞いてきた。
「ひょっとしてフィストさん、ホラー系が好きだとか?」
「いや、特には。ホラー事案が起きそうな場所ではあるけど、ファンタジーのホラーって主にアンデッド案件だし。それにGAOなら、呪いや霊なんてもんも解決できそうだったし」
俺自身はまだ霊に遭遇したことはないけど、アンデッドダンジョンに霊は出るし、それは魔力攻撃で倒せる。それに呪いだって聖職者による解呪ができる。つまり、それらが確認されたとしても解決可能なわけだ。ホラーってファンタジーと相性悪いと思う。
「まあ、腐っていない相手なら、出てきても問題ないです」
ぽつり、とミリアムが呟くのが聞こえた。そして、溜息ともうめき声ともつかない音を発するルーク達。アンデッドダンジョン踏破者である彼らには、ゾンビ系はうんざりなんだろう。
ダンジョン最下層まで攻略した、金剛鉱メンタルは素晴らしい。俺にはそこまでのやる気はない。何か特別な食材とかが出るなら別だけど、今のところ、ヤバいものの素材にしかなりそうにないキノコだけみたいだし。
あー……でも、アインファストのダンジョンに出るモンスターで、食材になる奴っているのかね? 鉱山ダンジョンにだって食える奴がいたんだから、少しはいるんじゃないかと思うんだけど。
ただ、ダンジョンをソロ探索するのはちょっと。さすがに色々と足りないはずだ。グランツ達のレベルが上がったら、協力要請してみるか。ニクスとローゼにも、声かけてみようかね。その頃には装備も整ってるだろうし。あ。
「そういや皆の装備、どうなってるんだ?」
前回会った時とルーク達の装備は変わらない。既に素材の引き渡しは終わってるけど、新調された様子はない。
「素材は職人に渡して、注文も終わった。王都のダンジョンは、それが完成してからということになっている」
「へぇ。皆の装備がどうなるか、ちょっと楽しみなんだ」
「私も、フィストの装備がどうなるかは興味があるな。ガントレットは既に完成したようだが」
スウェインが俺の腕に視線を移した。そこにはレイアスが作った魔銀製のガントレットがある。
「鎧は作業中だな。魔銀で作って、表面にワイバーンの革を張る予定」
「あぁ、ワイバーンを狩ってたんだっけ。皮、余ってない? よかったら売ってほしいんだけどー」
ウェナが揉み手をしながら近寄ってきた。なんだそのポーズは?
「少しはあるけど、どのくらい必要なんだ?」
「んー。理想を言えば、ボク達全員分。今の恰好の、服部分を全部交換できれば言うことなし」
ふむ……服を全てワイバーンの革製にするってことか。魔銀の装備も加わるわけだし、王都のダンジョン前に、できる限りの装備を整えたいってことだろか。
「さすがに手持ちじゃ足りん。そのうち、狩ってツヴァンドの狩猟ギルドに卸す予定があるから、そしたら声かけようか?」
「いや、むしろ狩れるなら、アドバイスとかもらえれば。あとは自分達で何とかしてみるけど」
「フィストと同じ手口を使えるかは分からないが、やりようはあるだろう」
ウェナとスウェインは、そう言った。方法自体はシザーにも教えてるし、彼らに教えること自体は問題ない。乱獲もしないだろうし。
「お、ワイバーンの狩りについてで御座るか?」
聞いていたのか、足音を立てずにツキカゲが忍び寄っていた。さすが忍者、情報収集に余念がない。
「そういや【伊賀忍軍】的には金属素材より皮素材のほうがいいのか」
「で御座るな。差し支えなければ、ご教授いただきたく」
「そうだな。じゃあ、俺のやり方を教えるよ。いっそ、皆で挑んでみるか? そのほうが分かりやすいだろ」
てことで、この件が終わったら、ワイバーン狩りをすることになった。
でもあれだ。【伊賀忍軍】は火力的な意味で手こずるかもだけど、ルーク達だったら拘束さえできればあっさり仕留めそうだよなワイバーン。
途中、皆が桜の木に足止めされた以外は特に問題もなく、孤児院跡に到着した。
「でかっ。想像してたのと違う」
「小さな小学校くらいの広さはありますね」
シリアとミリアムが呆れたように言う。
「孤児院っていうか、お屋敷? いや、砦だよねこれ?」
敷地を囲う壁と堀を見てこちらを向いたのはウェナだ。
「孤児院という化けの皮を被った、暗殺者養成所だからなぁ」
「えー……城壁と空堀なんて、どう見ても軍事施設じゃない? どうして孤児院で通用してたのこれ?」
「そりゃ、現代日本と違って、猛獣だの魔獣だのが出没する世界だからだろ」
廃村のほうにも、城壁とまではいかなくても柵や物見櫓の痕跡はあったし。
「子供達を守るため、とでも言い訳したのかもしれないな。実際、これなら一つ目熊の成体あたりが来ない限りは守れるであろうし」
城壁を見ながらそんなことを言ったのはスウェインだ。確かに、大人の一つ目熊なら、この程度の高さの壁だと乗り越えるだろうけど、アレは普通はこの辺りまで進出してこない。
「で、入口はどこだ?」
「そこの崩れた壁から。正門はまだ板で塞いでるから」
スウェインの問いに、崩れた場所を指して答える。外にいても仕方ないので、そのままそちらへと向かうと、皆もついてくる。
全員が軽々と敷地内へと踏み入れた。一見、荒れ果てているように見える、緑に侵略された庭部分を見て、うわぁといくつかの声が漏れる。
「Oh、すごいデース。薬草、毒草の山ネっ!」
「これだけあれば、ひと財産ですな。いくらか買い取らせてもらうことは?」
一方で、マリアさんとマサトシさんが、植物の正体を見抜いて感嘆の声をあげた。ちなみに今日の2人は正統派の忍装束だ。
「先約があるので、そちらの分を確保した後なら相談に応じます」
カミラの所に卸して、その後でということになる。どちらにせよ、俺だけで使い切る量と種類じゃないので、譲ることに抵抗はない。
「さて、建物の中の前に……スウェイン、それにミリアムとジェリド。敷地内はどんな感じだ?」
まずは外から片付けよう。俺の問いに、スウェインが呪文を唱える。ミリアムとジェリドは、普通に敷地内に視線を走らせた。
「土精、樹精は正常だと思います」
「ええ、わたくしにもおかしな点は見受けられません。どちらも元気そうですね」
ジェリドとミリアムが答えた。うん、俺が見た限りでも精霊達に異常はない。強いて言うなら、魔獣マンドレイクが埋まってた辺りは避けてるくらいだろうか。
「土精や樹精が嫌がってないということは、土地にも悪い所はないはずです」
答えながらジェリドが足元を見ている。視線を落とすと、土精の姿がうっすらと視えた。ジェリドが【土精の恩恵】を持ってるからか。
「俺だけじゃなく、ミリアムとジェリドもそう言うなら、この土地は普通に使えるわけだ」
「見える限りでは、妙な魔力反応もない。魔術のトラップや結界は残っていないようだな」
スウェインの魔術でも、そっち方面の何かはなし、と。つまり、ここで野菜を作っても問題ないということ。よしよし。
「それじゃ、次は中だな。で、どう動く?」
「まずは、探索組だけで中に入る? ボク達が探索し尽くした後の方が安全だと思うけど」
「ふむ……領軍が家捜しをしている以上、普通に立ち入ることができる場所の安全は保証されていると判断してもよいのでは?」
「今回の探索の主目的は、隠し部屋とかの探索漏れの確認デースからネ。ただ、偶然、未発見の仕掛けを作動させてしまう可能性は否定できまセーン」
ウェナの提案に、忍者夫婦が意見を述べた。
「そうだねぇ。どういうものが怪しいのかが分かってないと、これくらいは、って無警戒に触っちゃうこともあり得るし」
ウェナがスウェイン以外のギルドメンバーを見渡すと、彼らの目が泳いだ。なるほど、前科持ちな訳ね。
「じゃあ、俺達だけで動くか。ルーク達は、そうだな、食料調達を頼む」
「食料?」
首を傾げるルークに【空間収納】から取り出した釣り竿を渡す。
「4本あるから、さっきの湖で魚でも釣っててくれ。釣れたのは俺が調理するから」
「え、何でそんなに釣り竿持ってるの?」
何故かルークが引いた。複数投げることだってあるし、予備だって当然準備するだろ。あとは、こういう時のためだ。何かおかしいだろうか?
「えーと、釣りって餌がいるよね?」
「ミミズを掘れ。他の虫でもいいけど」
そう言うと、ルーク達の表情が歪んだ。え、そこから?
内部の探索は、ツキカゲとマサトシさん、ウェナとマリアさんのペアで実施した。それぞれの分担区域をチェックし、終わったら交替して再チェック。俺はスウェインの魔術的なチェックに付き合った。付き合うといっても同行しただけだけど。
それから外の敷地内も探索し、全て終えてから、ひとまず昼食にすることにした。
ルーク達の釣果は、それぞれ1尾づつ。ボウズじゃなかったのはいいけども、10人分の食事には全く足りないので、予定どおり準備は俺がやった。
献立はロックワームを使ったホットドッグ。それから野菜スープ。魚は釣った本人達に食べてもらおうってことで、串を刺して塩焼きにした。
ロックワームに忌避感が出るかと思ったけどそんなこともなく、皆は普通に食べている。見た目は普通の肉で、味はコンビーフだ。先入観にとらわれなければどうということはない。
「ぬ、ところでクイン殿は?」
ヤミカゲにホットドッグを分けてやりながらツキカゲが首を巡らせる。彼の言うとおり、今この場に俺の相棒の姿はない。
「ああ、周囲を縄張りにしてもらうように頼んだ」
要は獣対策。村跡に草食動物の足跡が結構残ってたから、今後を見越しての措置だ。この辺りがクインのテリトリーになれば、雑魚な獣は近寄らなくなるんじゃないかと期待してる。
「それで、探索の結果はどうだったの?」
自分で釣った魚を美味そうに食べながらルークが聞いてきた。
「現状、危険なものは見つからなかった」
過去に領軍が探索して見つけてるものは、オリヴァーさんから入手してあった屋敷の図面で把握済みだった。その上で更なる探索となったわけだけど、見つかったのはいくつかの隠し収納くらいだ。中身は主に書類。あと、硬貨や宝石が入った革袋。書類はエド様に引き渡す予定。
「だったら、食後は自由に見ていいんだ?」
「んー……気になる箇所があるから、そこを確認したらな」
仕掛けはないはずだけど、何かありそう。そんな場所をマサトシさんが見つけている。食後はそこを確認する予定だ。
「いや、そこ以外は問題ないから、別に構わないか」
ルーク達に屋内での探索系のスキルはないから、同行してもらう必要もない。だったら好きに見てもらおう。