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第191話:商談

 

 ログイン183回目。

 転移門で一旦ツヴァンドに戻って【魔導研】を訪ねた。

「こいつを応用した製氷機を作りたい」

 解呪した剣をニトロに見せると、彼は剣を手に取り、呪文を唱えた。

「……破格の性能の剣だな。氷精剣……精霊石を埋め込んである。氷精が常駐できるようになっているので精霊使いには特に有用な剣だ」

 あ、さっきの呪文、【鑑定】か何かだったか。そして銘付きだったのかこの剣。呪われていた時には特に何も表示されてなかったはずなのに。

 それにしても精霊石。GAOを始めた頃に聞いたっけ。確か一時的に精霊を保管しておける石だったか。それがこの剣だと氷精が常駐?

 つまりこれがあるだけで、常に氷が側にある状態。氷精系精霊魔法が使い放題? 本当に破格だ。もしこれを単なる呪具として神殿で解呪依頼をしてたら、どうなっていたのか……うむ、結果オーライだった。色々な巡り合わせに感謝だ。

「で、これをわざわざ組み込んで製氷機にしてしまうことに何の意味が?」

「1から作るより、動力があるほうが簡単かなって」

「まあ……水に浸けて時間凍結なしで【空間収納】へ入れておくだけでいいような気もするが。きっちりと規格化された氷を作りたいということかね?」

「ああ。それと一応、冷気を抑える鞘も作れるか?」

 基本的に魔具の動力源として使うつもりだけど、製氷剣……じゃない、氷精剣は武器であるわけだし。そっちで使うことがあるかもしれない。

 いや、剣としてじゃなく、精霊魔法の触媒としてだろうけども。その時には剣を帯びておく必要があるだろうから。抜き身のままだと余計な被害を被るかもしれないし。

「耐冷の付与をした鞘ならいけると思う。あと、氷は氷としてだけ使うのかね? 冷蔵庫的な物を作って冷媒にするとかは?」

「あー、そうだな。【空間収納】があるけど、そういうのもあるとありがたい」

 いちいち【空間収納】から取り出すより、あらかじめ冷蔵庫を出しておくほうが便利っぽい。複数でメシとか食う時、誰でも中身を取り出せるし。

「どのくらいの大きさの氷が必要なのか教えてくれ。それに合わせて設計しよう。あと、製氷皿は?」

「あると嬉しいね。そっちも頼む。ところで馬ゴーレム、完成したんだって?」

「うむ。フィスト殿とニクス殿の分は、まだ設計中であるがね。特別仕様になるので今しばらく時間をいただく」

「俺は特に急がないから大丈夫だよ」

 俺のゴーレム馬は追加で決まった報酬だし、活用する場がまだ確保できていない。ニクスには最初から渡す約束になってたんだからそっちが先だ。のんびりやってくれていいぞ。

 

 

 

 剣を【魔導研】に預けて再び転移門でドラードへ戻り、領主の館へ。ツヴァンドに跳ぶ前にアポは取っておいた。なくても問題ない扱いにはなっているけど、一応ね?

「ようこそフィスト殿。あれからの活躍も耳に届いているよ。無茶もしていたようだが」

 応接間でエド様と面会する。アル様も一緒だ。アル様、また少し背が伸びたかな?

 それにしても無茶ってのは……2人の視線が俺の右腕に注がれているということは、【漁協】からの情報はちゃんと伝わってるみたいだ。

「今日の用向きは?」

「商談、と言えばいいですかね。シーサーペントのことは伝わっているようですけど、実はワイバーンも仕留めまして。肉とか、買いませんか?」

「ワイバーンまで!?」

 アル様の目がキラキラと輝きだした。あ、これは伝わってないようだ。あれは詳しい話を聞きたがってる。

 一方、エド様は平然としている。こりゃ知ってたな? 前も少し驚いたけど、いち異邦人の動向をどこまで把握してるんだろうか。情報収集能力が高いなぁ……まさか、誰かが張り付いてるわけじゃないよな?

「それはありがたい。稀少な肉だ。喜んで買わせてもらおう。シーサーペントもワイバーンも美味いからな」

 エド様が顔を綻ばせる。む、これはひょっとしてご相伴にあずかれる流れ? だと嬉しいなぁ。領主に仕える料理人さんが作るシーサーペント料理とワイバーン料理。興味があります!

「で、それだけではあるまい? 鑑定の魔術を使える魔術師を用意してほしい、とのことだったが」

 笑みを深くするエド様。本題に入ろう。こちらのほうがメインだ。

「では、こちらをご覧ください」

 席を立ち、【空間収納】から例の甲冑一式を取り出す。甲冑はシザーから購入したマネキンに着せてあった。それをその場に立たせる。

「ほう、これは見事な。どこでこれを?」

 甲冑を見ながら聞いてくるエド様。だから、正直に答えた。

「ツヴァンドに死霊術師が不死者の軍勢を率いて攻め込んだ折、別の場所にあったエルフの集落に侵攻した、もう1人の死霊術師が使役していた死霊騎士がこちらです」

「……ほう」

「撃破した後、しばらく保管してあったのですが、瘴気や呪いをどうにかする目処が立ったので、先日それを実施しました。解呪を担当したのはイェーガー大司祭です」

 元アンデッド、ということでアル様が怯んだけど、エド様は興味深げに甲冑を見ている。

「で、これが様々な付与が施された物でして。どうしたものかと考えたところ、私の知る中でこれに興味を持ちそうな人がエドヴァルド様でしたので持ち込ませていただきました。縁起が悪い、ということなら引き上げますが、詳細を知ればお考えが変わるかもしれません」

「なるほど、そういうことか」

 頷いて、エド様がテーブルにあったベルを鳴らした。打ち合わせはしていたようで、少しすると杖を持ったローブ姿の老人が部屋に入ってくる。この人が魔術師か。

「この甲冑を鑑定せよ」

 エド様の命令に一礼し、魔術師が鑑定の魔術を使う。

 そして、目を見開いて固まった。おお、驚いてる驚いてる。解呪後のスペックは、さっきニトロに確認してもらっていた。剣も甲冑も、解呪前よりほんのちょっとだけ性能が落ちてるかも、くらいの結果だ。

「こ、これ程の物がこの世に存在するとは……」

「そこまでか?」

「無礼を承知で申し上げるなら、今の閣下の甲冑が出来損ないに思える程の逸品で御座います!」

 我に返った魔術師さんが、まくし立てるように性能を説明する。それを聞いたエド様が顔を引きつらせていた。

「どうでしょう。エドヴァルド様の体格に合うと思われますが」

 ここぞとばかりに一押しする。さぁ、どう出る? まあ、結果は見えてるけど。

「買いだ。ここで私が首を横に振れば、フィスト殿のことだ。競売にでも出すのだろう?」

「そうですね。私の周囲に、これを着ることができる者がいるなら、そちらに話を持ちかけようと思っていたのですが」

 残念ながら、合いそうなフレンドがいなかった。いたとしても、多分正当な価格だと手が出せないものになりそうだし。

 甲冑を見ていたエド様がこちらへ視線を移した。何やら楽しそうな目をしている。

「ところでフィスト殿。これ程の物だ。私の所ではなく、もっと上に持ち掛けてもよいのではないか?」

「上、とは?」

「領主より上。王家、あるいは王族のどなたかに。売却でも献上でもよいが、色々な意味で、私への売却や競売よりも得るものが大きいぞ? 私から繋ぎをとってもよいが、どうかな?」

「お断りいたします。売却した後でどう扱うかは、エドヴァルド様の自由ですが」

 笑みを深くするエド様に、笑顔で返した。そういう泥沼にはまりそうなことはノーサンキューだ。王家の囲い込みとか何その核爆弾?

 でも、自分にではなく、それより上位に、ってわざわざ持ち掛けるのは……ああ、ひょっとして警告だろうか。王家に出しても恥ずかしくない物を慎重に扱わないと、どこでトラブルに巻き込まれるか分からないっていう。

 王家と繋がりなんて持ちたくないし。この手の物は全部エド様に丸投げしよう。

「値段は……後で正確な額を出させよう。よいな?」

 一礼して魔術師さんが退室した。どんな額になるのか見当もつかない。GAOでの魔具の値段を考えると、結構なことになりそうだけど。プレイヤーが安定して魔具を作れるようにならない限り、値崩れとかしそうにないし。

「財布は大丈夫ですか?」

「以前、誰かさんが発見してくれた金鉱のお陰で、何とでもなりそうだ。思った以上に埋蔵量がありそうでな」

 あの川、本格的に開発を始めたんだ。それは何より。

 甲冑については、金になればいい、とは思ってたけど、それ以上に「役に立ててくれる人」に渡したいのが本音だ。今後、エド様がこの甲冑を着て荒事に出ることがあるかは分からない。でも、これがあれば危険もかなり減るんじゃないかと思う。

「どうした、アル。その甲冑が気になるか?」

「あ、いえ、その……はい……」

 エド様の言葉に、アル様がコクコクと頷く。最初は怖がっていたのに、性能を聞いてからは羨望の眼差しで甲冑を見つめていた。治安担当者でもあるし、優れた武具には興味があるんだろう。アル様の体格だと、成長期を終えても合いそうにはないけど。調整すれば何とかいける、か?

「あ、そうだ。アルフォンス様」

「は、はい、何でしょう?」

「実は、魔銀と金剛鉱を手に入れていまして。現在、友人達に売りつけているところなのですが、アルフォンス様もどうですか?」

「え?」

 目を瞬かせて呆けるアル様かわいいな。じゃない。

「武具の発注先をこちらの指定する者にしていただけるなら、更に割引もございます。どうですか、エドヴァルド様も。甲冑はこちらの物がありますから、剣など新調されてみては?」

 氷精剣は売れなくなったけど、こっちならまだ余裕がある。いざとなればニクスのほうからいくらか買わせてもらってもいい。あの子、自分とローゼの分以外、譲る宛てがないみたいだし。

「よ、よろしいのですか?」

「ええ。【空間収納】の隅に片付けたままでいるより、形を得て役に立つほうが、稀少鉱物も幸せでしょう」

「ぜ、ぜひお願いします! 私の身体が成長しきる頃に発注させてください!」

 あ、今の自分に、じゃないのか。甲冑を今のアル様に作っても、育ったら使えなくなるし。剣も、成長後に使うなら適切な長さが変わってくるか。

「分かりました。ご予約、ありがとうございます。ちなみに、剣や鎧の意匠ですが、何かご希望はありますか?」

「いえ、特には。もし何か良い案があれば、教えてもらいたいくらいです」

 ほう……それはそれは。

「もし、私が懇意にしている職人に任せていただけるなら、今度、案を描いた物を持ち込ませていただきますが。ここは譲れないという部分がありましたら、先に教えていただけると助かります」

「ブラオゼーの紋章を入れてもらいたい以外は特には」

「分かりました。職人に手配させていただきます」

 嬉しそうにアル様が頷く。よしよし、シザーとスティッチに仕事追加だ。領主一族の注文だから箔付けにもなるだろう。

「私の剣も一緒に発注させてもらおう。ただ、その職人の腕は気になるところだが」

「お許し頂ければ、私が使っている刃物をここで出させていただきますが」

 レイアス製の刃物は、それこそこの間新調したばかりだから、見本には申し分ない。新作は解体用ナイフだけど、剣鉈もあるし。

 では商談を続けよう。

 

 

 

 結局、エド様から魔銀製の長剣を一振り、アル様から魔銀製の長剣と甲冑、金剛鉱製のメイスの発注を受けた。金剛鉱はあまり人気がないのかな。強度はあっても重たいのがネックなのかも。

 その後は、まだ話していない俺の活動を披露しつつ、夕食をいただいた。売却したシーサーペントとワイバーンも出された。いや、もちろん最高でしたとも。やっぱり食材の特性を熟知している現地人の腕利きが作ると変わるものだ。領主への食事ということで見栄えもいいし。

 ついつい、料理人さんに作り方とか色々と聞いてしまった。人に教えるのは構わないとのことだったので、【料理研】とかに情報提供しよう。

 

 装備の発注についてはレイアスとシザー達にメールしておいた。順番については発注順でいいことも添えて。

 スティッチからはアル様の甲冑について、『錬金術師弟と堅陣騎○と、どっちをモチーフにしましょうかー?』と問い合わせが来た。どっちも名前繋がりだ。いや、いいんだけどさぁ。

 あちらの了承が得られればと前置きして、後者でと答えておいたけど。前者はほら、ごつすぎてアル様にはちょっと。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 兄貴が豆じゃなくて騎士甲冑着れるガタイなら アル様も成長しきったら某弟の鎧の方が似合う体格になってる可能性も捨てきれない
2022/05/02 15:19 退会済み
管理
[気になる点] 今更で申し訳ないんですが、ラーサーさんと森エルフはカットなんですかね⁇ 久々に出てくると期待したんですけども…… も一つ、もうそろそろお食事券回収しません⁇ 【宝石の花】にウルスラ、マ…
[一言] ん~……ありがちな呪いがある故の高性能なので呪いが解けたら弱体化してそこそこま性能までガタ落ちって形にならずにちょっと下がる程度で済むんだ そら国宝級レベルとか辺りには最低でもなるわな だ…
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