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第180話:王都の森

お待たせしました。


 ドミニクさんが言うとおり、【テクマディア兵装術】については特別なことは何もしなかった。他にある技をいくつか解説と実演をしてもらい、実践してみて、現時点での完成度を確認したくらいだ。

 あとは【兵装術】を組み込んだ型なんかを一通り教えてもらった。自分なりに使いやすい組み合わせも考えてみよう。

 ついでに【テクマディア斬徹刃】についても色々と話を聞いた。とにかく何でも斬れるし貫けるようになるという結構厄介な【流派】で、それが石だろうが金属の防具だろうが、魔力による障壁だろうがお構いなし。初見殺しもいいところだ。

 不便な点は、斬る対象ごとにアーツが存在するということ。石を斬るなら石に、鉄を斬るなら鉄に特化したアーツを使う必要がある。石を斬るアーツを乗せた剣で鉄を斬っても、ただの斬撃にしかならないわけだ。

 システム的にどう処理されているのかはともかくとして、【テクマディア】は本当にイメージと意志の強さが重要なようで。何故そうなるのか、という部分に関してはドミニクさん達も理屈を根本から理解しているわけではないらしい。

 ただ、魔力が関わっているのは間違いなさそうだとのこと。根拠は、魔力を斬る【斬徹刃】のアーツで、これと刃を交えた【兵装術】が解除されたことがあるんだそうだ。

 恐らくは不可視の魔力が、イメージに沿う属性を得た力場となって、部位や武器を覆うんじゃないかと思う。ごく限定された【魔力制御】と【魔力変換】の合わせ技と解釈することにした。知らんけど。

 イメージ次第では新たな技なんかも編み出せそうな気がする。身体を武器化するイメージである以上、格ゲーにおける飛び道具系は無理そうだけど。手からビーム? そんなものはない。少なくとも現時点では。

 シュタールさんからは【ディアハルト操体法】を教わった。言われていたとおり、【魔力制御】による身体強化の延長だった。ほぼ垂れ流しに近い形で纏っていた魔力を、通すべき箇所に通して循環させ、無駄を省くといった感じだ。これだけで、今までの身体強化よりも効率が上がったし、魔力の使用量も減ったので、長時間の運用も可能になった。

 ただ、いいことばかりというわけでもない。魔力だけじゃなく体力も消耗していくというデメリットもあった。それから、注ぎ込む魔力で強化の度合いも変わるわけだけど、【強化魔力撃】の過剰な重ね掛けと同様に、無茶をやると身体が壊れるそうだ。これは慣れれば一度に運用できる魔力量も増えるそうなので、暇があればこまめに使っていこうと思う。

 その他には、シュタールさんやドミニクさんと手合わせをしたり、ヨハンやミアと手合わせしたりだ。

 シュタールさんの友人であるドミニクさんがただの人なわけがなく、やっぱり同類だった。【兵装術】の同じ技だと打ち負けて、こっちの手足が何度も大変なことになった。ただ、身体能力はシュタールさんやラーサーさんほど化物じみてはいなかった。

 聞いたところ、【操体法】と【テクマディア】は同時に使うと干渉し合うらしい。自分で使ってみても確かに、【兵装術】を展開していると【操体法】の効率が落ちるのが確認できた。これも慣れで両立できるようになれば嬉しいけど。

 ヨハンとミアは、今の俺なら十分にあしらえるくらいの力量だった。ただ、既に人や獣との実戦経験はあるらしい。子供だからと甘く見ると、痛い目に遭うだろう。まったくGAO世界の子供達はたくましい。




 ログイン169回目。

 今日は王都近くの森へと来ている。正確には、マサラさんの食材探しに同行する形だ。

 香辛料については調薬ギルドで調薬素材として売られていた物をそれなりに入手することができたらしい。ただ、種類は多ければ多いほど幅が広がるということで、探索を手伝ってほしいと依頼された。

 王都には来たばかりで、まだ狩りも採取もやっていなかったので、いい機会だと引き受けることにした。決して道中の食事に釣られたわけではない。ないのだ。

「あ、それがミカクタケです」

 木の陰に生えていたキノコを見つけ、指差す。そこにあるのは傘が30センチ程の大きさの赤いキノコだ。

「この間、いただいた物よりも大きいですね」

「乾燥させるともっと小さくなります。こいつは辛いミカクタケですが、他の味の物も、乾燥させるほど強くなるらしいです」

 香辛料としては十分使えるはずだ。どうぞと促すと、マサラさんがミカクタケを摘み取った。今回のメインはマサラさんの食材調達なので、彼女が欲しがりそうな物は優先して譲ることにしていた。俺のほうは自分で使う分しか必要ないので、そこまで積極的に調達しなくてもいい。

 ただし、未知の食材は除く。【料理研】に協力することになってるし、グンヒルトにも流してやらないと。

「それにしても、警戒せずに採取ができるのは助かります」

 ミカクタケを片付けながらマサラさんが微笑む。一応、今の彼女は革製のエプロンで守りを固めているけど、とりあえず準備したという感じのシロモノだ。GAOを始めた理由からも、戦闘方面に力を入れるつもりはないのだろう。

 ともあれ警戒の必要がない理由は、クインがその役を担っているからだ。今のところ肉食獣とかの襲撃はない。あってもよほどの数や大物でなければ片付けてくれるだろう。

「クインは索敵範囲が広いですから」

 彼女は気配だけでなく、狼ならではの嗅覚と、ストームウルフとしての風を操る能力で周囲を探る。その点では俺より優秀だ。いや、他の部分でも彼女のほうが上な気がするけど。

「独りで動いてますから、採取に熱中してしまうと、狼とかにガブリとやられちゃうんですよねぇ。気付いても逃げられなくてガブリなんですけど」

 新たに見つけた香草を摘みながらマサラさんが笑う。この口ぶりだと、何度か死に戻ってるな。

「狼相手なら、首をやられなければ、何とかなると思うんですけどね。ブラウンベアとか出てきたらどうしようもなさそうですけど」

「死んだふりしたら囓られましたね」

「……信頼できる人に同行してもらうのがいいと思いますよ」

 いくらかの痛みはあるわけだし、タイミング次第では採取品もロストしてしまうし。お、バルミアの木がある。実もあるな。いくらか補充しておこう。カレーには使えるだろうか? どうだろうな、醤油味だし。一応、勧めてみようか。

 マサラさんに声を掛けようとしたところで、ひと吠えが聞こえた。クインのものだ。障害なら何も言わずに片付けてしまうはずなんだけど……【暴風の咆哮】ではなかったようだし、何かあったのか?

「どうしたクイン?」

 マサラさんを連れて先に進むと、クインが座っているのが見えた。顔は上を向いている。何かいるんだろうかと視線を上げると、そこそこ高い木の枝に白い物が見えた。

「ニワトリ、でしょうか?」

 マサラさんが言うとおり、それはニワトリに見えた。ただし、大きさは1メートルくらいありそうだ。あと目つきが悪い。そんな鳥が5羽ほど枝に止まっている。

【動物知識】のスキルで確認すると、ソムゾフルと出た。気性が荒い大型鳥類で雑食。他には――なるほど。

「どうした、あいつを食いたいのか?」

 クインに問うと、こちらへ振り向き、鼻先をソムゾフルへと向けた。ああ、そういうことか。久々だったので忘れてた。

「そこそこ凶暴な鳥だ。爪に毒があるらしい。短時間の飛行が可能」

 クインが必要としそうな情報を説明する。彼女が知っている相手なら、俺を呼ぶまでもなく動いて狩っている。それをしないということは、初見だったんだろう。

 毒があるのは厄介だけど、当たらなければどうということはない。クインならうまくやるんじゃないだろうか。でもまあ、ここは俺がやろう。食ったことがない獲物だし。

「俺がやるよ」

 俺達に気付いて騒ぎ始めたソムゾフルを見ながら歩を進める。仕留める方法はすぐに思いついた。いや、思い出したのほうが正確か。

『樹精達、そいつらを締め上げてくれ』

 精霊語で樹精に呼び掛けると、ソムゾフル達の頭上の枝が動き、そのまま首や身体に巻き付いていく。いつぞやの憎まれ猿のように拘束されたソムゾフル達は、けたたましく鳴きながら暴れるも逃げることができないでいた。見た目はニワトリだけど、鳴き声はカラスっぽい。

「マサラさん、何羽かいります?」

「そうですね、食べられるお肉なら、タンドールで焼いてみたいです」

「タンドリーチキンならぬ、タンドリーソムゾフルですか」

「下準備が必要なので、この場では作れませんけど。タンドリーチキンは今日のお昼に持ってきてますので、後でお出ししますね」

 それは嬉しい。楽しみにするとして、まずはソムゾフルを絞めようか。




 ソムゾフルの処理を終えるといい時間になったので、食事をすることにした。

 せっかくだからとさっき狩ったソムゾフルを1羽、料理することにする。料理と言っても解体した肉を金属の串に刺して、焚き火で焼くだけだ。串はタンドールで肉を焼く時に使う物をマサラさんが貸してくれた。

「解体の手際がすごかったけど、現実でもやったことがあるんですか?」

 焼き具合を見ていると、マサラさんが聞いてきた。彼女に確認をとって、目の前で解体したのだ。意外と冷静に、最後まで見てたっけ。なので多分、スキルは開放されているはず。

「GAOで上手くやれるのはスキルのお陰だと思いますけど、今なら現実でもできるかもですね」

 手伝いの経験はあるし、手順は現実もGAO内もそう変わらない。今度、狩猟期に爺さんのところへ遊びに行ってみようか。そうすれば手頃なイノシシとか狩ってくれるかもしれない。

 現実でどこまでやれるか試させてもらおう。俺の生身はフィスト並のパワーなんてないけど、解体自体はそう手こずることもないと思う。現実で猪鍋。じゅるり。

 ともかく今は目の前の肉だ。ソムゾフルの肉は鶏肉と変わらない。モツも大差なさそうだ。ただ肉質は固めな気がする。

「そろそろいいか」

 焼けた肉を火から取り上げ、木皿に乗せてクインの前に置く。熱いから少し冷まして食えよ。

 俺達用の串から肉を木皿に移し、一口大に切ってからマサラさんに差し出す。マサラさんが箸で肉を取ったところで、自分は手で摘まみ上げ、口へと運んだ。

 味はニワトリ、っぽい? 肉質はやっぱり固い。美味い、というより、普通、だな。まあ、こんなこともあるか。フォレストランナーみたいに激マズじゃないだけマシだ。

「ちょっと歯ごたえがありすぎますね」

 同じように肉を食べたマサラさんが感想を口にする。

「これなら、普通のニワトリを使ったほうがいいです」

「タンドリーチキンみたいに下処理でヨーグルトに漬けたら柔らかくなるんじゃないですかね?」

「そうですね。他にも何かしらの処理をすればもっとよくなる可能性はありますけど、そっちに力を入れる余力はないですし。とりあえず1羽だけ、試してみることにします。自分だけじゃ狩れそうにありませんし」

 俺も現時点じゃこいつにこだわる理由はないな。【料理研】とグンヒルトに投げるか。

 クインは特に不満はなさそうに食べている。焼いた残りは全部任せよう。

「さて、それじゃお約束の料理を出しましょうか」

 俺が準備したテーブルの上に、マサラさんが【空間収納】から出した料理を並べていく。

 いかにも辛そうな赤色をした骨付きの鳥肉がタンドリーチキンか。骨のないのもあるな。

 薄く焼いた円形状のパンは、ナンとは違うんだろうか。それからカレーらしき物もある。

「フィストさんのお陰で、簡単なカレーは作れるようになったので、どうぞ召し上がってくださいな。お店で出す物はもう少し掛かりそうですけど」

「そっちも楽しみにしてますよ」

 両手を合わせ、いただきますと唱えて、まずはタンドリーチキンに手を伸ばした。うん、辛いといっても適度な辛さだ。美味い美味い。

「ところで、フィストさんは王都の食べ物のお店ってどれくらい回りました?」

「そんなには。まだ片手で足りるくらいですね」

 ヌルーゼに来てからは用事の片付けがメインだったし。これから色々と回ってみようと思っているところだ。

「マサラさんは、どこか美味しい店とかご存知ですか?」

「評判のお店の話はいくらか聞いたことがありますけど、私もまだ行けていないです」

「それは、ぜひ教えてもらいたいですね」

 料理でもお菓子でも何でもいい。店舗じゃなくて屋台とかでも大歓迎だ。

 

 情報を交換しながら、俺はマサラさんの料理を堪能した。

 次はヌルーゼの店を本格的に回ってみることにしようかね。


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[一言] ここまで読ませていただきました。 続きを楽しみにさせていただきます。
[良い点] 地道にゲームする話がとても好きなので、めちゃめちゃ好みの話でしたー! 今後も楽しみにしてます!
[一言] 定番のパインアップルに漬け込んで、チキンソテーとか軍鶏の調理真似すればいけんじゃね バトルコックさん出番ですよ。 チキンてんこ盛りのカリーにご飯、CoCo壱番屋行ってこよ(笑)
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