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第173話:王都へ

 

 迷惑メールのことは亜人総合スレで伝えておいた。その後の流れを見ると、跳ねっ返りはその場で叩かれてたので、多分大丈夫だろう。

 他にも動画を見た連中からは、シーサーペント素材のことでいくらか問い合わせがあったけど、素材に関しては『コスプレ屋』と【魔導研】に渡す分以外はほとんどもらってないから【漁協】に投げた。

 その分、食材は豊富にもらっている。一部は【料理研】とグンヒルトに引き渡すけど。ああ、エド様のところに献上してもいいかもしれない。

 ただ、その前に腕は治しておかないとな。でないと色々と言われてしまう。

 腕のことといえば、迷惑メールの中にニクスからの安否確認のメールが埋もれてたので、前回と同様に神殿で治すと返しておいた。そんなに心配することないのに。まあ、気持ちは嬉しいけども。




 ログイン165回目

 カーラに搬送してもらって、朝のドラードに到着。まずは右腕を治すために神殿に向かった。前回からそれほど時間が経ってないので、イェーガー大司祭には呆れられるだろうなと思っていたのだが。

「留守?」

 対応してくれた神官さんに、そう告げられた。

「ええ、少し前に、王都へと旅立たれまして」

「それは陸路で、ですか?」

「いいえ、転移門を使っています。今日から7日ほど、王都で神殿関係者を集めた会議がありまして」

「つまり、腕の再生ができる人は?」

「申し訳ありませんが、今のドラードにはいませんね」

 神官さんに深々と、頭を下げられた。

 どうする、これは予想外だ。会議ということは、よその町の同じ地位の人達も同様だろう。てことは多分、治療できる人がいない。

 いや、王都に集まるってことは、王都になら確実にいるってことか。でも、会議中だと対応してくれるだろうか。

「あちらでイェーガー大司祭にお願いすることは可能でしょうか?」

「王都でしたら、再生の奇跡を行える者が他にもいるかと」

 あ、そうか。イェーガー大司祭にこだわる必要はないのか。彼が唯一の術者ってわけでもないんだし。ただ、

「せっかくならドラードの神殿にお願いしたいって気持ちがあるんですよね」

 これがよその領地で欠損していて、まだそこで活動するって状況だったなら、その地の神殿を頼るところだけど、現状は次の目的も決まっていない。同じことができる人が他にいるといっても、実績のある人にお願いするほうが安心だし、どうせ同じ金額を払うなら、ドラードに金を落としたい。神殿への寄進が税金的にどう扱われるのかは知らんけども。

 自然にこう考えてしまうあたり、よっぽどのことがない限りは、拠点はドラードに建てることになるんだろうなぁ。

「……そうですね、フィスト殿のぜひにとの要望ということで、書状をしたためましょうか」

 少し考えたあとで、神官さんがそう提案してくれた。ついでに、お金もこちらに払っておこう。前払いしておけばイェーガー大司祭が受けざるを得ないだろうし。

 

 

 

 手紙を預かり、神殿を辞して今後のことを考える。王都へ行くことは決定した。どうせ行くなら、しばらくあちらに滞在しようと思う。ドラードでは結構長いこと活動していた気がするから、そろそろ移動するのもいいだろう。

 それに、新しい土地に行くのに、治療だけして帰るというのは勿体ない。王都というくらいだから、今まで訪れた町の中でも最大規模だろうし、それならば色々と面白いものもあるだろう。

 そして何より、今まで食ったことのないものもあるに違いない。

 さて、その土地を離れる時は、お世話になった人達に挨拶をするのが定番になっていたけど。今回は右腕のことがあるのでパスだ。あまり心配してほしくないので。

 イェーガー大司祭が王都に滞在するのは7日とのことだが、どのタイミングで面会が可能なのか分からない。早めに行って、予定を伺うのがいいだろう。

 ドラードから王都までは、駅馬車で1日。今日の出発時間にはまだ間に合うはずだ。明日の朝を含めて6日もあれば、ログアウトのことを考えても面会の機会はあるだろう。

 ん、よく考えたら、現実1日がGAO内4日相当なわけだから、リアルでのんびり時間を潰せばよかったか? 毎日ログインする義務があるわけじゃないんだし。

 いやでも、もう手紙も書いてもらったしなぁ。それに、こんな機会でもないと、王都に行くのは当分先になりそうだし。今回行っておけば、次は転移門で速やかに移動できる。

「ま、いいか。腕を治すために次の町に行くぞクイン。駅馬車を使うから、それを追ってくれ」

 早く治すに越したことはないんだ。一度決めたなら、そのとおりに動こう。

 しかし、歩き出した俺にクインはついてこなかった。

「どうした?」

 振り向き問うと、クインは首を後ろへと振って見せた。む、その仕草は、乗れってことか?

 確認の意味で声に出して問うと、今度は頷く。どうやらクイン、王都まで俺を乗せて走ってくれるようだ。

「いいのか?」

 3つめの問いにもクインは頷いた。正直、ありがたい申し出ではある。

「じゃあ、頼む。町を出たら乗せてくれ」

 せっかくなので頼むことにした。

 

 

 

 駅馬車よりもずっと速い速度でクインが駆ける。クインに乗るのは何度目かになるけど、その度に乗り心地がよくなっている気がする。なるべく揺れないように気を遣ってくれているのだ。ありがたいことである。

 そんなわけで片腕でも振り落とされそうになることはなく、王都へ向けて疾走している。

 王都ヌルーゼはドラードからだと北西方向に位置するが、実はドラードに来てから、北方面には足を延ばしたことがなかった。何せ海のほうが目立つし、ドラードから最寄りの森は町の東側だったからだ。

 そんなわけで初めてこの辺りを見るわけだが、植生が大きく変わるわけではなさそうだ。現に、今見えている植物は、以前によそで見たことがあるものばかりで――

「ん?」

 王都へと向かう街道から森を眺めていると、妙な違和感があった。森へと伸びる脇道がある。でも、かなり荒れていた上に、それが続く先には何もなかった。

「いや、違うか」

 何もないんじゃなく、木々が生い茂って森の奥に続く道が塞がっているってのが正しいか。人の行き来があれば自然と道はできる。それがなくなっているってことは、あの先には何かが『あった』んだろう。

 爺さんの住んでる田舎でも、似たようなものは見たことがある。あれは住む人がいなくなった廃屋へと続く道だったけど、踏み固められていた土の道が緑で埋まっていったっけ。

 街道と接続されていたくらいだから、村とかがあったのかもしれない。廃村か……廃墟巡りが趣味ってわけじゃないけど、GAO内にある人族の村ってどんな感じだ? 考えてみたらエルフの村は知ってるのに、人族の村はよく知らない気がする。狩人さん達が住んでる村に直接出向いたことはなかったし。

「確認してみるのも悪くないな」

 それに本当にあの先に廃村があるのなら、そこの土地を買って家を建てるのもいいかもしれない。ドラードからの距離もそう離れていないだろうし、荒れ果てているのは当然としても、人の住める条件が整った環境ではあるだろうから。

 王都から戻ったら寄ってみようと決め、視線を進む先へと戻した。

 途中で追い抜いた人達やすれ違った人達が驚くのが分かる。クインはそんな反応を気にせずに駆けていた。

「おおっ」

 広がる光景に思わず声が出た。街道の右側に広大な畑が広がっている。アインファストからこちら、街道沿いに畑があるのは見てきたけど、規模が違う。森の縁まで一面の畑だ。そのほとんどは小麦のようで、風に揺れて音を立てている。収穫時期になれば一面が黄金色に染まるんだろう。その時の光景も見てみたいものだ。

 あまり変わり映えのない景色だろうと思ってたけど、結構楽しめるもんだな。

 

 

 

 遠目に王都ヌルーゼを囲む城壁が見える。今までのどの町のものより高そうで、広さも最大規模の都市だというのが分かる。

 背の高い建物も多い。城壁の高さ以上の建物がいくつもある。そして、何よりも。今までの領都では領主は館に住んでいたけど、王都には城があった。ドイツにあるハイデルベルク城に尖塔をいくつか追加して白くしたような印象だ。

 クインから降りて、一緒に歩きながら門へと向かう。

 ファルーラ王国の首都だけあって、人の出入りは多そうだ。商人なんかはひっきりなしに行き来してるだろうし。現に、門の前には町に入るための審査の列が見える。町に入るまでどれくらいかかるんだろうか。

「手間取らなければいいな」

 隣のクインに言うと、こくりと頷く。

 周囲の視線がこちら――特にクインに集まるのは仕方ない。色というか、存在そのものが目立つし。ただ、驚きはしても怖がる様子はない。現実じゃ肉食獣が往来を歩いてれば大事件だろうけど、GAOじゃ使役獣が街の中を歩くのは普通だからだろう。

 列に並んでも注目は変わらない。俺達の前にいる人達が時々ちらちらとこちらを窺っている。幻獣連れだもんなぁ。

 思えばドラードだと住人達も慣れて、特に驚かれることもなくなっていた。こっちだと、しばらくはそうもいかないだろう。ドラードよりも人混みはすごいだろうし、こっちにいる間は、クインは別行動をしたほうがいいかもしれない。我慢できないようなら自分から動くだろうけど。

 待っていると、門から衛兵さん達が数人、こちらへと早足でやって来た。

「あの、ちょっとこちらへ」

 恐る恐るといった感じで若い衛兵さんに声をかけられ、順番が来る前に列の外へ誘導される。雰囲気はクインを連れて初めてアインファストに戻った時のようだ。あれから首輪等を着けたこともあって、ツヴァンドやドラードでは割とすんなり入れたので、警戒が厳重に思える。

「どちらから? 王都へはどのような用件で?」

「ドラードからです。王都へは腕の治療のために。以前、ドラードの大司祭様に腕の欠損を治療してもらったのですが、またやらかしてしまいまして」

 マントをずらし、欠損した右腕を見せる。

「今朝、再度伺ったところ、転移門でこちらに旅立ったと」

「今朝? それからすぐにドラードを発ったとしても、半日で王都へ?」

「相棒が乗せてくれたので」

 隣のクインを見る。駅馬車だったら、まだ半分も進めていなかっただろう。道中で休憩を挟んでもこれなのだから、クインの足の速さがどれ程のものなのかが分かる。

「そのストームウルフも、王都に入れるつもりかね?」

「最初は。人混みを好まないので、あまり酷いようなら外で待ってもらうつもりでいますが」

 待ってもらうというか、自分から外に出るだろう。

「ふむ……」

 中年の衛兵さんはクインを見て思案顔。

「あの、王都に幻獣を入れてはいけないという決まりがあるんでしょうか?」

「いや、そうではないのだが。幻獣連れなど初めて見たからな。強力な生き物であるから、どう判断したものか、といったところだ。このストームウルフは、お前の支配下にあるのか?」

「いえ。使役獣ではないので。私と一緒に行動しているのは、彼女自身の意志です」

 衛兵さんが眉根を寄せた。うん、懐かしいなこの反応。

「これまでもツヴァンドやドラードに長期間滞在していましたが、彼女から問題を起こしたことは一度もありません。話せなくても人の言葉は理解できるので、きちんと説明すれば分かってくれますし」

 警戒するのも無理はないか。思い返すとツヴァンドとドラードの初期対応はゆるかったんだろう。そもそもあの時は使役獣かどうかの確認すらなかったし。

「まあ、いいだろう。注意すべきことは分かっているのだろう?」

「それはもう」

 何かあったら責任は全部俺に、ということだ。つまり今までどおりだな。

「分かった。ストームウルフを連れた異邦人が来ていることについては、我々で情報共有をさせてもらう。ようこそ王都ヌルーゼへ」

 中年の衛兵さんが頷き、門へと腕を向けた。

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