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第167話:救援要請

お待たせしました。

 

 ワイバーンの解体は、それはもう大仕事だった。あれは個人でやるもんじゃない。道具もそうだが、あれくらいの巨体になると設備も大事だと思い知った。

 それでも血抜きの方法とか、現場でもできそうな一次処理の方法、ワイバーンの身体構造なんかは学べたので、次の機会に活かそうと思う。

 そう、次の機会だ。結局、ワイバーンについては、友人知人からの要望を受けた結果、ほぼ手元に残すことになった。狩猟ギルドに売却する部分はほとんどが肉で、素材的な部位は少ない。落胆した様子だったので、狩猟ギルド用に一頭狩ることを約束してしまったのだ。

 安請け合いしてしまった気がしないでもないが、次はもっとうまくやれるだろう。今度は装備が充実してからの予定だし。吐いた言葉を飲み込む気もない。

 それから久々に新しいスキルを修得した。ワイバーン解体の手伝いで【解体】スキルがレベル30になった時に開放された【弱点看破】というスキルだ。

 元々、次は【魔力変換:冷】を修得しようと思っていた。鉱山ダンジョン攻略後に必要SPは溜まっていたのに取り忘れていて、そうしている内に新スキルが修得可能になってしまったという状況。少し悩んだが、【魔力変換】はそう急ぐものでもなく、【弱点看破】のほうが有用だろうと思ってこちらを先に修得した。

 さて、弱点を看破するなんて名前ではあるが、一撃すれば必殺になる箇所が分かるとかそういうものではなく。対象の内部構造が分かるようになるスキルだ。分かるといっても、例えば肝臓はこの位置だとか、太い血管がこのあたりにありそうとかいうのが何となく分かる程度のものでしかない。

 あとこのスキル、植物では起動しなかったし、【魔導研】のゴーレムでも反応はなし。鳥獣や虫、魚でしか機能を確認できなかった。

 まあ、重要器官は弱点といえば弱点だし、スキルレベルが上がればまた違うのかもしれない。




 ログイン162回目。

「フィスト氏、この間のは完成したぞ」

『コスプレ屋』に顔を出すと、そう言ってシザーがカウンターに置いた物がある。

 木箱の中に納められていたのは艶のある黒い刃物。ダイバーナイフと銛の先だ。なめらかな黒曜石でできているようにも見えるが、以前仕留めたミズダコのカラストンビを【錬金術】で成形してもらった物だ。

 カラストンビがあの大きさだったので、相応の数ができていた。岩を削り取っても欠けない強度を持つ素材から作った物だ。頑丈だし錆びないし、海では重宝するのではなかろうか。

 ちなみにこれは全て、ジョニーと海エルフの衆に売却する予定にしている。金剛鉱と魔銀が手に入ったから俺の分は確保しないことにした。

「で、設備の方はどうだ?」

「準備はしているが、もうしばらくかかる。それから慣熟もしなくてはならんから、実際の作業に入るのは少し先になるだろう」

 注文品を木箱ごと受け取って【空間収納】に片付けながら聞くと、難しい顔でシザーが答えた。仕方ないよな。準備は大事だ。

「ところで、メールは落ち着いたかね?」

「まだ来る」

 俺がワイバーンを仕留めたことが、どうも掲示板で話題になったようで。どうやって倒したんだとか素材を売ってくれとか、知らん奴からメールが来るようになったのだ。他にもギルドの勧誘とか。

 中にはワイバーンを狩ってくれ、なんて依頼も。配分は【魔導研】が神に思えるくらいのブラック仕様だった。何だよ報酬は金だけ、って。ザッケンナコラー!

「いちいち相手なんてしてられるか。欲しけりゃ自分で狩ればいいんだ」

「そうは言っても、簡単にはいかぬだろう? だからこそ高需要な稀少素材なわけであるし」

「そうでもない。プレイヤーがあいつを落とすなら、森の中の広場に餌を配置して、周囲にバリスタを複数配置して、おびき寄せたところで一斉射撃とかすれば高確率で落とせると思う」

 兵器の集中砲火を浴びれば、さすがのワイバーンだって沈むはずだ。貫通属性の一撃を至近距離からぶち込むんだから、俺の拳よりも威力はあるだろうし、弓系技能持ちなら【魔力撃】や【強化魔力撃】を重ねることもできるだろう。

 実際のところは、やってみないと分からないけど。

「だったらそれを情報として流してやればよいだろうに」

「そこまでしてやる義理はない。シザーが仲間を集めて試すぶんには自由にしてくれていいぞ」

 弓を使わない俺でも思いつく程度のものだ。それくらい自力で辿り着いてほしい。付き合いのあるシザーには教えたが、彼は自分でどうにかする気はないのか肩をすくめた。

「しかし、魔銀や金剛鉱が手に入ったと思ったらワイバーン。最近のフィスト氏はいい流れの中にいるようだな」

「正直、怖いくらいではある」

 俺がワイバーンを入手したことはバレてしまったし。逆に装備にしない方が不自然ということで、鎧の表面に貼る革は一つ目熊からワイバーンに変更することにした。装備を見て騒ぐ奴が出ないとも限らないけど、そこは諦めている。なるようにしかならない。

 さて、幸運続きと言えなくもない最近だが、海で片腕を食い千切られたりもしてるわけだし、いいことばかりってわけでもない。できることなら平和の中で美味い物に巡り合うだけのプレイがしたい。このままだと何かよからぬものが寄ってきそうだ。

 それに、ワイバーンをまだ本格的に食えてないのが残念なところである。

 ワイバーンの肉については、基本的に固めであり、そのままではなく熟成させた上で下ごしらえをすれば柔らかくなることを狩猟ギルドで教えてもらえたので、その情報込みで肉をグンヒルトと【料理研】に売却してある。どちらにも成果をごちそうしてもらうことになっているので今から楽しみだ。自分で調理して食べるとしたらその後だな。

 そんなことを考えていると頭の中に音が響いた。メールの着信音だ。

「またか」

 うんざりしつつも確認のためにウィンドウを開く。フレンド登録をしていなくてもメールを送れる仕様がこういう時は恨めしい。着信拒否の設定自体はできるが、俺の場合は【解体】スキルの教授の連絡が来ることもありうるので、一括拒否は抵抗があるのだ。

 なので、一度は応対して、しつこかったりすれば都度ブロックというのが現状の対処法だった。修得者は増えてるし、俺でなくても教授はできるわけだけど、情報公開したのは俺だし、もうしばらくは受け付けることにしよう。

 誰からだ、とメールボックスを見てみたら、発信者はジョニーだった。件名は『シーサーペント討伐のお誘い』とある。

 内容を確認してみると、最近、シーサーペントらしき存在の目撃情報が増えてきたらしく。ここでいっちょ狩ってやろうと人手を集めているとのこと。声をかけてくれたのは、以前、ビントロとこの件で話をしていたからだろう。

「ふむ、いいタイミングではあるか」

 魔銀も金剛鉱も今はまだ加工できない。ワイバーン肉についても今日明日のことにはならないだろう。特に緊急の用事もない。引き渡さなきゃいけない物もある。海に出るのも悪くない。

「別件かね?」

 こちらの反応を見てシザーが聞いてくる。ああ、と頷いて、件名を教えた。

「シーサーペントか。海系防具用素材はカニ以来だな」

「主導は【漁協】だから、分配がどうなるか未知数だな。俺としては海素材の装備はあまり興味がない」

 海用防具が必要なほど頻繁に海で活動する予定は今のところないし。個人的には肉が手に入ればそれでいいのだ。




 ログイン164回目。

 明日のシーサーペント狩り参加に備え、ドラードへと跳んだ。ここを離れてそう日は経っていないはずなのに懐かしく感じる。ドラードへの思い入れが前以上に強くなっているのかもしれない。

 さて、今日のところは特段、片付けておく用事もない。どこか食事のできる店を新規開拓でも――

『フィスト! 今大丈夫か!?』

 適当に歩いているとフレンドチャットでジョニーの悲鳴に近い声が響いた。何事だ?

『大丈夫だ。どうした?』

『シーサーペントが出た!』

 自然と足が止まる。今、何て言った?

『海エルフ達と釣りをしてたらっとぉっ!?』

 通話が途切れる。まさか、戦ってる最中なのか?

『あっぶねー……ともかく、襲われちまったんだよ! 海エルフ達と応戦してるが苦戦中!』

『状況は分かったが……どうしろと』

 現場は遠い海の上で、俺がいるのは陸地だ。移動手段がないとどうしようもない。

『【漁協】には救援要請を出した! 1隻はこちらへ、もう1隻はドラードに向かってもらってる! できればそっちと合流して応援に来てくれ!』

 それは構わない。でも、今、シーサーペントと戦ってるのは何人だ? 船がドラードに着くのはいつで、現場にはいつ着ける? それまで保つのか?

『とにかく逃げろ! 人命最優先!』

『そうしてるよ! でも、あっちの方が速い上に、使ってた小舟も壊されててな! 遠出してたのが仇になって、村への救援要請もさすがに届かない! 怪我人も出てるしって突出するなよおい!』

 ジョニーの怒声は海エルフに向けられたものか。現場は随分と混乱しているようだ。

 ウィンドウを呼び出し、フレンドリストを確認する。よかった、ログインしてる。

『あー、とりあえず陸地に逃げろ。最寄りの島を見つけたらそこへ避難だ。シーサーペントなら、無理に上陸しようとはしないだろ』

『最寄りの島か……そこまでは何とかなりそうだ。大きな島じゃないから袋のネズミになりそうだけどな……』

『そこは応援が来てから対処でいいだろ。とにかく粘れ。できるだけ急いで駆けつけるから』

『頼む!』

 チャットが終わった。さて、急がないとまずい。フレンドリストから1つの名を選択し、チャットを繋ぐ。

『カーラ、今いいか?』

『お久しぶりですフィストさん。何でしょうか』

『今、どこにいる? 取り込み中か?』

『えっと、アインファストにいます。取り込み中といいますか、これからお仕事をしようかな、と』

 仕事、か。あー、駄目か?

『それは……緊急の仕事か?』

『いえ、アインファスト領内の航空写真を撮るんですけど、急ぎというほどでは』

 神は俺達を見放さなかった! だったら!

『悪いがすぐにドラードに来てくれないか!? 転移門の使用料は後で払うから! アインファストに戻る分も!』

『え、と。それは構いませんが……ど、どのようなご用件でしゃう?』

 若干引いたようなカーラの声。しかも最後で噛んだし。何か不安がらせてしまったか。でもすまん。ちょっと余裕がなくてな。

 一度深呼吸をして、カーラに用件を告げる。

『友人達が厄介な奴に襲われてるんで救援に向かいたいんだ。俺をその場所まで送り届けてほしい。お前の飛行魔術で』

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