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第164話:飛竜2

お待たせしました。

 

 ログイン156回目。

 ツヴァンド南部の森。外周部の木の上に潜んで、今日もワイバーンを観察する。マントの迷彩柄はこんな時に役に立つ。更に《翠精樹の蔦衣》を展開してカモフラージュは万全だ。今のところ、ワイバーンには一度も見つかっていない。

 連中は岩山の奥の方から飛んでくるので、巣は向こうにあるんだろう。沼に棲んでいるって説もあったりするから、そんな地形が向こうにあるのかもしれない。

 それはともかく、数日ほど観察した結果、色々なことが分かってきた。

 まず、やって来る個体はその時々で違う。子供と思われるサイズの奴もいれば、この間俺と対峙した奴より大きいのもいるし、傷とかがある個体もいる。他のゲームのようにサイズも能力も均一なんてことはない。

 連中はこのあたりを餌場にしていて、鹿等の比較的大きめの動物を狩っている。その方法は様々で、荒野にいる獲物を飛行したままでガブリといったり脚で捕らえたり。時には森の木々の密度が薄い場所に着地して尻尾でなぎ払って仕留めたりしたこともあった。獲物は大抵はその場で食べてしまうが、稀に食べずに持ち帰ることも。

 水場で水を飲むこともあり、意外と地上には降りることはあるようだ。あと、サボテンを食べることがあるが、あれはひょっとしたら水分補給なのかもしれない。

 ワイバーンがやって来るのは昼前あたりからで、何頭か獲物を狩ったら山の方へ帰ってしまう。それから、遅くとも夕方には引き上げる。現時点では夜に飛行しているところは確認できていない。

 で、そんな奴らを狩ろうとプレイヤー達が遠征してくることがある。この手のゲームではレイドと言うんだっけ、複数のパーティーが合同でやって来てワイバーンと対峙するのだ。

「ぎゃあぁぁぁっ!?」

 そして、今もタンク役のプレイヤーが1人、ワイバーンにさらわれ、上空で噛み砕かれて散った。他のプレイヤー達は混乱の極みだ。既に前衛はほぼ崩壊していて、連携も何もない。

 俺が観察を始めてから、こうやってプレイヤー達がワイバーンの餌食になる光景を何度も見ている。

 ワイバーンはプレイヤー達の真上を旋回し始める。この行動パターンは、弓持ちを真上から強襲する時に見られる。プレイヤー達も分かっているのか、何人かいる弓持ち達が散開してワイバーンを待ち構えた。1人が狙われている間に残りが攻撃する、というのもプレイヤー達の定番パターンだ。魔術師達も詠唱を始めている。射程に入ったら一斉攻撃に入るのだろう。

 やがて、1人に狙いを定めたワイバーンが急降下してくる。自分が狙われたことに気付いた弓持ちがワイバーンを引き付ける。しかしワイバーンは途中で別の弓持ちへと進路を変えた。

 急に狙われた弓持ちは慌てて矢を放つ。しかし矢は外れ、ワイバーンの顔のそばを通り抜けていった。

 他の矢が、魔力弾が、雷撃が、地面から飛び出した礫が、ワイバーンへと放たれる。それらは確かに命中したが、ワイバーンの表情を僅かに歪めさせるだけで終わった。

「ひいぃぃっ!?」

 そして、狙われた弓持ちが、脚を避けられずに掴まれ、そのまま上空へと連れ去られると、かなりの高度で放り出された。悲鳴を上げながら落ちていくプレイヤーは、地面に赤い花を咲かせて散り消える。

 うむ、この戦闘もワイバーンの勝ちは揺るぎそうにない。合掌。

 

 

 

 結局、今のプレイヤー達も全滅して終わった。今のところ、俺の目の前で討伐に成功したプレイヤー達はいない。掲示板情報によると、未だに討伐実績は3件しかないそうだ。そのうち1件が友人のカーラだというのは驚いたが。

 それなりに対ワイバーン戦を見てきて気付いたが、戦闘時の動きも様々だ。基本的な部分は変わらないが、個体それぞれのスタイルがある。さっきの掴んで落とす、なんてのも全ての個体がするわけではない。

 さて、ほとんどの場合はプレイヤー達が蹴散らされて終わるわけだが、何で倒せないのかというと、有効なダメージを与えられないからだろう。

 ワイバーンは基本的に、高速飛行したままプレイヤー達に突撃する。頭から突っ込んで轢き逃げすることもあれば、頭を囮にして武器の届かないぎりぎりの所で間合いから離れ、勢いはそのままに脚や尻尾で攻撃という器用な真似もする。接近したところで翼を羽ばたかせ、生み出した風で吹き飛ばしたりもしていた。

 轢かれて宙を舞い、噛み付かれてそのままもぐもぐされ、踏み潰されたり掴まれて握り潰されたり。尻尾で吹き飛ばされたり刺し殺されたり。上空まで運ばれて放り投げられたりと、近接武器を使う戦士系はほぼ蹂躙されるがままだった。

 では飛び道具を使うプレイヤーはというと、命中率が低いように見える。ワイバーンを狩ろうと出張ってくるくらいなのだから、技量が低いということもないだろう。突っ込んでくるワイバーンに腰が引けてしまうのかもしれない。何せ、一矢と引き替えにそのまま轢かれたり捕まったりしてご臨終というのがほとんどだし、あの巨体が迫ってくるのはかなりの恐怖だし。

 うまく命中しても、【強化魔力撃】を込めた武器が当たってようやく傷をつけることができる強固な皮膚は、半端な飛び道具をほぼ無力化しているようだ。刺さりはするが、ダメージには遠いといった感じ。それに弓等を持っているプレイヤーがいる時は一応警戒しているのか、フェイントを入れることもあったし、さっきのように頭上から急降下したりと、なかなかえげつない攻勢を見せたりもしていた。

 それならばと魔術や精霊魔法、呪符魔術を放つも、有効打には遠い。効いていないということはないようだが、かなりタフなのか、なかなか弱らないのだ。そして、弱る前に攻撃されて終わる。

 レイドで挑んでいるわけだから、当然プレイヤー達は役割分担をちゃんとしているわけだが、ワイバーンはそれをうまく崩すのだ。

 戦いそのものが厄介なところに、更に面倒なのは、やばくなったら逃げることだ。片目を潰したり、1人を犠牲にしている間に飛び道具や魔術で集中砲火したりと、何度かいいところまで追い詰めたプレイヤー達もいたのだが、そのまま逃げられて徒労に終わってしまっている。

 つまり、あれだ。俺がワイバーンを仕留めようと思ったら、攻撃を食らわないように有効な打撃を与え続け、しかも逃げられないようにする必要があるということになる。

 素直に誰かに助けを求めるのが一番いいんだと思う。それこそ、ワイバーンを単独で仕留めた実績があるカーラとか。普通に討伐できそうなルーク達とか。ワイバーンに食材として興味を持ちそうなグンヒルトやセザールとか。

 でも、俺は基本的にソロというかクインとのコンビなわけで。【解体】スキル持ちでもあるし。まずは自力と相棒とでどうにかしたい。どうしても駄目なら諦めるが、まずは試してからだ。

「そろそろ、かね」

 日頃の行動も、戦闘時の行動も、それなりに把握できた。なら、それらを活用して、奴を仕留めるための準備をしていこう。

「街に戻るぞ、クイン」

 同じく潜んでいた相棒に声を掛け、俺は木から飛び降りた。




 ログイン159回目。

 ツヴァンド南部の森の中。木々がなくなりそこそこの広場になっている場所で、俺はワイバーンを待つ。ここが俺の設定した狩り場だ。草が茂り、草食動物がそれを食みに来る場所で、ワイバーンにとっての狩り場でもあることを確認している。

 そんな場所に1頭の鹿。正確には、俺がここに来る途中で生け捕りにした奴だ。後ろ足の片方を鎖で繋ぎ、もう一方を地面に埋めた岩に固定してあって、逃げられないようにしてある。こいつを餌にワイバーンをおびき寄せようという作戦である。

 ワイバーンが降下して鹿にアタックしたタイミングで、まずは飛行を封じる。準備したのは長い蔦。GAO内でかずら橋や建材に使われるような強固なやつを現地調達した。こいつをワイバーンの脚に巻き付けるのだ。

 ブラウンベアでも引きちぎれない強度があることは確認してあるが、ワイバーン相手にどこまで通用するかは未知数だ。そこは数でカバーする。そのための準備も完了していた。

 飛べなくしたところで翼を叩く。飛行というアドバンテージを奪えれば、もはやでかいトカゲでしかない。いや、でかいトカゲはそれだけで十分な脅威だけども。

 翼が使えなければ、たとえ拘束から逃れても、俺から逃げ切ることはできはしない。ワイバーンの巨躯と脚で、長距離を、しかも森の木々の間を縫って逃げるなんて無理だからな。あとは長期戦覚悟でひたすらぶん殴るだけだ。

 とまあ、全てが都合よくいけば、これで倒せる、はずだ。武器や防具も充実できればよかったのだが、レイアス達の鍛冶設備がまだ整っていない。待つのも選択の1つではあるが、実際に対峙してみないと分からないこともあるかもしれないので、まずはひと当てすることにした。

 さて、ワイバーンを待ち受けること数時間。

 途中で鹿の群れがやって来たが、囮の鹿を見るとそのまま立ち去ってしまった。

 囮の鹿は鎖から逃れようともがいているが、鋼の鎖をただの鹿にどうにかできるわけもなく、徒労に終わっている。適度に動いてくれた方がワイバーンの目にも留まるだろうから、座り込んだら石を放って立ち上がらせるという、ちょっとかわいそうなことをやっている。すまん、鹿。ワイバーンを狩った後も無事だったら、責任を取ってきっちり食べてやるからな。

 自然と合掌してしまったところで、たしっとクインの脚が俺の肩を叩いた。迷彩柄のほうを表にしたマントを被ったまま、木の陰から広場を見て、耳を澄ませる。

 風が揺らす葉の音、拘束から逃れようと鹿が立てる音に混じって、羽ばたきの音が聞こえた。

 見上げると、ワイバーンが視界を横切っていった。【気配察知】で周囲を確認する。反応は遠ざかっていくワイバーンと、広場の鹿のみ。狩りの邪魔になりそうな奴は近くにいない。

 この位置だと姿を追えないので、【気配察知】で場所を確認する。こちらに戻ってくるのが分かった。多分、鹿を見つけたんだろう。

「じゃあ、やるぞ」

 マントを脱ぎ、頷いたクインを置いて広場へと踏み入る。鹿が近づく俺を警戒するがそちらは無視して、ワイバーンの視界に入る前に【隠行】を発動。そのまま見上げれば、ワイバーンが広場上空まで戻ってきた。鹿の注意は俺に向いたままで、旋回する飛竜に気付いた様子はない。

 ワイバーンの動きを注視していると、降下の体勢に入った。巻き込まれない位置へ移動し、広場に張り巡らせた蔦の1本を手に取る。片方には鉄で作った碇を取り付けてあって、もう片方は広場を囲む木々にくくりつけてある。こいつをワイバーンに絡ませてやれば、蔦を千切るか木を抜くかしない限り飛んで逃げることはできない。

 広場に落ちてくる影と羽ばたきの音に気付いた鹿が、俺から空へと視線を移した。そして、そのまま踏み潰された。

 その瞬間に、蔦を引き寄せる。【隠行】を解除して、背を見せるワイバーンに駆ける。

「ガウッ!」

 同時にクインが森からワイバーンの正面に躍り出た。当然ワイバーンの意識はそちらへと向く。その隙を衝いて、西部劇のカウボーイよろしく振り回した蔦をワイバーンの脚へと放った。蔦が絡み付き、碇が蔦に引っ掛かって、拘束を確かなものにする。

「次っ!」

 別の蔦を手に取り、同様に脚へと巻き付ける。これで2つ目。他の蔦は――この位置にいられたら届かないか。

「うおっ!?」

 横から迫る影から跳び退く。今まで立っていた場所を尻尾の横薙ぎが通り過ぎていった。ここまでやればさすがに俺にも気付くよな。

 尻尾対策に【空間収納】から拘束用の道具を引きずり出す。4メートルの鎖の両端に、1メートル程の丸太をくっつけたボーラもどき。その片方を肩に担いだまま、ワイバーンの間合いに戻り、尻尾を繰り出してくるのを待つ。

 再度迫った尻尾を、真上にジャンプすることで躱した。尻尾が丸太の間の鎖を打ちつけた瞬間に、押し出すように丸太を放棄して離脱。安全圏まで移動して振り返れば、うまい具合に鎖が尻尾に巻き付いていた。丸太2本の重量が加わり、明らかに尻尾の動きが鈍る。これで尻尾は封じたと思っていいだろう。

 ここまでは計画通りに進んでる。だったら次は翼を叩く!

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