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第161話:戦果

 

 ダンジョンの探索は、予定どおり10階層で終えた。復路は寄り道をしない最短ルートで、採掘はせず、出現する資源(てき)だけを撃破・回収して進んだ。

 終わってみれば、今回の戦果は文句の付けようがないものとなっていた。当初の目的だった纏まった量の魔鋼こそ入手できなかったが、ダンジョンの扉という新たな資源で穴埋めできたし、何より魔銀ゴーレムというレアものを得ることができた。これに文句を言ったら罰が当たるだろう。


 ログイン147回目。

「いらっしゃいませー。あ、フィスト君にニクスさん。お帰りなさい。それにニトロ君も」

 ツヴァンドの『コスプレ屋』に顔を出すと、スティッチが出迎えてくれた。店主のシザー、そして普段はアインファストにいるレイアスも一緒だ。レイアスには事前に連絡を入れて戦果のことを伝えておいた。新装備のことで色々と相談したかったからだ。

「よく無事に戻ってきた。大変だったようだな」

「最後が完全にイレギュラーだったよ。倒せたからよかったけど」

 労ってくれたシザーに、大袈裟に溜息をついてみせる。

 魔銀ゴーレムは恐ろしい相手だった。あのパワーと防御、そして各種ギミック。最後の突撃も、推進器が全て生きていたらもっと速かっただろうし、あの速度で突っ込んできてメイスを振るわれていたらと思うとゾッとする。

「まあ、それは追々。それよりも本題を」

 土産話は後だ。俺は【空間収納】から戦利品である金剛鉱のメイスと魔銀の盾を取り出した。

「他にも宝石とか貴金属とかあるが、まずはこいつだ。あと、ゴーレム本体から回収する魔銀もある。これで俺とニクスの装備を新調したい」

「これだけでもかなりの量なのに、魔銀が更に追加されるのか。あと、どれくらいあるのだ?」

「これくらいだな」

 シザーの問いに、ニトロが魔銀ゴーレムの画像を表示して見せた。分解はしていないので原型のままだが、金剛鉱のメイスと一緒に撮られているので、目の前のメイスと比較すればサイズは分かる。シザーとレイアスの目がこれでもかと見開かれた。

「これはまた……鍛冶職プレイヤー達がこれを知ったら発狂しそうだな」

 レイアスが震える声でそんなことを言った。鍛冶職プレイヤーにはお宝の山だからな。

 魔銀ゴーレムの分配に関しては、動力源や腕の射出機構等、内部の技術的なパーツは【魔導研】、それ以外は全て俺達がもらうことになっている。ニトロの出した概算では、魔銀の半分以上はこちらの物になるようだ。

「で、これを扱わせてもらえるのか?」

「ああ。素材として個別に欲しけりゃ売却にも応じるよ」

 俺とニクスが欲しい物を全て作ってもらっても絶対に余るだろう。レイアスとシザーのスキルアップは俺達の装備の品質向上にも繋がるし、売却に否はない。ああ、友人達に声を掛けてもいいな。こちらの指定の職人に任せるなら割り引くって条件付きで。

「それはありがたい。魔銀や金剛鉱なんて、トップクラスの鍛冶職がようやく手を出し始めたくらいだ。それを扱わせてもらえるこの機会、逃すわけにはいかない」

 やる気を見せたレイアスは、ただ、と続けた。

「設備が今のままでは不安だな。炉は新調せねばならんか」

「それは吾輩達もだな。まずは魔銀と金剛鉱を扱える環境を整えねば」

 シザーとスティッチもそれに頷く。すぐに作業ってわけにはいかないのか。稀少金属ってのはやっぱり難物なんだな。

「そういうわけで準備が必要だ。今できるのは、作る物を決めることだな。俺達は何を作ればいい?」

「俺がレイアスに頼みたいのはガントレットと剣鉈だ。それから解体用の刃物を一式に、ナックルダスターを頼みたい」

「最後のは何故だ? ガントレットがその役割を担っていただろう?」

 注文にレイアスが首を傾げる。彼の言うとおりではあるのだが、今回の件で、それだけでは不足する事態もある、と身をもって知ってしまったのだ。

「魔銀ゴーレム相手だと厳しかったんでな。今後、強固な相手が出た時用に準備しておきたい。金剛鉱製のを4つ、その内2つは、打撃部に魔銀をコーティングしてくれ」

 前者は純粋に無機物専用。後者は対アンデッド用だ。【魔力撃】や【魔力変換】なしで有効打を与えられるならその方がいい。

「イメージとしてはこんな感じで」

 ネットで画像を検索して、レイアスに見せる。

「ふむ。原作のように無数のダイヤをはめ込む必要はないのだろう? 狩猟用でないのであれば、代わりにスパイクを入れるようにしておこうか」

「それで頼む。で、シザー。防具については金属製に一新しようと思ってる。ただ、表面は今までどおり、革を貼ってくれるか?」

「それは意味があるのかね?」

 次にシザーに注文をすると、こちらも疑問の声を上げた。

「そのほうが、対人戦の時に相手の油断を誘えるだろ?」

 まさか革鎧の下が魔銀製だとは思うまい。それに、その方が音も小さくなる気がするし。ちゃんと理由はあるのだ。意図するとおりに機能するかは知らんけど。

「まあ、理不尽でない限りは客の注文に応じるのが職人の仕事だ。きっちり仕上げてみせるとも。ロックリザードの素材はもうないので、一つ目熊を使おう」

「では次はニクスか。何を作ればいい?」

 胸を張ってシザーが答え、レイアスがニクスを見る。

「剣をお願いします。魔銀で今使っている剣と同じ物を二振り、小剣を一振り。それから、金剛鉱の剣も同様に。こちらは刃はなくて構いません」

 ニクスがそう注文した。ん?

「魔銀製はともかく、金剛鉱製は何故だ?」

「訓練用と、対無機物用です。ラーサーさんからお借りしている剣をお返ししようと思いまして」

 なるほど、自前の物ならどう扱おうと自由になる。でも長剣が二振りってのは……予備か? うむ、用意周到で大変結構。武器使いはそれぐらいでなくては。

「じゃあ武器はそれでいいですねー。防具の方はどうしますかー?」

 スティッチがニクスを見る。そこで申し訳なさそうに、ニクスが自分の【空間収納】から鎧を取り出した。

「今回のダンジョン探索で、壊れてしまいまして。まずはこれの修復をお願いできますか?」

「これってニクスさんの身体は大丈夫だったの!?」

「はい。鎧のお陰で、骨折だけで済みました。ありがとうございます」

 魔鋼の立派な山がカルデラと化しているのを目にして、スティッチの視線がニクスの胸部へ向けられた。そっとそこに自身の手を添えてニクスが礼を言う。

 戦闘後に顔を蒼くしてうずくまってると思ったら、鎖骨と肋骨が折れてたんだよな彼女。ダンジョンに行く前に鎧が完成してなかったら、あの戦いで死んでいたかもしれない。そして、そんな彼女を、助けるためとはいえ強引に抱きかかえ、更にはシステムの制裁を恐れて放り投げた俺。すまんかった。

「それからこちらも。脱ぐ時に肩が上がらなかったので壊しました」

 次にニクスが取り出したのはチェインメイル。ただし、右胸がはだけるくらいまで、右肩と右脇が断たれている。

「フィスト君。ちょっと、強引じゃないですかね?」

 目を細めてスティッチが俺を見る。どうして俺が破ったこと前提なんだ。というか、チェインメイルを素手で引き裂くなんて俺には無理……多分、無理。試したことないけど。

「俺が外したのは鎧のほうだけだぞ」

「つまり、鎧は剥いたと」

「悪意がありませんかねぇその言い方っ!?」

 骨折の治療の前に、患部を圧迫してしまっているであろう鎧を外しただけだというのに。本人がそれをできる状態じゃなかったから俺がすることになったけど。

 脱がせるという行為がどう判定を受けるか分からないのが不安だったが、事前にニクスが一時的に設定変更してくれたのは助かった。結局、俺は鎧を持ち上げて補助しただけで、実際に鎧を脱がせたのは治療をお願いした【魔導研】の女性所員だったけど。チェインメイルの分断も同様。

「冗談ですよー。鎖が綺麗に分かれていますし、【魔導研】の誰かが【錬金術】スキルか何かでバラしたんですよねー」

 チェインメイルを確かめながらスティッチが笑う。こ、こいつめ、分かってて……っ

「それはともかく、修復する必要があるんですかー? せっかく魔銀があるんだから新調してはいかがです?」

「魔銀は魔鋼よりも軽いと聞きましたので。魔鋼のままの方が、普段の鍛錬にはいいと思って。魔銀装備もお願いするつもりです」

 魔銀の重さというか比重は、鋼の3分の1、ではなく、半分ほどらしい。あと、金剛鉱は鋼の倍くらいだそうな。

 それにしてもニクスが鍛錬大好きウーマンに進化しているような気がするんだが。ローゼと一緒にGAOをプレイする未来がある以上、いいことなんだろうけど。

「なるほど、使い分けを考えていると。分かりました。ただ、チェインメイルは繋げばすぐですけど、胴鎧の方は作り直しですねー。それで、魔銀の鎧のデザインはどうしましょう?」

「魔鋼と同じで「えーっ!?」」

 ニクスの回答はスティッチの声で打ち消された。

「ニクスさん! 魔銀ですよ!? いわゆるミスリル相当品ですよっ!? 有名なファンタジー素材ですよっ!? せっかく稀少な素材で作るのに、見た目がまったく同じなんて勿体ないですよっ!」

「そ、そう言われても……特別感がないほうが、対人戦の時にも相手が油断してくれそうですし。そうだ、いっそのこと普通の鋼に見えるような処置も施し――」

「フィスト君! ニクスさんにどういう教育をしてるんですかーっ!?」

 困ったようにこちらを見て、とってつけたようにニクスが言い訳をすると、スティッチの矛先が俺へと向いた。知らんがな。

「俺が何をしたと」

「魔銀の鎧に革を被せようなんて言ったの、フィスト君じゃないですかっ! 真似っこですよねっ!?」

「決めたのはニクスだろう。俺はそうしろなんて言ってない」

「それはそうなんですけど! でもでも、勿体ないじゃないですか! 魔鋼の鎧を仕上げた時にも思いましたけど! 確かに、今の装備でも似合ってますけど! ニクスさんは傭兵より騎士の方が似合うと思うんですよっ!」

 いつぞや下着について熱く語っていた時のように、スティッチが力説する。

「装飾過多にしようとは言いません! 機能性を犠牲にしようとも言いません! でも、でもせめて! 魔鋼の鎧をそのままにしておくならなおのこと、魔銀の方はその素材にふさわしい、もう少し華がある装いにしたいじゃないですかっ! フィスト君だってニクスさんの姫騎士姿、見たくないですかっ!?」

 そう言われ、ニクスを見る。機能性と目立たないことを優先してニクスが注文した今の装備は傭兵風。周囲に埋没するだろう。

 一方、ニクスの騎士装備となると、悪くない。どころか、いいと思う。ファンタジー定番のドレスアーマーもあれはあれでと思うが、見た目優先で防御面で難があるし、そこはニクスも譲らないだろう。魔鋼の時もそうだったし。

「女騎士ニクス。ありだな」

「はゃあっ!?」

 思わず漏らした呟きに、奇妙な声を出してニクスが顔を赤く染めた。いや、あくまで個人の感想で、強要するつもりはないんだから、そんな裏切り者を見るような目をされてもですな……

「魔鋼のほうを鍛錬用にするなら、バンバン傷も入るしへこみもするだろ? その外見で人と接するとして、相手に与える印象ってものがあるしな」

 素の容姿は問題ないが、格好で警戒されたりすることはあるかもしれない。歴戦の勇士と見るかゴロツキと判断するかは相手次第なのだ。普段はマントで隠してるとかはひとまず置いておく。

 でもこれが騎士装備っぽいものであれば、少なくともアウトロー以外の人には好意的に見てもらえるだろう。それだけでも駄目だが、見た目は大事だ。

 狼狽えているニクスの肩に手を置いて、スティッチが店の隅へと連れて行く。全損した盾をどうするかもまだ決めてないんだが。自分のことだからニクスは忘れてないだろうし、あちらはあちらで好きにしてもらうか。


 その後も話は進み、戦果の扱いは一通り決定した。

 ごく少量あった稀少金属の鉱石は、金剛鉱と魔銀の塊を得た今となっては無いも同然なので、そのまま【魔導研】へ全て譲った。

 貴金属の鉱石と宝石の原石は、シザーに預けた。必要な分をシザーが購入し、それ以外は製錬や研磨をして価値を高めてから引き渡してもらい、俺とニクスで分ける予定。

 石材系ゴーレムの残骸は、金銭的価値の高い物だけ石工組合(ギルド)に売却してニクスと折半予定。ボスフロアの石材も同様だ。その他の残骸は俺が預かっている。多分、かまどや投擲用の礫に活用することになるだろう。

 ダンジョンのモブゴーレムが落とした武器や盾は、特に欲しい物がなかったので【魔導研】に資源として売却が決定している。

 ロックワームの肉は俺とニクスで折半した。

 ダンジョン攻略前の取り決めで得た物について「は」以上となる。

 あ、生ハムは当然受け取っている。


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