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第155話:ギルド【魔導研究所】

 

 ログイン143回目。

 昨日はニクスを連れて『エルドフリームニル』やギルドの食堂等、美味いものを食える場所を案内してやった。楽しそうにしていたので何より。

 そして今日。俺は狩り、ニクスはラーサーさんとツヴァンドに戻って修行の続き。そのはずだったのだが、その予定が崩れた。

 まず、ラーサーさんに別の用事ができたことで、ニクスの修行がしばらく中止になってしまった。俺もニクスもラーサーさんの手伝いを申し出たのだが、今回は時間がないことを理由に断られた。俺達が参加してしまうと、ログアウトしている間にラーサーさんが動けなくなってしまうからだ。これでニクスがフリーとなった。

 そして俺の方はシザーから連絡があった。1つは修復と改修が終わっている鎧をいつ取りに来るのかという確認。既に連絡はもらっていたのだが、海での活動をメインにするため、まだ引き取りに行ってなかったのだ。

 もう1つは、俺に会ってもらいたい人達がいる、ということだった。何か頼みたいことがあるようで、詳しい話は会ってから、とのこと。

 ニクスの方も、注文していた鎧がほぼ完成したようで。それならということで、俺はニクスと一緒に『コスプレ屋』へと向かっている。クインはツヴァンドに着くなり街の外へと歩いていった。森で狩りでもするのだろう。

「フィストさんに頼みたいこと、というのは何なのでしょう。【解体】スキルの教授なら、直接メールすればいいわけですし」

 道中でニクスが疑問を口にした。

「今じゃ俺以外のスキル修得者も増えてるからな。俺じゃなきゃいけない理由もないはずだ」

 特定の獲物を狩ってほしい、というのなら分からないでもないが、他の【解体】スキル持ちに依頼すればいいわけで、やっぱり俺である必要はないと思える。仲介がシザーなので、生産系プレイヤーからの依頼だとは思うんだが。

 他愛ない話をしながら店に到着すると、シザーとスティッチが外にいた。

 そして、先客らしい集団もいた。10人ほどだが全員が白衣を着ていて、GAO内だと異質に見える。彼らが依頼者だろうか。

「ああ、フィスト氏。よく来てくれた」

 こちらに気付いたシザーが声を掛けてきた。白衣の集団もこちらを見る。男女とも全員が眼鏡を掛けていた。近視のプレイヤーなんていないはずだから、ファッションなんだろうけど。

「ああ。そちらの方々は?」

 軽く手を挙げて応え、白衣達を見る。シザーの用件は分かっているので、正体不明の彼らの素性を知っておきたい。

 一団の中から1人の男が進み出た。銀髪を整髪料でオールバックにした優男だ。

「初めましてフィスト殿。私はニトロ。ギルド【魔導研究所】の所長(ギルマス)だ」

「初めまして、フィストだ」

 差し出された手を握る。【魔導研究所】といえば、GAO内の魔具とかの技術を探究してるギルドだったな。確か、馬のゴーレムを作っていて、シザーが外装の件で協力していたはずだ。

「今回、シザー殿に仲介を頼んだのは私達だ。フィスト殿に協力してもらいたいことがあるのだよ」

「そうらしいな。余計に理由が分からなくなったが」

 俺のプレイスタイルと、【魔導研】のプレイスタイルでかみ合う部分なんてないはずだ。彼らは俺に何を求めているんだろうか。

「ふむ。まずは、我々の成果を見てもらおうか。それに関わる部分もあるのでな」

 言うなりニトロが【空間収納】からあるものを取り出した。おお、と思わず声が漏れてしまう。それは馬の模造品だった。金属製の馬の骨格標本、というにはごつめだが、外装を着ければ某魔導馬っぽくなるだろうか。

「これは【魔導研】(うち)で開発しているゴーレム馬のプロトタイプだ。一応、完成はしている」

「てことは、もう動く?」

「もちろん。これ自身に意思はないのでな。手綱を介して乗り手の意思を伝え、動かす」

 誇らしげにニトロは言って、ニクスへと視線を向けた。

「乗ってみるかね?」

 突然話を振られてニクスが戸惑う。

「乗馬未経験者でも思ったように動かせるのが売りでな。感想など教えてもらえるとありがたいのだが」

 ゴーレム馬には鞍も(あぶみ)も備わっている。ニトロが言うとおりなら、誰でも動かせるだろう。

 どうすれば、と俺に向けられたニクスの目が問うていた。断る理由もなかろう、と俺は軽く頷く。

「引っ掛かったりパーツに噛んだりするといけないので、マントは外しておいた方がいい」

 ニトロの注意に従い、ニクスはマントを脱いで【空間収納】に片付ける。おぉ、と【魔導研】の男性陣から小さく声が漏れた。

 ニトロから説明を受け、ニクスが軽々とゴーレム馬にまたがった。緊張した面持ちで手綱を持つと、ゆっくりとゴーレム馬が動き出す。

 動きは馬そのもの。よくぞここまで再現したものだ。ニトロ達は満足げに頷いて――ん?

 一部メンバーの表情に気付き、再度ニクスを見る。しばらく進んで馬首をこちらへ向け直したところだ。そのまま戻ってくるが――しまった、断る理由はあった。ニクスを乗せたのは失敗だったか。

「ニクス、そこで止まれ」

 俺の言葉でニクスが馬を止めた。

「その場で馬から下りて、引いて戻ってこい」

「何かありましたか?」

「乗ってなくても手綱を持ってれば動くのかの確認だ」

 納得したようでニクスは馬を下り、手綱を引いて歩いてくる。ゴーレム馬は乗っている時と同じく、普通に歩いた。

 【魔導研】の一部メンバーへと視線を移す。とても残念そうな顔をしていた「男性所員」達が、俺に気付いて表情を強ばらせた。

「どうかしたかね?」

「もし今のを撮影してたなら、消してくれ。実験に協力することと、撮影してもいいかってのは、別の問題だろう」

 ニトロの問いに、男性所員達を見たままで答える。女性所員達が虫けらを見るような目を一部男性所員達に向けていた。それに狼狽える男性所員達。やってない、って否定しないのな。

 ニトロが溜息をつき、所員達に命令する。観念したのか、一部男性所員達がウィンドウの操作を始めた。

「どうかしましたか?」

「いや、何も」

 戻ってきたニクスにはそう答えておく。わざわざ知らせる必要もないだろう。

 愛ですねー、などとスティッチが呟くのが聞こえた。違う、そうじゃない。



 ところ変わって『コスプレ屋』店内。シザーと俺、ニトロが顔を合わせている。ニクスはスティッチと一緒に鎧の最終調整。【魔導研】のメンバー達は資材調達ということで別行動だ。

「さて、先程、ゴーレム馬を見てもらったが。今回、フィスト殿に頼みたいのは、ダンジョンアタックへの協力なのだ」

 ニトロが口にした目的は、完全に想像の外だ。技術者集団である【魔導研】がダンジョンアタックするのは別にいい。その護衛に人を雇うのも分かる。でも、何で俺なんだ?

「まず、我々が狙うのはツヴァンドにある鉱山ダンジョンだ。あそこは無機物系モンスターが湧くダンジョンでな。ロックゴーレム等は撃破すると金属を稀にドロップするのだが……他のダンジョンモンスターと1つだけ違う点がある」

 そう言いながら、ニトロが人差し指を立てた。眼鏡がキラリと光る。

「フィールドの動物や魔獣もそうだが、通常のダンジョンモンスターは、撃破すると即、砕けて消える。アンデッドダンジョンでは多少の肉片等は残るらしいが、大部分は消失する。だが、鉱山ダンジョンのモンスターには、砕けて消えずに少しずつ消失していくものがいる」

 へぇ、鉱山ダンジョンってそんなことになってるのか。

「で、その、すぐに消えないゴーレムなのだがね。構成物が全て鉱石で、消失前に回収すれば、そのままゲットできるのだ」

「そいつらだけドロップの仕様から外れてるってことか?」

「ドロップは落とす。その上で、残骸は時間を掛けて消えるので、完全にドロップの仕様から外れているわけではない。まあそれは置いておくとして。撃破だけなら我々でも何とかなるが、戦闘終了までのんびりしていては残骸もほとんど残らない。我々はゴーレム馬の量産のためにも多くの資源を必要としていて、効率よく回収したいのだよ」

 あー、狙いが見えてきた。

「何かいい方法はないものかと、気分転換に珍しく公式HPの動画を見ていた時だ。フィスト殿がエルフの村でリビングメイルと戦っているものを見た時に気付いた。あの時のリビングメイルは、倒しても消えずに全て残っていただろう?」

「そうだな。撃破したまま、その場に残ってた」

「【解体】スキルの効果で間違いないかね?」

「心当たりはそれだけだな」

 素直に答えると、ニトロが満足げに頷く。

「有機物のみが対象かと思っていた【解体】スキルが、無機物系のモンスターにも有効であるなら話は早い。そこでフィスト殿には、ダンジョン攻略時にモンスターへの『とどめ』を頼みたい」

 俺がとどめを刺せば、鉱石ゴーレムはまるまる残る。それを戦闘終了後に確実に回収する、そういうことか。金を払って鉱石を掘り出し、一部を手数料として納めるよりは実入りも効率もいい、ってことなんだろう。王国管理外の野良鉱山で採掘しないのは、品質の問題だろうか。

「鉱石ゴーレムもそうだが、魔導技術を使用したゴーレム、要はロボット系のゴーレムも出るようでな。それらのパーツもゲットできればとも考えている。どうだろう、引き受けてはくれないだろうか」

 ニトロの依頼内容は分かった。【魔導研】としてはうまく立ち回れればメリットがでかい。でもなぁ。

「鉱山ダンジョンって、一番興味がないダンジョンなんだよな」

 出てくるのが無機物系で、ドロップも鉱物・鉱石とかなんだろ? 心惹かれるものがない。

 ちなみに一番行きたくないダンジョンはアンデッドダンジョンだ。

「ドロップ品の分配については後で細かく詰めるとして、宝石の原石や貴金属の類は全てフィスト殿に引き渡してもいいと考えている」

「今のところ、金には困ってないんだ」

 金塊の収入もあったし、海賊船の売却代金だって入ってくるし。貴金属や宝石なんかに魅力は感じないのだ。

「ふむ……やはり持ってきておいてよかった」

 そう言って、ニトロが【空間収納】から取り出した物がある。カウンターに置かれたそれに巻かれている布を解いていくと、その下から動物の脚が現れた。生ハムだろうか。うおっ、何だこのいい香り。燻製、とは違う。肉そのものの香りか? これ、絶対に美味いやつだろ。

「ファルーラ王国最高級、らしいブランド豚であるアイヘルヴァルト豚の生ハムだ。ファルーラ王国の貴族でも、簡単に入手できないらしい逸品と聞く。偶然入手した物ではあるが、我々は特に興味がなくてな。研究所のストレージに放置していたのだが……どうだろう。これを手付けとして、依頼を受けてくれないだろうか?」

「手付け? これが報酬、というわけではなく?」

 危うく頷くところだったが問い質す。これが高級品だって言うなら、それだけで押してくるかと思ったが。

「潜りたくないダンジョンに連れて行き、時間をもらうのだ。これはあくまで、依頼を受けてもらえることへのお礼だ。ドロップ等の配分は、また別だとも」

 ぬぅぅ、俺に都合が良すぎる条件だ。本当に資源だけ手に入ればいいってことか? 生ハムは大変魅力的だし、その上で報酬は別となれば破格と言ってもいい。特に急ぐ用事があるわけでもないし。

「分かった、受けよう」

 魔導技術の発展のために力を貸すとしよう。決して生ハムに釣られたわけではない。

「ありがとうフィスト殿。報酬についても、決して君に損はさせないとも」

 ニトロが生ハムを差し出してくるが、それを手で制する。

「ダンジョンアタックが終わってから受け取るよ」

 終わった後のお楽しみ、ってことで。美味い物を食べるという目標があればこそ、頑張れるというものだ。

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