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第136話:2人と1頭の旅路3

更新が2ヶ月以上空いたので、前回までの簡単なあらすじ


会社の後輩だと判明したニクスを連れて、ツヴァンドまで旅行することになったフィスト。

旅は順調に進み、1日目の野営地に到着する。夕食を準備して食べていると蛮族の一団が声をかけてきた。


「お前ら、パーチ達の知り合いか?」

 野営の時の肉云々、となると、心当たりはあいつら繋がりしかない。問いを投げると、ああ、と女蛮族が頷いた。

「あたいはシーマ。【シャサール】のカシラをやってる」

 そのギルド名には覚えがあった。構成人員や外見も聞いていたものと一致する。こんな所で顔を合わせるとは思わなかったが。

「で、肉ねぇの?」

「肉の在庫はあるが、焼く予定はない」

 期待に目を輝かせるシーマにそう答えて、チリビーンズ風を口に運ぶ。もぐもぐ。

「あるなら焼いてくれよ。ちゃんと代金は払うからさ」

「んぐ……ただ焼いて塩を振りかけただけの肉だぞ?」

 住人達ならともかく、プレイヤーはストレージ系アイテムや【空間収納】を持ってる奴が多い。できたての料理を入れておけば、いつでもそれを食えるのだ。

「わざわざ金を払うような物じゃないだろうに」

 そう言ってやると、シーマが首を横に振った。

「外で食うなら、やっぱ雰囲気重視じゃないとな。キャンプの時に、店で出すような料理を食うとか、空気読めてねぇだろ?」

 つまり、焼いただけとか煮ただけとか。ワイルドというか大雑把な料理とか、そういうのがいいってことだ。野営地でフルコースを食べる優越感がーとか言ってるプレイヤーもいたりするが、個人的にはやり過ぎだと思う。

 ま、雰囲気重視で楽しみたいって気持ちは俺にも分かる。

「分かった。その代わり、パーチ達の時より割高になるからな」

 何を提供するかを考えながら、カカッと残りのチリビーンズ風をかき込んで、空になった木皿をニクスに差し出す。

「おかわり」

 おい、と女蛮族が目を細めたが、

「今の俺達は食事中だ。それを邪魔するならさっきの話もなしだ」

 と言ってやる。こいつらなら、これ以上のごり押しはしてこないという確信があった。

「ま、押しかけたのはこっちだから、そっち優先ってのは当然だな。じゃ、あたいらは先に野営の準備をしてくるから、肉の方は後でよろしく頼むぜ」

 そしてそのとおりに、蛮族達はそのまま離れていった。

「ニクス、おかわり」

 彼女らを警戒したままだったニクスに催促する。慌てて木皿を受け取って、ニクスがおかわりを入れてくれた。

「あの、パーチさん達って、私がフィストさんと初めて会った日に話をしていた、住人の傭兵さん達でしたよね?」

「ああ、そうだな」

 木皿を受け取って答える。あの日、レディン達とメシを食った時に話題になったので、そのあたりは説明しておいたのだ。

「彼女達はプレイヤーのようですが、そのメンバーなのですか?」

「いや、あいつらは傭兵じゃない。シーマがギルマスをやってる【シャサール】は、賞金稼ぎギルドだ」

 俺の言葉に、ニクスが目を見開いた。去って行く蛮族達の背に視線を向ける彼女に、一言。

「賞金首の間違いじゃないか、って思ったろ?」

「あ、その、ええと……」

 曖昧な反応をするニクスだが、事前に知らない連中は、みなそう思うだろう。俺も初めて彼女らの存在を知った時はそう思ったし。

 それはともかく、今は目の前のメシをたいらげるのが先だ。うまうま。

 

 

「よぅ、来たぜ」

 準備が終わったタイミングでシーマ達がやって来た。

 こうしてあらためて見ても、やっぱりすごい格好だなと思う。ビキニアーマーのシーマは当然として、他の連中もだ。

「そういやさっきは、姐御だけ挨拶したんだったな。俺はジェイソンだ」

 名乗ったのは、焦げ茶の長髪を肩の下まで伸ばした男。腰布と革のブーツを身に着け、右前腕に革のアームカバー、左腕は金属の輪で作られた籠手で肩まで覆われている。上半身は惜しげもなく筋肉を晒した裸。多分、コンセプトはコ○ンなのだろう。バーバリアンのほう。ああ、だから名前もジェイソンなのかもしれない。

「モーヴェ」

 と名前だけを口にしたのはファルーラバイソンの頭蓋骨を被った筋肉の塊。身長は2メートルに届いていそうな厳つい大男だ。身に着けているのはチョッキと腰巻き、アームガードにブーツ。全て毛皮製だが素材に統一性はない。

「あたしはルーヴ」

 そう名乗った彼女の格好は、某黒犬騎士団の団長様風だった。鎧ではなく、毛皮のビキニトップを着けてるのが違いだ。こっちは全てブラックウルフ製。

「レダだ。よろしく」

 最後の女性は某300のスパルタ兵だろうか。元ネタのように上半身は裸ではなく、ちゃんと毛皮のビキニトップを着けているので問題ないが。

 うん、お前らおかしい。特に女性陣。

「知ってると思うが、俺がフィストだ。で、こっちが」

「ニクスと言います」

 自分からは名乗っていなかったので、あらためてこちらも名乗る。さて、それじゃ始めよう。

「さあ、存分に食らうがいい」

 シーマ達の前に、大鍋を置いてやった。今回提供したのは鳥の脚を丸ごと焼いたもの。クリスマスになると消費量が増える骨付き肉的なアレだ。市場で買った鶏と外で仕留めた野禽が混ざっているのでサイズはバラバラだが、それを大鍋に詰め込んでおいた。取りやすいように全て細い方を上に向けてある。

「お前らの外見的に、こういうのにかぶりつくのがいいんじゃないかと思ったんだがどうか」

「おぉ、いいじゃん! いただき――っ!?」

 喜色を浮かべたシーマが手を伸ばす。しかしその前に4人が肉を掴み、間を置かず豪快にかぶりついた。

「おお、美味ぇ!」

「うむ、いいな」

「頼んだ甲斐があったねぇ」

「塩と胡椒だけでも十分いけるじゃないのさ」

 シーマを放置し、肉を頬張る4人。手を伸ばしたままで固まっていたシーマは、4人が1本たいらげたあたりでようやく再起動した。

「お、お前ら、あたいを差し置いてっ!?」

「いやいや姐御。メシの時は早いもん勝ちでしょう」

「はいはい、姐さん、まだありますからねー」

 憤慨するシーマに、ジェイソンとルーヴがそれぞれ鳥の脚を取って差し出す。はて、シーマがトップで、荒くれ者ロールプレイのギルドのはずなんだが、この微笑ましさは何だろう。格好のせいで違和感がすごい。

「子供扱いすんなよっ!」

 ひったくるように肉を受け取り、シーマがそれを口にした。豪快に食い千切り、咀嚼すること数回。

「……おいし……うん、美味いなっ!」

 満面の笑みを浮かべ、シーマは食べることに没頭する。塩胡椒を振っただけで、本当にそれ以上の手を入れてないんだけども、満足してくれたなら何よりだ。

 両手に持った肉を交互に食べるあたり、品のある食べ方じゃないんだが、シーマを見ているジェイソン達は優しい表情をしていた。何と言うか、保護者の視線的な? よく分からん空気だが気にしても仕方がない。まさか全員が親族ってこともなかろう。

 鍋の中から2本の脚を取って、1つをニクスに渡してやる。せっかく焼いたんだから、自分達でも食べなきゃな。クインは――こっちに来るつもりはないようだし、肉の催促をしてくるようでもないからいいか。

 自分で焼いた鳥の脚にかぶりつく。下ごしらえとかはろくにできていないが、美味いと言える味には仕上がっている。絞めたてを新鮮なまま保存できていた素材のお陰だろう。

 でも俺にとっての至高の鳥肉は、現時点ではアインファストのおやっさんのティオクリ鶏だ。

「なあ、フィスト。さっき食ってた豆料理も欲しいんだけど」

 2本の脚を平らげたシーマが別の脚に手を伸ばしながら言ってくる。

「あれはもう全部食った」

「食ったって、結構な量だったろ。それを全部か?」

「GAO内じゃ、いくらでも食えるからな」

 それに俺だけで食ったわけじゃないぞ。あれは俺とニクスの晩飯だったんだから。

「あれも美味そうだったのにな。嫁の料理は独り占めってことかよ」

 残念そうに言って、シーマが鳥肉を囓った。ん?

「誰だ嫁って?」

 理解しがたい単語を聞き咎めると、当然のようにニクスを見るシーマ。酒を口にしていたニクスがむせた。数度咳き込んだ後、

「ち、違います」

 とニクスが否定する。え、とシーマは眉をひそめた。

「だって男と2人旅なんだろ? しかも野宿前提で」

「違います」

「い、いや、でも……普通、素性の知れない男と泊まりがけの旅なんてしないだろ? いくらこれがゲームでシステム保護があるって言っても、直接手を出せないってだけなんだぞ?」

「違います」

 無感情な声で再度の否定。あぁ、会社モードに切り替わってらっしゃる。

「お、おぅ……」

 気圧されたのか、そこでシーマは引き下がった。

「そういや、シーマの場合はどうなんだ? そっちにも男がいるが」

 ジェイソンとモーヴェを見ながら尋ねる。シーマの言い方だと、素性の知れない男と泊まりがけの旅なんてしない、ってことになるはずなんだが。

「休む時、別のテント使う。見張り、男女別」

 取り出した革水筒の栓を抜きながらモーヴェが片言で答え、

「色々と失いたくない」

 舌を出しておどけながら、ジェイソンが手刀を自分の首に当てるポーズをした。やっぱりこいつら、現実でも繋がりがあるのか。

「ところでさ、フィストってソロだって聞いてたんだけど、転向したのか?」

 再びニクスを見ながらシーマが聞いてくる。

「いや、今回はたまたまだな。ツヴァンドに行く用事があって、野宿の訓練も兼ねてニクスに付き合ってる感じだ」

「てことは、ツヴァンドまで行ったらパーティーは解散するわけだ。ふーん」

 今度は俺を見て、何やら考え込むシーマ。はて、何かあるんだろうか。

「なあ、フィスト。うちに入る気はねーか?」

 そんなことを、シーマが言った。おお、と他の4人からも声が漏れる。

「どんな格好させたらいいかね? 確かフィストって素手使いだったっけ?」

「だったらベースは某ローマ拳闘士の漫画あたりから引っ張ってきたら?」

 ルーヴとレダが俺をジロジロ見ながら言うと、

「上半身裸で腰に毛皮巻いて、足元はサンダルか? ガントレットはそのままで」

「頭に、獅子の毛皮、かぶる。完璧」

 ジェイソンとモーヴェがそう締めくくった。お前ら、とりあえず毛皮装備してたら蛮族だなんて思ってないか?

「お、いい感じじゃん。どうよフィスト」

「どうよ、じゃないだろ。蛮族プレイをする気はない」

「蛮族は格好だけで、プレイスタイルは賞金稼ぎだよ。悪党ぶちのめして報酬もらえて、ゲームの中の人とはいえ感謝されるなんていい商売じゃんか。それに……」

 あぐらを崩し、腕を抱えて胸を強調し、こちらへ流し目らしきものを送ってくるシーマ。

「こんないい女と一緒にいられるんだぜ? 色々と、楽しいコトもあるかもよ?」

 どうやら誘っているつもりらしい。勧誘とは別の意味で。

 眉間をもみほぐし、わざとらしく溜息をついた後、肩をすくめて言ってやる。

「ハハッ」

「なっ、何だよその反応はっ!?」

 顔を真っ赤にしてシーマが吼えた。


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