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第131話:再会

 

 ログイン130回目。

 アインファストの街の中を歩く。プレイヤー達の数は、やはり第二陣合流の頃よりも増えているようだ。第二陣のほとんどがアインファストを離れておらず、北にあるダンジョンの攻略に向かっていることに加え、先に進んでいた第一陣のプレイヤー達も戻ってきてるからだろう。しばらくこの混雑は続きそうだ。

 ダンジョンと言えば、ツヴァンドの鉱山の方でも新たに見つかったらしく、そっちに流れているプレイヤー達もいると聞く。一方、アンデッドダンジョンの方は相変わらずの不人気っぷりだそうで、立ち入るプレイヤーはほとんどいなくなったらしい。ほぼ独占状態だとルークが言ってたっけ。あと、そろそろ攻略が完了しそうだとも言っていた。海賊の件も片付いたし、これからが大詰めってところだろうか。

 で、俺の方は、ダンジョンに興味が湧かないのは変わらずで、用事を片付けていた。【料理研】への食材の納入と、クインのアクセサリーの修復だ。それが終わってからは狩りもせず、蜂蜜街で蜂蜜を買ったり、ティオクリ鶏を食べたり、コーネルさんの所で薬草を仕入れたり、食事処を開拓したり。あとは教官殿と飲んだり、猟師さん達と飲んだり、パーチ達と飲んだりと、ほとんどを街の中で過ごした。

 でも、そろそろ動かねばなるまい。ラーサーさんの所に行って【魔力変換:聖】を修得するつもりでいる。うまくいけば、ルーク達とも会えるだろうし。

 そんなわけで転移門に向かっていると、前方に覚えがある後ろ姿を見つけた。

「おーい、ニクス」

 声を掛けてみると、縁に深緑のアクセントが入った白のフード付きマントを纏った人物が立ち止まり、振り返った。目深に被ったフードからわずかに覗く顔が、驚いたように見えた。

 その人物はこちらへと近付いてきながらフードを脱ぐ。その下から現れた顔は、間違いなくニクスのものだ。

「こんにちは、フィストさん、クインさん。お久しぶりです。どうしてアインファストに?」

 俺とクイン、それぞれに言葉を掛けてから聞いてくる。

「色々と用事があってな。そっちは狩りか?」

「はい、これから西の森へ入ろうと思っていたところです。フィストさんは、これからその用事ですか?」

「いや、こっちでの用事は片付いたから、街を出ようとしてたところだ」

「こっちでの、ということは、まだ海賊関連で動き回っているのですか?」

「動画を見たのか?」

 そう聞くと、若干顔を赤らめて、気まずそうに視線を逸らすニクス。あー、そうか。動画を見たってことは俺達がアレしたのも見てるわな……

「特に海賊絡みの用事はないぞ。あの後は、領主の館に招かれて報酬をもらって終わりだ」

 海賊の討伐報酬と、混じっていた賞金首の報奨金。それからテレマン邸の時の鹵獲品も受け取った。俺に関してはそのくらいだ。

「そういえば、あの船はもらえたのですか? ファルーラ王国の法では、盗賊などを討伐した場合、それらの所持品については討伐者が確認した物については所有権を得ることができるようになっていたようですが。掲示板でも話題になっていましたし」

「いや、大型の船とか兵器は、無条件での譲渡の対象外でな」

 2隻の船のうち黒船は、そもそも「海賊ではなかった」ので対象外。ただ、もう1隻は条件付きで引き渡しが認められた。

 その条件とは、船を運用し、海の治安維持に協力すること。エド様的にはプレイヤー達が運用する対海賊戦力を作りたかったようだ。寄り合い所帯だった俺達にそんなことできるわけがない。ただ【アミティリシア漁業協同組合】が船を欲しがっていたようで。条件を呑むことで、ジョニー経由で【漁協】に引き渡されることになった。

 俺、ツキカゲ、ミハエルの3人は、【漁協】から船の売却代金相当の4分の1ずつが分割で支払われることで話がつき、契約書も交わしている。ジョニーは【漁協】所属ということで辞退した形だ。

「ということは、今後、海賊を討伐しても、船はもらえないのですね」

「ドラードの下請けになってもいい、って連中ならどうだろうな。【漁協】なんかは船の数を手っ取り早く増やせるから、今後も船の鹵獲を狙うかもだが」

 あそこは結構な数のプレイヤーが所属してるようだから、もう1隻くらいは運用したいと考えるかもしれない。

「あ、海賊といえば。その後の拠点攻略にはフィストさんは参加していませんでしたね?」

「ああ、まあ。リアルの事情があってだな……」

 海賊共の生き残りに対して、ドラードの官憲による情報提供要請(物理)が行われた結果、拠点の場所が判明した。あと余談であるが、その後で例の船長はきっちりカタに嵌めている。「正直に話せば、お仲間と同じ目には遭わせないでおいてやる」と言ったな? あれは嘘だ。

 ともかく情報を元に王国海軍とドラード海軍合同による拠点襲撃が計画され、そこにいくらかのプレイヤー達が加わって決行されたのだ。

 そしてニクスの言うとおり、襲撃メンバーの中に俺はいなかった。何故なら、海賊拠点への到着予定時間が、休日出勤の予定と重なっていたからだ。エド様は残念がっていたが、俺の都合で延期してもらうわけにもいかなかった。時機を逃してしまっては意味がないのだ。

「その分、知り合いに頑張ってもらったけどな」

 だから戦力の手配だけしておいた。俺から要請を出したのは【シルバーブレード】と【自由戦士団】で、どちらともが快諾してくれた。他に参加したのは、俺以外にあの時の船に乗っていたプレイヤー達全員。それから【伊賀忍軍】と【漁協】となっている。

 この襲撃は成功し、その結果はプレイヤー達の活躍があったことも含めて大々的にGAO内でも報じられていて、イベント動画も公式HPにアップされている。かなり派手にやったんだなぁ、というのが動画を見ての俺の感想だ。

「それについては掲示板で不満も上がっていましたね」

「そう言われても、事情があったからなぁ」

 ニクスが言う不満というのは、拠点襲撃の情報を事前に公開しなかったことだ。曰く「イベントは独占せずに広くプレイヤーを参加させるべき」だったか。随分と勝手な言い草だ。

「掲示板を見たなら知ってるだろうけど、海賊側にプレイヤーがいたんだ。公募なんてできるわけがない」

 拠点襲撃の情報が漏れたら、当然連中は逃げ出したり迎撃の準備を進めたりしただろう。そうさせないためには一切の情報を非公開にするしかない。だから、海賊は1人残らず討ち取ったと広報してもらったし、生き残りの海賊も秘密裏に船から運び出した。情報が漏れていないと思わせるためにだ。そんな中で海賊討伐の人員募集をおおっぴらにする奴がいたらただの馬鹿だ。

 ちなみに海賊に協力していたプレイヤーは、今回の攻撃で「全員が討伐」されている。ログイン禁止期間がどれくらいになるかは知らないが、悪事の加担者はひとまず全滅した。

「理由は理解できます。それでも納得できない人がいるのには驚きましたけど」

「そんな奴もいるさ。でも大抵の奴は、海賊側に荷担してたプレイヤーがいたからだって掲示板で説明されて納得してたろ?」

 それでもうるさかった奴は、掲示板で袋叩きにされてたけどな。まあ、そんな奴のことはどうでもいい。

「ところで、狩りは独りで行くのか?」

「はい。少し前まではライガさんとウルムさんの3人で狩りに行くこともあったのですが、お二人はアインファストを離れてツヴァンドへ向かいましたので」

「ニクスも一緒に行けばよかったんじゃないか? アインファストもツヴァンドも、街の周辺に出没する獣は大差ないのに」

「誘ってはいただいたのですが……お邪魔になりそうで……」

 と、目を泳がせるニクス。この様子だと、あの夫婦は結構仲良くやっているのだろう。

 あ、そうだ。

「もしそっちが構わないなら、今日の狩りに付き合っていいか?」

 あれから1ヶ月くらい経つし、ニクスがどれだけやれるようになったかは気になるところだ。戦闘についても、解体についても。

「え? でも、フィストさんも用事があるのでは?」

「ああ、用事と言っても、誰かに頼まれたものじゃなくて、あくまで私用なんだよ」

「それでは、お願いします」

 特に悩む様子も見せず、ニクスは俺の提案を受け入れた。




 西の森へと向かう。こっちの方面で見かけるプレイヤーの数は、思ったよりも少ない。やはりダンジョンの方が魅力なんだろう。探し回らなくても敵は湧いてくるし、宝箱なんかも出るらしいしで、外で狩りをするよりはメリットが多いのだ。

 それなのに、ニクスはいまだにダンジョンには潜ってないようだった。

「ソロでもある程度は進めるらしいのですが、暗いのがネックなので」

「ああ、それか」

 普通のゲームのダンジョンは、ご丁寧に照明が用意されている御都合仕様がほとんどだが、GAOのダンジョンには基本的にそれがないのだ。プレイヤー達は明かりを用意しないと進めないようになっている。

 で、明かりを確保するとなると、魔術師系でない限りは、光源となるランタンや松明を手に持たないといけないので、色々と不便なのだ。ニクスの場合、剣と盾を使うので、片手が照明で塞がるとそれだけでとっさの時に不利になる。

「ライガさん達と一緒に、とかは考えなかったのか?」

「私達は【解体】スキルがあったので、普通の狩りでも実入りが良かったですし、それ以上に、プレイヤー達が一気にダンジョンに集まった影響なのか、獣の動きが活発になっているようで。農家の方々も困っていると聞いて」

「ああ、その話は狩人さん達と飲んでる時にも聞いたな」

 動物を狩る人が減ったから、その分多く出没するようになったとか何とか。獲物が増えた分、実入りも増えたらしいが、アインファスト周辺の村とか、農作物の被害なんかも増えてきたらしく、野菜が値上がりしたりしているのだ。モーラも愚痴ってたっけ。

「だから、村の近くを中心に狩りをしていました。狩猟ギルドも持ち込みの数が減ったので、買い取り価格が上がっていましたし。それに、村の人達からお礼をもらえたり、色々とお話も聞けたりして」

「それはいい経験をしたな」

 正直、ダンジョンに潜るよりも有意義なんじゃないかと思う。

「不思議ですよね。住人(NPC)の表情も感情も豊かなので、ゲームであるはずなのに、お礼を言われると嬉しくなるんです」

 微笑むニクスを見て、すっかりGAOに染まったなぁなどと考える。本人が楽しんでいるなら、それはいいことなんだろう。

「あの、フィストさん。海賊の件は、全部終わったのですか?」

 しばらく無言で歩いていると、ニクスがそう切り出してきた。

「どうした急に? 海賊討伐に興味があるのか?」

「いえ、ブルインゼル島という温泉が湧く島があるらしいので、いずれは行ってみたいのですが、航路の安全はどうなのか、と」

「ああ、そっちか。とりあえず、あの拠点に関しては片付いたから、ドラードからブルインゼル島の航路の安全は確保されてると考えていいと思うぞ」

「あの拠点、ということは、他にもあるのですか? 海賊って、そんなに大きな勢力になるものなのでしょうか?」

「んー。俺も詳しくないけど、昔のカリブの海賊が、千人単位を率いて都市を焼き討ちしたとかいう話もあるらしいからな。そう考えれば、今回の規模もおかしなものじゃないんだが……あいつらは別の事情もあってな」

 どうするかな。まあ、ニクスは口が堅そうだし、教えてもいいか。

「実のところ、あいつらは海賊じゃないんだよ」

「え? あの、でも……」

「あいつらは結構ややこしい集団でな。1つは根っからの海賊、もう1つが神聖ベルクフェルト帝国の軍艦だ」

 つまり、他国の軍がファルーラ王国内の海賊に金を掴ませて、通商破壊をしていたということだ。ちなみに、あいつらに『補給物資』を提供していたのがあのテレマンだったりする。

「この国が他国と戦争をしているという噂は聞いたことがないのですが」

「今のところ、帝国からの表立った干渉の事実はないことになってるんだ。今回の件も、あくまで海賊を討伐しただけってことになる」

「普通、そういうのは正式に抗議するのでは?」

 ニクスの言うことはもっともだ。遺憾の意を表明するってやつだな。ただ、それは時間と人的資源の無駄遣いになるだろう。

「神聖ベルクフェルト帝国は、何十年か前に簒奪によって建国された国でな。建国の宣言と同時にまずやったことは、新しい国教以外の宗教の粛清だ。元々が、神殿の多い土地柄だったから、かなりの数の神官達が処刑されたそうだ。改宗しない住民達は奴隷落ち。当時は各国及び各地の神殿が抗議したらしいが、帰ってきた使者は皆無だったとか。どの国も当時は色々あって戦争する余裕はなく、帝国も他国への侵略はしなかったんで、そのままズルズルと放置されてたところ、最近になってちょっかい掛けてきたらしい」

 皇帝が神の子を名乗っていて、しかも新たな国教が絶対神を崇める一神教で、他の神々を邪神と断じているという、ツッコミどころが多すぎるアレな国だ。エド様からこれを聞いた時、運営はもうちょっとマシな設定にできなかったんだろうかと思ったのは秘密だ。

「戦争に、なるのでしょうか?」

「ファルーラ王国としては、狂信者共との戦争なんてやりたくないだろうな。侵攻に備えてはいるみたいだけど」

 戦争になれば多くのプレイヤーは「イベントキター!」と言って参加するだろう。俺としてはイベントそのものはどうでもいい。ただ、帝国が勝ってしまうと、ファルーラ王国は間違いなく荒らされるだろう。それは嫌だ。

「まあ、なった時に考えるさ。あ、それからこの話は他言無用でな」

「何故です? そういった危険な国がGAO内にあるのなら、周知をした方がよいのでは?」

「海賊に荷担してたプレイヤーがいたんだ。今のところ、他国に渡ったプレイヤーの話は聞かないが、もしも帝国がプレイヤーを受け入れたら、どうなると思う?」

 過激な宗教国家が、信者でもないプレイヤーを都合のいい戦力と認識したら、どう使ってくるか。海賊の時以上の面倒が起こるのは間違いない。だからこの件は、事情を知るプレイヤー達にも王国側から箝口令が敷かれている。

「海の方は一段落ついたんだ。向こうもそう簡単に派手な行動は取れないはずだし、しばらくは問題ないだろうさ。そんなことより、そろそろ森だぞ」

 そんな関わりたくない未来の話は置いといて、今の話をしよう。

「先導とか全部、ニクスに任せていいか?」

「はい、大丈夫です。あと今回は、できれば駆除したい獲物がいるんです」

「駆除、って厄介な獣か?」

「最近、どこかから迷い込んだ猿がいて、村の畑を荒らしたり、狩りの邪魔をしたりすると聞いたので。普通に狩りをしつつ、それを探そうと思います」

 頼まれたわけでもないのに人助けか。いい子だなぁ。

「……何でしょう?」

「いや、別に」

 俺の視線に気付いたニクスにそう言ってやると、

「べ、別に……私もここで狩りをするのですから、その邪魔をされると困りますし、ついでですっ」

 頬を朱に染めた後で言い訳めいたことを呟き、顔を逸らした。

 

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