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第107話:GAOを創った男2

 

『プレイヤーといえば、運営的に注目しているプレイヤーなどはいたりするんですか?』

『どういう意味で注目しているのか、という話にもなりますが、いますよ。GMサイドでよく名前が挙がるプレイヤーもいますし。イベント動画で取り上げられているプレイヤー達は当然として、それ以外にも色々と注目するポイントがありましてね。例えば今、プレイヤーと行動を共にしている幻獣が現在14体いるんですが、そのパートナーとなっているプレイヤー達であるとか』

 社長、今サラッと言ったけど、幻獣を連れてるプレイヤーってそんなにいるのか? あと8人か。いずれ会う機会があるだろうか。

『スキル方面ですと、グロにも怯まず【解体】スキルを修得しているプレイヤー達とか。最近、一気に増えましたね。物好きなことです』

 反射的に『お前が言うな』と書き込んでやった。『社長も持ってるでしょうがw』なんてコメントも出る。

『ですが【解体】は必ず修得者の期待に応えてくれるでしょう。ちなみに私はGAO内の食材だとシルバーボアのロースが好きです。香草焼きにすると美味いんですよね、あれ』

 シルバーボアだと? 確かセザールが過去に狩ったって言ってた銀の毛皮を持つイノシシだったな。開発者がそう言えるくらい美味いのか。そうか、ふふふ……『いつか食うリスト』に記しておこう。

『料理で思い出しましたが、味噌と醤油をGAO内で作り上げた【料理研】には色々と期待しています。独自に発酵用の菌を探し出した執念は素晴らしい。というか、味噌と醤油、売ってください。当然、いちプレイヤーとして順番は守りますから』

 とカメラ目線で手を合わせて言う社長。今頃モーラ達は悲鳴を上げてるだろうかね。味噌と醤油の存在を知らなかったらしいプレイヤー達のコメントも流れてるけど、知ってる人の方が圧倒的だな。

『そうそう。実は海エルフと交流があるプレイヤーが1人いましてね。その関係で海エルフが色々と面白いことになりそうなんですよ』

 あ、エルフスキーらしいのがコメントで発狂しだした。いや、今回俺は無関係だから俺を呪うのは止めろ。何だエルフ独占禁止法違反って。

 でも既に交流してるプレイヤーがいるのか。しかも海エルフに何らかの影響を与えているようだ。何かすごく気になるぞ。

『他にもゴブリンやコボルド達と大規模に交流してるプレイヤー達もいます。いやいや、まさかあんなことになるなんて。これも今後を見守っていきたいですね』

 そして他の亜人達と交流してるプレイヤーもいる、と。ゴブリンの目撃情報はあったし、会ったってプレイヤーも知ってるけど、コボルドは初耳だな。

『それから、ランジェリーに力を入れているプレイヤー達が面白いですね』

『ランジェリーって、下着ですか?』

『ええ。GAOの下着って色気のないシンプルなものがほとんどですけど、プレイヤーメイドがじわじわ広まっていましてね。こうしてGAO内に持ち込まれた現実の文化が広まっていくのは興味深いし面白いです』

 そういやスティッチも色々作ってたっけ。ただの白い布きれが進化していってるんだな。誰かが着てるのを俺が見ることは今後もないだろうけど。

 現実のものをGAO内で、ということになると料理なんかもそうなんだろうな。割と似通った部分もあるけどさ。でも日本食となるとやはり味噌と醤油のより一層の普及が必要だろう。頑張れ【料理研】。

『他にも隠れた注目株はたくさんいますが、挙げていくとキリがないですね』

 しかし本当に隠れた注目株、なんだろうな。幻獣関連でも俺とゴードン、ミシェイルの名前がちょろっと出たくらいで、他のプレイヤーの名前が誰からも出てこない。下着関連は服飾系ギルドの名前やメンバーの名前くらいは出るかと思ったのに。偶然、それを知ってるプレイヤーがこれを見ていないだけなのかもしれないが。

『なるほど。ではプレイヤー間でも知名度が高いプレイヤーやギルドはどうですか?』

『そうですね……』

 社長がウィンドウを開いて何やらスクロールさせている。こちらからは何も見えないが、リストか何かだろうか。

『プレイヤー間の知名度トップ、ということになると、やはり【シルバーブレード】ですかね』

 おお、やっぱり出たかルーク達。コメントもそれを当然と思ってるのがほとんどだ。嫉妬混じりのアレな発言もいくつかあるけど。

『イベント関連でも功績を残していますし、個人のスキル研鑽もかなりのものですが、何より、彼らを好意的に見る住人の数が素晴らしい』

 運営側からなら、プレイヤー個別に対する好感度もチェックできるんだろう。社長がこう言うってことは相当なんだろうな。さすがルーク達だ。

『そうそう、【シルバーブレード】と言えば面白いエピソードがありましてね。つい先日、ログインした時に見かけたのですが、住人の子供達が銀剣ごっこをやっていたんですよ』

 ……そりゃあ、また。画面に草が生えていく。『俺もアインファストで見かけたぞw』『さすが勇者ご一行www』『ねえ銀剣、今どんな気持ちなの?www』『防衛戦のインパクトが強いから』『吟遊詩人が題材にして歌ったりしてるしなぁw』等とコメント多数。ルーク達、これ見てるだろうかね? どんな顔をしているのやら。

『料理関係ではさっき挙げた【料理研】がありますし、【魔導研】の馬型ゴーレムももうじき完成しそうだって話なので是非見てみたいですね』

 あ、そういやシザーが【魔導研】に協力してるんだったっけ。外装、もうできたんだろうか。

『ロールプレイ系のギルドもいいですね。GAO内でも知名度が上がっている傭兵ギルド【自由戦士団】以外にも、忍者系のギルド複数。特に【第六天魔軍】は安土城をGAO内に建てよう、って頑張っています。運営からの援助は1ペディアもできませんが、是非とも完成させてほしいところです』

 【第六天魔軍】って確か戦国系プレイヤー集団だったよな。ゲーム世界で安土城建設とか……ロマン溢れる壮大な計画だ。『寄付は常時募集中ー!』なんてコメントが流れた。俺も頑張って自分の土地と家をゲットせねば。いや、その前に候補地を探さないと始まらないんだけどさ。

『【シルバーブレード】は例外として、プレイヤー間で特に話題になっているギルドが出てくると思ったんですが、そういうわけではないようですね?』

 と記者が首を傾げながら聞く。そういやそうだな。ルーク達は別にして、今挙げられたギルドより大規模だったり有名だったりするギルドは他にもたくさんある。あと、悪い意味で有名な連中も挙がってないな。

『ええ、今挙げたのは、プレイヤー間で知名度が高い中で、こちらが注目しているギルド、ですから。単に規模でどうこう、というわけではないですよ。規模が小さく、知名度が低くても注目しているギルドもありますし。それに、悪い意味で注目している連中を晒すのは自重してます』

 と意味ありげに社長は笑う。でもそれ、素行の悪い連中はチェック入れてますって牽制してるようにしか見えないです。

『それに、私達が注目したところで、彼らには何の恩恵もありませんし。優遇や贔屓をするわけではありませんし、そうする理由もないですから。ただ言いたいのは、皆さんには今までどおりにGAOを楽しんでもらえれば、ということですね』

 

 

 その後は個人プレイヤーの名前がいくつか挙がって、質問コーナーが展開された。GAOの仕様変更要望や、システム的な疑問点等々、コメントから拾い上げたり事前に募集していた質問を取り上げたりと結構な盛り上がりを見せた。

『では、GAOの今後の展開で、今話せることはありますか?』

『そうですね……第三陣については既に予定アカウントが埋まっていますし、第二陣と同じくらいの期間を経て参入、ということになりますかね。第四陣くらいまでが片付いたら、それからは一気にプレイヤーが増えることはないと思います』

 そういやまだ参入できてないプレイヤーがいるんだな。確かにGAOは他のVRMMO系に比べてプレイヤー数は少ないけども。

『大型アップデートは第三陣に合わせてですかね。今のところ確定しているのは、季節の実装です』

 ぬ、ついに来るのか季節の実装。

『実装されたら大変ですよ? 夏は暑いでしょうし冬は寒い。当然、それ相応の準備が必要になってくるでしょう。食べ物が傷みやすくなったりもしますしね』

 熱中症だとか、寒くて野営中に凍死だとかやりかねんからなぁ。服も季節に合わせなきゃならんだろうし。夏場なんて金属鎧を着てる連中は地獄だろうな。

『そして、野の獣や植生の変化も起こるようになります。季節によって違う花が咲き、野菜や果物、魚には旬が訪れる。動物の行動にも変化が出てくるでしょう』

 待て! それは聞き捨てならない! つまり、今ある野菜や果物が、いつも手に入るとは限らなくなるってことだろう!? やばい、今の内に食材を蓄えておいた方がいいかもしれん。薬草関係もだ。しばらく採取に専念するべきだろうか。いや、でも次のアップデートはまた3ヶ月くらい先か。少しずつ準備していけば大丈夫、かな。

『それから、これはGAOと直接関係はないのですが』

 社長の言葉と共に、1つの画面が浮かび上がった。『GAOS』とある。GAOのロゴと似てるな。

『GAOのシンプルエディション。つまり、今のGAOの簡易版を発売します。自由度等は今のGAOより数段落ちますが、それでも従来のVRMMOの半歩先を行ったクオリティと面白さをお約束できる出来にはなりました。3日後からオープンβテスト開始となります』

「はぁ……っ?」

 思わず間抜けな声を漏らしてしまった。何だそれ!?

『あの、そんなゲームを作る意味があるんでしょうか? ただでさえGAOというハイクオリティな作品を世に出しているのに、わざわざそれに劣る物を出す意味ってあるんですか?』

『リアリティが売りではあるんですが、リアルすぎて駄目だった客層もいるのは確かなんですよ。それに一応【カウヴァン】はゲーム会社ですからね。多くの人が楽しめるものも作らなきゃいけません。その点ではシンプルエディションは楽でいいです。GAOの既存の仕様を凍結するだけで骨組みができますから。あとは肉付けをどうするか、ですね』

 あははと社長が笑う。いや、それってどうなのよ、ゲーム会社として。

『ハイクオリティは我が社の売りの1つですから、そっちの質は落とさずに、よりゲームらしいシステムにしたGAOを。それがシンプルエディションです。そうそう、現プレイヤーの皆さんには、今のデータをGAOSにコピーしてβを遊べるようにしてありますので、プレイして違いを確認するのもいいかもしれませんね』

 そっちは人数制限無しでβテストできるのか? でも、なぁ。現状よりもゲーム的になる、って俺には何のメリットもないんだよな。今の仕様で満足してるし、試してみる気にもならない。

『でも、GAOとGAOSでプレイヤーの食い合いになると会社的にどうなんです?』

『今までどおり、異世界アミティリシアで冒険したい異邦人はGAOを、ゲームを遊びたいプレイヤーはGAOSに移行をするだけでしょうね。会社的にはGAOSは課金要素も多く取り入れますので、そっちで遊んでもらえる方が懐的にはいいですけどね』

 ぶっちゃけたな、社長。でも今まで他のMMOで遊んでたプレイヤーなんかは、GAOの仕様に馴染めないって声も多かったし。それなりに流れていくんじゃないだろうか。

『それにGAOSの製品版を購入してくれたプレイヤーにはGAOの方を体験できる期間限定ログインサービスなんかもしていこうと思ってますので。まあ、好きな方を楽しんでくださいということで。GAOSでもしっかりプレイヤーを獲得していきますよ。私個人としては、今の異邦人達には変わらずGAOを楽しんでほしいですけどね』

 企業である以上、儲けがないと成り立たない。そういう意味ではGAOって商売が成り立たないゲームだと思うんだが、それは【ソキウス】が色々と絡んでいるからなんだろう。それでGAOが変わらず続くなら何の問題もないけど。

『それから他のVR系ゲームも開発中です。こちらはまだ詳細は明かせませんが、いずれお披露目できるかと思います。GAOSの情報は、今後も逐次提供していきますよ。勿論、GAOもです』

 ふむ……ゲーム会社として新作を作っていくのは何もおかしくはないけども。GAOに関しては明らかにおかしい運営展開だと思うんだけどな。だったら最初からGAOS仕様で作っておけばいいんだ。それでさえ現行の他社VRMMOよりハイクオリティだって言うなら尚更だ。GAOSが味覚関係も実装してるなら、そっちでも俺は買っただろう。絶対これ、ゲーム開発以外の意図とか目論見があるよな。

「ま、考えても始まらないか」

 俺は一介のプレイヤーで、ゲーム会社の運営に意見できるわけでなし。裏事情を知ったところで何ができるわけでもない。俺はGAOを楽しめればそれでいい。

 切れた酒を注文して、俺はまだ続くインタビューへと意識を戻した。

 

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