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第104話:潮干狩1

2015/8/16 誤字訂正

 

 ダンジョン発見の報でプレイヤー達は盛り上がっている。領主の確認作業も終わったようで、ダンジョン探索が解禁され、ドラードからヌルーゼに展開していたプレイヤー達すら、アインファストへ引き返し始めている。アインファストのダンジョンスレも立ち上がり、大賑わいだ。

 ちなみにツヴァンドのダンジョンは、予想どおりというか何というか。ダンジョンまで行ったプレイヤーはそこそこいたようだが、そのほとんどが途中でギブアップしたそうだ。やはり悪臭とビジュアルが鬼門なんだろう。こっちのダンジョンスレも大賑わいだ。炎上的な意味で。

 

 そういやニクスからメールが来ていた。ローゼと相談して【解体】の修得を決めたそうだ。時々、ライガさん達と一緒に狩りをしたりしてるらしい。ダンジョンの方には今のところ手を出すつもりはないとのことだ。しっかりやっていけてるようなので何より。

 あとローゼからもメールが来ていた。『ニクスに変なコトしたら殺すぞ』と書いてあったので、『変なコトというのが何なのか、具体的かつ詳細に説明してもらえないと分かりませんねぇ』と返しておいた。返信できるものならしてみるがいいさHAHAHA。

 当然、変なコトなんてする気は全くないけどな。

 

 ログイン104回目。

 さて。先日からしばらく森で狩りをしたので、再びの海である。ただし、今回は釣りではない。海に潜ることも考えたが、それは今度だ。

 俺の手には持ち手の付いた木桶。そしてドラードの鍛冶屋に作ってもらった熊手がある。俺の目の前には、露わになった砂地が広がっていた。そう、今日は潮干狩だ。貝を掘って食う。今日はそうしろと俺の中で何かが囁いたのだ。決して昨晩の飲み会で食べたアサリの酒蒸しが美味かったからではない。

 さて、砂地だ。所々に潮溜まりがあったり、平たい岩が露出していたりする。特に歩きにくいとかはないな。

「おっと」

 足を止める。行く先に生き物がいた。砂とほとんど同化している。エイだ。リアルのアカエイに酷似している。【魚介知識】でもアカエイと出た。リアルのそれと違うのは尾で、先端が鏃のようになっている。真っ直ぐ長いのではなく、まるで悪魔の尻尾だ。毒があるのは一緒だな。

 潮干狩の予定だったので今は服だけで装備は一切身に着けていない。ストレージから手裏剣を取り出して投擲すると、一発で片付いた。

「刺身とか色々食い方はあるらしいけど、GAOだとどうやって食うんだろうな。尾の先はそのまま鏃に使えそうだけど」

 狩猟ギルドに持ち込んで聞けばいいか。アカエイをストレージに収納し、更に沖の方へと進む。時々、潮の引きに乗り遅れた魚がぴちぴち跳ねていて、それを海鳥がついばんだりしてるのが見える。

「この辺でいいか」

 立ち止まり、しゃがんで手にした熊手を砂に入れ、引っ掻く。何度か掻いていると砂の中から貝が出てきた。大きさは10センチ超えてるな。かなり大きい。【魚介知識】で確認するとハマグリと出た。そういやハマグリの語源って、形が栗に似てるからって説があったな。GAOのハマグリは形もそうだが、色が栗のように二層になっている。そのままの色ではないけど。

「クインも掘ってみるか?」

 相棒に聞くと、こちらを見て頷いた。クインは狼系だが爪は長めで鋭い。その爪なら容易に掘ることができるだろう。

「こいつと同じ形の貝を集めるんだ」

 そう言うと、クインもその立派な爪で砂を掻き始めた。おお、さすが犬系。砂を掘るのは得意か。

 こちらも負けていられない。少しずつ移動しながら貝を掘る。アサリも獲れるかと思ったけど、ハマグリだけだな。小さすぎるのはそのまま沖の方へと放り投げ、一定以上の大きさのものだけ獲る。

「お?」

 しばらく掘っていると別の貝が出てきた。見た目は木の葉のような形状で、これも10センチを超える大きさだ。名前はリーフシェル、か。貝柱が美味い、と【魚介知識】に出てるな。ホタテみたいなものだろうか。これは楽しみになってきたな。

「クイン! とりあえず、ハマグリだけじゃなくて、出てきた貝は小さすぎるの以外は全部集めておいてくれ!」

 離れた場所にいるクインに声を掛けておく。ハマグリを集めてくれって言ってたから、他の貝は無視してる可能性もあるからな。

 よし、どんどん行こうか!

 

 

 

 さて、結構な収穫があったな。

 まずはハマグリ。それからリーフシェル。それ以外の貝は獲れなかった。あとは貝じゃないがアカエイも追加で2尾。40センチくらいのカレイも1尾ゲット。リアルじゃ左ヒラメ右カレイって言うように目が右に寄ってるのがカレイなんだが、GAOのカレイは左寄りだった。

 さて、せっかく獲れたての貝なんだ。新鮮な内にいただきたい。ストレージに入れておけば鮮度は保てるけど、獲ったのをすぐに食べるというのは何とも気分がいいものだ。

 調理設備がない屋外なので、食べる方法は限られるけど、やっぱり浜焼きだよな。カレイは刺身にしてみよう。アカエイは不安が残るのでまたの機会だ。

 で、ハマグリとリーフシェルだが……やっぱり砂抜きが必要だよな。塩水に浸して放置ってのが普通のやり方だろうけど、それだと時間が掛かる。お湯を使うと手軽にできるらしいので、そっちでやってみるか。

 かまどを組み上げ、まずは湯を沸かす。その間にカレイの刺身、いってみようか。といっても、カレイを捌くのなんて初めてなんだが。

 まず洗ってぬめりを取って、鱗を落とす。

 問題はワタ抜きだ。普通の魚なら腹をバッサリいくんだが……これ、どこから包丁入れたらいいんだ? とりあえずひれを落としてみるが、その先どうしたものか。と思っていたら、何となく胸びれの辺りに包丁を入れたらいい気がしてきた。そういやこれ、【解体】を修得した時にもあった感覚だ。スキルのアシストだろうなきっと。

 胸びれの辺りをバッサリとやって頭を落とすと、切ったところからワタを掻き出せた。そこから背骨に沿って包丁を入れ、身を左右に切り離していく。普通なら3枚におろすが、半身で2枚になった。ひっくり返して同じようにおろし、計5枚にする。

 それから4枚の身から皮を剥いでひとまず作業完了。あとは食べる直前に適当なサイズに切ろう。骨はどうするかな。唐揚げにしたらいいつまみになりそうだから確保しとくか。

 

 お湯が沸いたので、砂抜きに移る。砂抜きに使う湯の温度は50度くらいがいいらしい。が、温度計なんて便利なものはないので適当だ。沸いたばかりの湯を桶に移し、水を少しずつ加えて温度を下げていく。このくらいか、と思えたところでハマグリとリーフシェルを入れて、擦り合わせるようにして洗う。それを目の粗いザルに重ならないように入れ、別の桶に用意した湯に浸す。見ているとハマグリが管を出し始めた。リーフシェルは口をパクパクさせてるというか、ひだみたいなのがユラユラ揺れている。ホタテで言うひもの部分だろうか。というかお湯での砂抜きって、どういう理屈なんだろうか。息苦しいから呼吸回数が増えるとかそういう感じなのかね?

 10分くらい放置してからザルをお湯から上げる。ちゃんと生きてるな。砂抜きが上手くいったかどうかは焼いてみてからだ。そういえばこれ、このまま焼いたらいいんだろうか。それとも冷ました方がいいのか? 冷やした方が身が引き締まるような気がするし、もう一度海水に入れてやるか。ほーら水風呂だぞー。

 

 下準備が済んだので焼きに入る。かまどに金網を載せ、その上にハマグリとリーフシェルを置く。うむ、どんな味になるのやら。

 焼いている間にさっきのカレイを刺身サイズに切っていく。そういや刺身醤油はないんだよな。【料理研】の醤油醸造が軌道に乗ったら、そっちも頼んでみようか。

 普通の醤油に摺り下ろした山葵を添えてこっちは完成。ではでは、いただきますか。

「……む?」

 白身特有の甘さはいいとして、何か食感が。普通の刺身と妙にコリコリする部分が……ってしまった。えんがわを別にせず、そのままスライスしたんだ。でもこれはこれで楽しいかもしれない。

 クインには、切り身のままでカレイを渡した。うん、普通に食べてるな。苦手な部類じゃなさそうだ。

 が、クインの視線はハマグリとリーフシェルの方へと向いている。なかなかいい匂いが漂い始めたので仕方ないか。うーん、食欲をそそるね。

 いい音を立てていたハマグリの殻が、パカッと開いた。揺れて中から汁が溢れ、ジュワッと音を立てる。うっひょーたまんねぇ! こらこらクインさん、ちゃんと渡すからもう少しの辛抱だ。

 汁をこぼさないように1つを手に取る。あちち、でもいい匂いだ。火は十分通ってるな。まずは汁をいただいて、と。

「うわ、美味ぇ」

 旨味が口に広がった途端にそう漏らしていた。それぐらいのインパクトがあった。濃厚な海の味というか。こりゃたまらん。

 他のハマグリの汁をクイン用の木皿に移してやる。貝のままだとこぼしてしまいそうだしな。クインはそれを美味そうに舐める。

 さて、次は身だな。上の殻についた身を剥がす。ハマグリがでかかったから、当然身もでかい。一口で食うには厳しいか? でも食う。一口で!

 程よい弾力、そして噛む程に滲み出る旨味がすごい! 味もそうだが、食ってる、って感じがするのがいいな! 砂も上手く抜けていたようで、不快な舌触りもない。

「はぁ……」

 口に残った最後を呑み込むと何とも幸せな気分になった。美味い。やっぱり美味いは正義だな。

 おっといけない、俺だけが食べるわけにはいかん。ハマグリを取り上げ、身を剥がしてクインの皿に載せてやる。うむ、美味いかクイン。尻尾が揺れてるから大丈夫だな。

「さて、お次は、と」

 リーフシェルの方を見ると、こちらも殻が開いていた。中身は……うん、確かに大きな貝柱がある。細身のホタテ、って感じか。しかしホタテっぽいとなると、アレが必要かもしれん。

 とりあえずはそのまま取り上げて食べてみるか。

 うん、さっきのハマグリ程じゃないがしっかり旨味はある。それに貝柱の食感が、またいい。味もホタテにそっくりだな。なら、やっぱりアレを使おう。

 残ったリーフシェルをクインにやって、【空間収納】からバターとバルミア果汁を取り出した。それからナイフでリーフシェルの口をこじ開ける。一旦身を剥がし、蝶番に近いところにある黒い部分、多分ウロであろう箇所を取り除いて、金網に置いたリーフシェルの殻に載せて焼く。

 焼けてきたら切ったバターを身の上に置き、更に身を囲うようにバルミア果汁を垂らすと、溶けたバターとバルミアの香りが食欲を掻き立てた。焼けろ。早く焼けろ!

 焼けたリーフシェルを即座に口へ放り込む。うむ、美味い! バターの風味と実に合う!バルミア果汁の香ばしさもまたいい! アクセントに胡椒を振るのもいいかもしれないな!

 クインにもやったが、やはりそのままの方が好みらしかった。なのでクインのは焼くだけ。俺の方はバターバルミア仕立てでいただく。おっと、ハマグリも焼かないとな。

 

 

 結局、収穫した貝は半分程たいらげた。残りはじっくり砂抜きをして、他の料理とか試してみよう。それともグンヒルトに卸してみようか。彼女なら美味い料理に変えてくれる気がするし。

「さて、片付けたら一旦ドラードに戻ろうか」

 そうクインに声を掛けると、彼女は沖の方を見て身構えていた。

 はて、何かあるんだろうか? 見渡す限りの砂地と、所々にのぞく岩しか見えないが……ん? あんな場所に岩あったっけ? いや、明らかにこっちに近付いてくる。それも真っ直ぐに。よくよく見ると岩の両端で何かが忙しなく動いている。手前部分も何か持ち上がっててまるで腕のような――

 【魚介知識】で確認してみる。ロックシェルフクラブと出た。甲羅だけで幅2メートルはあるな。表面は海藻とかが付着していて普通の岩にしか見えない。あれで岩場に擬態して獲物を待ち受けるんだろう。

 だが、1つだけ言いたい。

「カニなら横に歩けよっ!」

 

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