表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/227

第96話:ドラード防衛戦4

 

 大型魔族の腹から出てきたのは魔族、なんだろう。大きさは今まで見てきた通常型と変わらない。ただ、明らかに違う点がある。何というか、溶けてると言えばいいのか。形が微妙に定まっていないのだ。粘着性のある液体が魔族の姿を取ったらあんな感じになるだろうか。

 しかしこれは、大型魔族が通常型を『産んだ』のか? むしろ魔族の腹の向こう側から『現れた』ように見える。

 そんな事を考えている間にも、魔族は次から次へと出てくる。そして、こちらへと向かって来た。ベチャベチャと足音を鳴らしながら、いつもとは程遠い速度で。何かゾンビを彷彿とさせるな。

「フィストさん、どうしましょうか?」

 詠唱自体は終わったのか、杖の先端に魔力の光を待機させたままでカーラが聞いてくる。

「予定変更。まずは出てきた魔族を潰す」

 言うと同時、カーラが魔術を放った。魔力の槍が一直線に飛び、先頭の魔族の腹を貫く。命中した箇所が弾け、そのまま魔族は倒れた。

「いつもの硬さが嘘みたいだな」

 俺は【魔力撃】を込めた石を投擲する。同様に【魔力撃】を込めたグンヒルトの手斧とシェーナの矢も飛び、それぞれの獲物に命中した。石が直撃した頭部は落とした卵のように弾け飛び、斧は首を刈り取り、矢は頭の一部を吹き飛ばす。

「ゴードン、ミシェイル、迎撃準備。こっちはもうしばらく数を減らす。カーラ、エネルギージャベリンじゃなくてエネルギーボルトでも多分事足りるはずだ」

 ゴードン達が盾を構えて前に出る。あ、ミシェイルも盾持ってたんだな。

 再度遠距離からの攻撃を仕掛ける。今度は【魔力撃】抜きでやってみたが、それでも一撃で頭部を割って倒せた。やっぱり脆いな。まるで羽化したばかりの昆虫みたいだ。ん、ということは。

「射撃は一旦中止!」

 確かめてみるか。攻撃中止を指示して、魔族が近付いてくるのを待つ。観察してみると、こちらに近付くにつれて速度が上がってる。身体の不安定さもだんだんとマシになっていってるようだ。

 さっきと同じ力加減で、より近付いた魔族に石を投げる。倒すという結果は変わらなかったが、見た目のダメージはさっきよりも小さくなっていた。

「多分こいつら、出てきたばかりだと万全の状態じゃないんだな。時間が経つと強度が増してる」

「チューブから押し出したボンドみたいなもんか?」

 身構えたままでゴードンがそう言った。乾いたら固くなるから、だいたい合ってる気がするな。どのくらいで完成するのかは分からないが、待ってやることもない。

「柔らかい内に叩くのが楽だな。ゴードン、ミシェイル。前に出るか?」

 魔族の数は多くない。頷くとゴードンが左に、ミシェイルが右へ回り込むように迎撃に出た。

 俺も投擲を止めて前に出ることにした。グンヒルトも続く。

 俺の拳が、グンヒルトの斧が、ミシェイルの剣が、ゴードンのメイスが、シェーナの矢が、カーラの魔術が、一撃で魔族を屠っていく。地上での厄介さが嘘みたいに魔族が沈む。数が少ないことも理由だろうが、不完全な魔族はここまで弱いのか。

 気付くと魔族の出現は止まっていて、出てきた魔族は全滅していた。残るは大型魔族のみ。しかしここまで順調だとかなり余裕ができたな。

 広場の真ん中あたりまで進んだところで一旦停止する。

「どうする? 即殲滅の予定だったが、女王についてはちょっと調べたいことができたんだが」

 と皆に聞いてみた。

「ロードスくんの防御があとどのくらい保つのかにもよると思います」

 と挙手して言ったのはカーラ。確かに今、こうして普通に動けてるのはロードスの防御のお陰だ。俺自身はステータス的に多分大丈夫だと思うが、これが切れた時、皆がどれだけ動けるかは分からない。

「ロードス、あとどのくらい保ちそうだ?」

 と聞いてみると、何やら悩ましげに首を傾げるロードス。うーむ、聞き方がまずかったかな。

「ロードスくん、この状態、あと30分は維持できる?」

 続くカーラの問いには首を横に振った。

「じゃあ、25分。20分。だそうです」

 時間を小刻みに問い、ロードスが首を縦に振ったところでカーラが皆に視線を巡らせる。20分か。地上に戻る時間を考えると、余裕は10分くらいだろうか。だったら、一番気になる点だけ確認してしまうか。

「シェーナ、あいつの腹に一矢、射てくれるか? 【魔力撃】とかはなしだ」

「分かった」

 シェーナが矢を番え、放つ。矢は開いたままの魔族の腹に命中し、小さな波紋を作ってそのまま消えた。大型魔族に変化はない。

「あれ、貫通したんですか?」

「んー、そんな感じじゃないような……」

 ミシェイルの疑問に、シェーナも困惑した顔を魔族に向けている。身体に埋もれたというよりは、消えていったように見えたな。

「カーラ、次はエネルギーボルトを頼む。届くか?」

「ええ、消費魔力を増やせば大丈夫です」

 答えてカーラが【エネルギーボルト】を放つ。結果は変わらなかった。光弾はそのまま、先程の矢と同じように消えてしまう。だったら次だ。

「射撃系の広範囲魔術を頼む。ファイアボールでいい。狙いは腹のままで、デカブツの2メートル奥に着弾するような感じで」

「え、えっと……やってみます」

 俺の注文に戸惑いつつも、カーラが再び呪文を唱える。生じた火球はバスケットボールくらいだ。ってことは、いつぞやのオトジャ(仮)はやっぱり魔術師としても高レベルだったんだろうな。性根は腐ってたけど。

 飛んでいった火球は矢と同じように腹に吸い込まれて消えた。先程と違うのは、少ししてその表面が波打つように歪んだことだ。ちらっと炎も見えた気がする。

 で、ここまでやっても大型魔族に変化はない。あの腹への攻撃はダメージになってないようだ。

「てことは、あの部分、ゲート的な何かなんだろうな」

 あくまであの大型が通常型を産んでいるなら、今までの攻撃でその生産機能を持つ部分である腹は損傷していてもおかしくない。でも無傷のままだ。だったら通常型はどこからやって来たのか。以前は女王が召喚してたんじゃないかなんて予想を立てたりもしたが、女王そのものが転移門であり、それを利用して他の魔族が出現してたんだろう。

「ん?」

 なおも考えていると、大型魔族の腹が動いた。鱗が閉じていく。そしてそこを庇うように腕が動いて覆った。何だ、腕とかもちゃんと動くんだな。表面に爪が無数に生えたような、刺々しい腕だ。

「防御を固めた、ってことかしら?」

 グンヒルトが言う。今までの攻撃で、あの『向こう側』に何か被害が出たとも考えられるな。となると、あっちは今の俺達の状況が分かってて門魔族(仮)を操作したんだろうか。それとも門魔族(仮)が独自の判断で? それにしては反応が遅すぎる気もするが。

「長居もできないし、そろそろブッ潰しに行くか?」

 ゴードンが提案してくる。そうだな、魔族発生についての検証はこれ以上は無理そうだし。どっちにしろ魔族殲滅が最優先目標だから、それだけは片付けなきゃならんし。時間を空けたらまた魔族が生えてくるかもしれない。

「よし、それじゃカーラ先生、シェーナ先生、でっかいのをぶっ放してやってください」

 予定どおり、遠距離から沈めよう。それで様子を見て、駄目なようなら近接に切り替えだ。

 カーラが詠唱を始める。シェーナはカーラの射撃と同時に射るようだな。番えたままの矢の先端には【強化魔力撃】らしき魔力の光が見える。

 大型魔族に変化はない。いや、目の赤い光が増してきたな。それに身体も少し大きく……?

「なあ、膨らんでないかあれ?」

 ゴードンの指摘のとおり、大型魔族の身体はゆっくりと膨らんでいた。それに従い目の光も強くなっていく。何だ、嫌な予感がする。こういう場合のお約束って――まさかっ!?

「全員伏せ――!」

 俺の声は、爆音に掻き消された。

 

「全員無事かっ!?」

 防御を解いて状況を確認する。爆発自体は広範囲ではなく、吹き飛ばされるようなこともなかった。

「ちっくしょう、やってくれるっ」

 右太腿に突き刺さった黒い塊がある。大型魔族の身体の一部だ。あの野郎、自爆して自分の身体の破片を撒き散らしやがったのだ。一つ目熊の革だけじゃ防げるもんじゃない。修理の時に、胴部分と同じようにこっちにも魔鋼を仕込んでもらうか。

 血は出てるが瘴気毒の影響はない。引き抜くと出血が増したが、ポーションを出して飲むと傷はすぐに回復を始めた。傷が深くなくて助かったな。

 爆発した大型魔族はほとんど原形を留めていない。腹の部分は完全に潰れていて、どうやっても後続の魔族が出てくる様子はない。

「な、何とかね……」

 額を押さえながらグンヒルトが立ち上がった。頭をやられたのか?

「大丈夫よ、咄嗟に斧で防いだから。衝撃で弾かれた斧の腹が額にぶつかっただけ」

 こっちの視線に気付いたグンヒルトがそう言って、額から手をどける。赤くなってるだけで出血とかはないな。破片の直撃だったらやばかったかもしれんけど。

「こっちも大丈夫だ」

 ゴードンが手を挙げて無事を知らせてくる。と言っても、彼の盾はボロボロで、足元に魔族の破片らしい物が落ちていた。盾に刺さってる破片もあるな、ってあの位置だと腕まで届いてるんじゃないか?

「左腕は無事じゃないだろ?」

「ガントレットは抜けたけど軽傷だ。行動に支障はないな」

 本人がそう言うなら大丈夫か。無理をしてる様子はないし。後はミシェイル達――

「ミシェイルくんっ!」

「ミシェイルっ!」

 悲鳴にも似たカーラとシェーナの声が広間に響いた。慌ててそちらを見ると、盾を構えたミシェイルの姿がある。ただし、魔族の破片が彼の身体を貫いていた。

 急いでそちらへ駆け寄って、崩れ落ちそうになるミシェイルを支えた。爪のような破片が盾を貫通して右胸から背中に抜けている。

「ミシェイル! しっかりしろ!」

 声をかけるも返事はない。死亡判定は出てないが、このままだと時間の問題だろう。瘴気毒も回ってるはずだ。措置は急がなきゃならないだろう。

 しかしどうするか。解毒ポーションはあるが、この場で治療して大丈夫なのか? というかこの破片を抜いて大丈夫なんだろうか。こういうのって、抜かない方がいいんだったか? でもそれだと解毒措置ができんし。俺とミシェイルじゃ、状況もダメージも生命力も違うからな。ぶっこ抜いて解毒してポーション飲ませてで本当にいいのか自信がない。

「ミシェイルくん、わたし達を庇って……」

 泣きそうなというか、泣きながらカーラが言った。そういやミシェイルは彼女らの前にいたな。

 死んでも復活するって言っても、やっぱり死なせるのは嫌だ。カーラは当然として、泣きこそしてないが悲しげな顔のシェーナもそうだろう。だったら、できる限りのことはしなきゃな。

「グンヒルト、念のために大型魔族が完全に沈黙してるかどうかの確認を頼む。俺はミシェイルを上まで運ぶ。治療するにしても、ここだとよくないだろうから」

 ここの瘴気は相変わらずだし、時間が経てばロードスの防御も切れるからな。処置は地上でやった方がいいだろう。

 ありったけの瘴気毒用ポーションを傷口にかけておく。気休めだが少しは瘴気毒を抑えられるかもしれない。

 ミシェイルを抱き上げてから両足に【魔力撃】を起動。【魔力制御】で脚力を更に強化する。地上までの通路が一直線だったのは幸いだ。速度を落とさなくて済むからな。

「少しだけ辛抱してくれよミシェイル」

 多分聞こえてはいないだろうが、そう声を掛けて、全力で踏み出す。地面を踏み割り一気に加速し、俺は外へと向かった。

 

 

 

 ミシェイルの傷は、地上で従軍してた武神ヴァルモレの神官戦士が治癒魔法で治してくれた。瘴気毒の解毒も一緒にだ。これをプレイヤーが使えないという現状がとても残念だと思った。

 意識を取り戻したミシェイルは、文字どおり飛んで駆けつけたカーラとシェーナに怒られたり謝られたり泣かれたりして目を白黒させていた。爆発しろ、とは言わないでおいた。今後、大変そうだし。

 大型魔族の方は、念のためにとグンヒルトが細切れにしてきたそうだ。

 とりあえず、これで今回のイベントは終わりでいいんだろうな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ